9月26日

バーンスタイン作曲、《ウエストサイド物語》が初演された日(1957年9月26日)。シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』に着想を得て、当時のアメリカのタブーである人種間の差別などの社会問題も取り入れ、8年7カ月に及ぶ制作期間を要した。また今では当たり前となっている〝ひとりの俳優が歌とダンスの両方をこなす〟という表現方法は、本作によって確立された。
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West Side Story Original Broadway Cast Recording

Recorded 1959.9.20.

  • Production
  • Opening Date: September 26, 1957
    Closing Date: June 27, 1959
    トニー賞 最優秀振付賞、舞台美術賞(1957年)


「悪魔の音程」が全曲を支配していて、オペラを抜け出たリアリスティック。

8年7ヶ月に及ぶ制作期間を要した ― とあるが、アニメ「十二国記」でNHKが仕切り直したように、準備期間が長くあったというところだろう。ワーグナーがジークフリートを森の中に置き去りにしたまま、楽劇「トリスタンとイゾルデ」と「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を完成させてから「リング」に戻ってきたように、それも倣うようにレナード・バーンスタインの代表作になる傑作に、「ウェスト・サイド・ストーリー」は仕上がることになったのだ。
バレエ「ファンシー・フリー」とそのミュージカル化「オン・ザ・タウン」で一緒に仕事をして気心が知れている振付家のジェローム・ロビンスからシェークスピアの「ロミオとジュリエット」を現代ニューヨークに場面を移したミュージカルを作るというアイデアの提案を、レナード・バーンスタインが受けたのは1949年1月のことだった。早速、脚本家のアーサー・ロレンツを引き込み、イタリア系カトリックのトニーとユダヤ教徒のマリアが宗教上の対立の中で悲劇的結末を迎えるという基本構想ができた。しかし、それぞれに忙しさが増して企画は浮いたままだった。バーンスタインがロレンツと再開したのは1955年。その当時ニューヨークのウェストサイドでアメリカの若者たちとプエルトリコから期待民の若者たちの小競り合いが社会問題となっていた。ジェームス・ディーン主演の映画「エデンの東」、「理由なき反抗」。マーロン・ブランド主演の映画「波止場」が注目される作品となっていた時分でもあった。イタリア系カトリックとユダヤ教の宗教上の対立より身近な問題となるところに目をつけて、プエルトリコ移民と白人の不良少年グループを対立団体として描くことに舵を切った。シェークスピアの「ロミオとジュリエット」を現代ニューヨークに場面を移しただけでなく、社会問題も取り入れたこのミュージカルは、作詞にスティーブン・ソンドハイムという最適任者を得るタイミングも重なる。バーンスタインは純粋なオペラも作曲しているが、筋や場面の雰囲気に関係なく声を張り上げるオペラの常識から抜け出したかった。ミュージカルの作曲に当たっても作詞家には恵まれないといけない。

シェークスピアの「ロミオとジュリエット」と比べて見ると、モンタギュー家のロミオは白人不良少年グループであるジェット団の創立者の一人で今は脱退しているトニー、キャピュレット家のジュリエットはプエルトリコ人不良少年グループであるシャーク団の団長ベルナルド(ティボルトに相当)の妹のマリアになり、マーキューシオはジェット団の現団長リフに相当する。「ロミオとジュリエット」ではロレンス神父が仮死状態になる薬を若者に渡したことが最後の破滅をもたらしてしまうが、ドラッグストアの親父(ドク)が設定されてもいた。ジュリエットはロミオのあとを追って短剣で自らの胸を突き刺してしまうが、このミュージカル映画ではマリアはそのような行為には出ない。「ロミオとジュリエット」の結末とは違い、ただ銃弾に当たったトニーの死を嘆くだけである。マリアはこれからも力強く生きていくことが予感される。

シェークスピアを現代のニューヨークに移したユニークなプロットは、筋道のわかりやすさを助け。青少年の非行や人種差別、貧富の差などの社会問題を取り入れた斬新さ、才人バーンスタインがラテン音楽やジャズを素材に使い、激しいリズムや変拍子を取り入れて全力投球した質の高い音楽。
「ウェスト・サイド・ストーリー」での音楽の白眉は決闘に向かう前のジェット団、シャーク団、トニー、マリア、シャーク団団長のベルナルドの恋人アニタによるクインテット(五重唱)でアンサンブルの中で歌われ始めた「トゥナイト」がトニーとマリアが非常階段で歌うシーンは「ロミオとジュリエット」のバルコニーシーンをなぞっていて、ミュージカルでも映画でも最高の見せ場となっている。

