34-19454

英"MADE IN ENGLAND BY THE DECCA" WIDE BAND ED3盤

  • Record Karte
    • Tracks A1 to A3 (Piano Concerto 1) recorded 16 - 22 April 1958 in the Sofiensaal, Vienna.
    • Tracks B1 to B3 (Piano Concerto 2) recorded 29 - 30 June 1959 in the Sofiensaal, Vienna.
    • Engineer [Uncredited] – Alan Abel (tracks: A1 to A3), James Brown (tracks: B1 to B3)
    • Producer [Uncredited] – Erik Smith.
    • The original version was released in 1960.

ベートーヴェンを聴く者にとっても最初に選ぶべきレコード。


 ―  文豪・夏目漱石が、明治34年ロンドンに留学していた時にヴィルヘルム・バックハウスを聴いている。同年11月20日付け、寺田寅彥宛て書簡で、漱石は明日の晩は當地で有名なPattyと云ふ女の歌を「アルバート・ホール」へきゝに行く積り。小生に音樂抔はちとも分らんが話の種故此高名なうたひ手の妙音一寸拜聽し樣と思ふと記している。当夜は、お目当てのイタリア人歌手、アデリーナ・パッティのほかにクララ・バットら男女3名の歌唱、ハープとピアノの伴奏、エルディナ・ブライのヴァイオリン独奏、それにバックハウスのピアノ独奏 ― グリーグとリストの小品を弾いている ― と盛り沢山の曲目であったので、個々の演奏がどれほど印象に残ったかは疑問である。鍵盤の獅子王と異名をとる日本でとりわけ人気の高いピアニスト、彼は早くから録音に熱心で、1908年からピアノ・ロールやSPレコードに録音をしている。戦前からSPレコードが輸入され、戦後の1954年には来日して演奏会が催されるなど、古くから日本人にも馴染みの深い存在でした。バックハウスのピアノは言い尽くされている通り、特徴が無いのが特徴といえるでしょうか。要は、テクニックをひけらかすわけでもなく、その澄んだ音色ともあいまって、ひどくシンプルなのです。でも、繰り返し聞いていると何か、そのピアノが、まるで、融通無碍の境地で、自由にベートーヴェンの音符と戯れているように、静かな所は静かに、激しいところは激しく聴こえて来るところが、彼の魅力と言えるでしょうか。このバックハウスを土台からしっかり支えているのが、壮年期で充実しかけたハンス・シュミット=イッセルシュテット。テンポも速く、劇的な演出はどこにもないが、曲が進むに連れて熱気を帯びてくる。当全集はバックハウスにとって二度目のものですが、堅牢な構築性と知的な解釈に裏打ちされた明晰な合理性、そのうえで示される雄大なスケール感と豊かな風格が醸し出す深い味わいは、古くから絶賛の声を浴び続けています。1959〜69年の録音半ばで、演奏会の最中に胸の痛みを訴えて他界。バックハウス晩年のステレオ録音による比類なく美しい名演です。晩年の「ピアノ・ソナタ全集」とともにバックハウスが遺したもう一つの遺産「ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集」。この巨匠にとって最後の「ベートーヴェン・協奏曲全集」になるであろうことを指揮者もオーケストラも噛みしめて、最高のサポートをしています。高名な老巨匠であるから、数えきれない回数演奏を重ねてきたはずですが5曲のピアノ協奏曲の個性が活き活きとしている。もちろん「皇帝」(Emperor)が、その名の通りの出来で、山ほどあるレコードの中でも最高峰のうちの一つ。しかし、是非耳を傾け聴きこんで欲しいのがメルヘン的な音楽空間を描き出した1番、2番。1958年ステレオ録音。バックハウスの洗練されたテクニックと、戦前の面影を留めたウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の響きがメルヘン的な音楽空間を描き出した名盤。シュミット=イッセルシュテット指揮ウィーン・フィルが作曲家の青春時代に相応しい希望に満ちたサポートを繰り広げています。第1番ハ長調のカデンツァやフィナーレ、第2番変ロ長調第1楽章あたりの颯爽として軽快な弾きぶりは、彼の年を忘れさせる程で、新鮮な魅力に満ちています。ベートーヴェンの若さが溢れているし、ベートーヴェンがその当時足場を固めていた煌びやかな社交界の雰囲気も醸し出しているとも思う。シュミット=イッセルシュテットの解釈であろうが、ウィーン・フィルの奏者達のバックハウスへの献身こそが活気を呼び起こしているのかもしれないと常々思います。この巨匠にとって最後のベートーヴェン協奏曲全集になるであろうことを指揮者もオーケストラも噛みしめて、最高のサポートをしています。ベートーヴェンを聴く者にとって最初に選ぶべきレコード。ベートーヴェンを弾く上でピアニストにとっても意識せざるを得ない録音。彼が生涯愛してやまなかったオーケストラ、ウィーン・フィルとのこの演奏もまた、ベートーヴェンの音楽の集大成として今なお不滅の輝きを放ち続けています。指揮を受け持つシュミット=イッセルシュテットも純正なドイツ音楽の響きを十全にオーケストラから引き出しており、まさに三位一体。王道をいく名演といえます。英デッカの録音は、バックハウスとウィーン・フィルのもっともよい響きの勘所を熟知、音圧が高く、音に密度と力がある。高域の空間と伸びは適度。低域は空間が広く、密度のある音。チェロをはじめとする弦楽器も温かい音色で、高低の分離も良いアコースティックな響きを伴って迫ってくる。ピアノの音色は気品に満ち、タッチの一粒、一粒が、その音色の一つ一つの変化が分かるまでに明瞭です。昔から定評あるセットで優れた演奏として信頼度の高さには絶大なものがあります。1958年〜1959年の間に録音された全集ですが、その音質は全く古さを感じさせず、各曲共に統一された音質で時間の隔たりを感じさせません。