ニューヨークの下町ウェスト・サイドを舞台に繰り広げられた二つの非行少年グループの無意味な対立には、アメリカのかかえた移民たちの深い人種問題が強く訴えられていることは明らかである。映画冒頭部分で上空から俯瞰されるニューヨークの中心街から始まって、下町の風景を映し出していく映像作品としても、21世紀にヒットしている多くの映画に影響しているが、それはこの物語が単なる『ロミオとジュリエット』の伝説物語ではなくアメリカの現実の物語であることをほのめかしている。その深刻な現実物語をアメリカらしいダンスと歌のミュージカルで表現したところに映画がこのミュージカルをより高みに引き上げた真骨頂がある。
ベルナルド役のジョージ・チャキリス(アカデミー賞助演男優賞受賞)を含む3人のシャーク団が左足を高く上げる場面が有名だが、ニューヨークの雰囲気を醸し出している。このミュージカルと映画の見どころはダンスと歌である。決闘を前にしてそれぞれの心情を語る複数の歌が対位法を駆使して絡み合い、盛り上がるこの曲はそれまでのミュージカルでは無かった高みに達している。ミュージカルもオペラの序曲並みにダンス音楽が長く続いてから始まるが、映画としては冒頭長い時間を費やして二つの非行少年グループの対立のさまをダンスで描いているが、いずれの若者たちはいかにも楽しそうにダンスをしながら広場や街を飛び回る。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の追いかけっこシーンを見るたびに思い出させる。喧嘩をしているというよりは遊戯をしているような印象さえ受ける。筋の展開はない部分であるが警官の笛で喧嘩が制止されるまで、観客を結構楽しませてくれるのは特異に感じられようが、バーンスタインが書いたバレエ音楽と思えば腑に落ちる。

ミュージカルの「ウェストサイド物語」は1957年7月8日にリハーサルが始まったが、ジェローム・ロビンスの振付けは役者の身体能力の限界に挑戦する難しいもので、完璧を目指す彼の過酷なトレーニングは連日誰かが故障するまで続いた。振付での一人一人の動きは計算し尽くされており、カウントをしながら練習が行われたが、激しい踊りのため、特に初演時にはけが人が絶えず、代役が何人も準備され、公演中も毎日のようにメンバーが交代したそうである。9月26日にニューヨークのウィンター・ガーデン劇場でブロードウェイ初演されると、これまでになかった新しいミュージカルとして高い評価を受け、全米ツアーを挟んで千回を超えるロングランとなった。

ブルース、マンボ、チャチャ、、、ラテン音楽やジャズをいきいきと活かしきったバーンスタインの「悪魔の音程」さえ自在の作曲の腕前は秀逸で、ジェローム・ロビンスの振り付けの究極美。沢山の打楽器が効果的に使われ、楽しく、パワフルな音楽でバーンスタインの面目躍如といったところである。特にトランペットはシェイクやフラッターなど、 ジャズで使われる奏法を使って大活躍する。映画ではアニタ(リタ・モレノ アカデミー賞助演女優賞受賞)の華麗な踊りとリフ(ラス・タンブリン)の宙返りを含むアクロバットダンスが目立つ。オリジナル脚本のアーサー・ロレンツが演出に加わった2009年のリバイバル上演でも、新演出による衣装やセットが一新され、一部の楽曲の歌詞やセリフに、スペイン語を多く取り入れプエルトリコ人の若者の物語であることを強調しているが、ダンスナンバーはジェローム・ロビンスの振付のままで、今見ても全く古さを感じさせない完璧なものである。

リアルを追求した「ウェスト・サイド・ストーリー」ながら、映画 でのマリア役のナタリー・ウッドの声は吹き替えで、「マイフェアレディ」でオードリー・ヘップバーン、「王様と私」でデボラ・カーその他多数の吹き替えをしたマーニ・ニクソンが担当している。


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プロダクト・ディテール(オリジナル盤)

  1. レーベル
    COLUMBIA(CBS)
  2. 楽曲
    WEST SIDE STORY
  3. レコード番号
    OL5230
  4. 作曲家
    レナード・バーンスタイン
  5. オーケストラ
    ニューヨーク・フィルハーモニック
  6. 指揮者
    レナード・バーンスタイン
  7. 録音プロデューサー
    Goddard Lieberson
  8. アシスタント・プロデューサー
    Howard Scott
  9. 録音エンジニア
    Fred Plaut, Edward T. Graham
  10. 録音場所
    Columbia 30th Street Studio, NYC
  11. 録音日
    1957年9月20日
  12. 録音種別
    STEREO
  13. 製盤国
    US(アメリカ)盤
  14. リリース
    1957年9月。

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