戦争兵器の技術がもたらした音楽の快楽。


― 世界大戦への気配の最中、潜水艦ソナーのために開発された〝Hi-Fiサウンド〟はレコード・マニアに大いに喜ばれ「ステレオはロンドン」というイメージを決定づけた。

ステレオ録音黎明期1958年から、FFSS(Full Frequency Stereophonic Sound)と呼ばれる先進技術を武器にアナログ盤時代の高音質録音の代名詞的存在として君臨しつづけた英国DECCAレーベル。第2次世界大戦勃発直後の1941年頃に潜水艦ソナー開発の一翼を担い、その際に、潜水艦の音を聞き分ける目的として開発された技術が、当時としては画期的な高音質録音方式として貢献して、レコード好きを増やした。
英DECCAは、1941年頃に開発した高音質録音ffrrの技術を用いて、1945年には高音質SPレコードを、1949年には高音質LPレコードを発表した。1945年には高域周波数特性を12KHzまで伸ばしたffrr仕様のSPレコード盤を発売し、1950年6月には、ffrr仕様の初のLPレコード盤を発売する。
特にLPレコード時代には、この仕様のLPレコードの音質の素晴らしさは他のLPレコードと比べて群を抜く程素晴らしく、その高音質の素晴らしさはあっという間に、当時のハイファイ・マニアやレコード・マニアに大いに喜ばれ、「英デッカ=ロンドンのffrrレコードは音がいい」と定着させた。
日本では、1954年1月にキングレコードから初めて、ffrr仕様のLPレコード盤が発売された。その後、1950年頃から、欧米ではテープによるステレオ録音熱が高まり、英DECCAはLP・EPにて一本溝のステレオレコードを制作、発売するプロジェクトをエンジニア、アーサー・ハディーが1952年頃から立ち上げ、1953年にはロイ・ウォーレスがディスク・カッターを使った同社初のステレオ実験録音をマントヴァーニ楽団のレコーディングで試み、1954年にはテープによるステレオの実用化試験録音を開始。この時にスタジオにセッティングされたのが、エルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団の演奏によるリムスキー=コルサコフの交響曲第2番「アンタール」。その第1楽章のリハーサルにてステレオの試験録音を行う。アンセルメがそのプレイバックを聞き、「文句なし。まるで自分が指揮台に立っているようだ。」の一声で、5月13日の実用化試験録音の開始が決定する。この日から行われた同ホールでの録音セッションは、最低でもLPレコード3枚分の録音が同月28日まで続いた。
繰り返し再生をしてもノイズのないレコードはステレオへ。
1958年にヨーロッパや米RIAAのステレオ・レコードの規格として45/45方式を採用したのを期に、DECCAは自社で開発したV/L方式を断念し、ステレオ・レコードの標準規格となった45/45方式による同社初のステレオ・レコードを7月には、発売。
その際に、高音質ステレオ録音レコードのネーミングとしてFFSSが使われた。ffrr技術を受け継いだffss(Full Frequency Stereophonic Sound, 全周波数立体音響)を発表。以来、数多くの優秀なステレオ録音のレコードを発売。そのハイファイ録音にステレオ感が加わり、「ステレオはロンドン」というイメージを決定づけた。Hi-Fiレコードの名盤が多い。
録音自体は早く1955年7月、世界初のステレオによるワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」全4部作を録音を皮切りに、米RCAビクターへの録音をステレオで開始してLiving Stereoシリーズは大成功する。
レコードのステレオ録音は、英国DECCAが先頭を走っていた。1958年より始まったステレオ・レコードのカッティングは、世界初のハーフ・スピードカッティング。この技術は1968年ノイマンSX-68を導入するまで続けられた。

プロダクト・ディテール(オリジナル盤)

  1. 演奏者
    ヴィルヘルム・バックハウス
  2. オーケストラ
    ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  3. 指揮者
    ハンス・シュミット=イッセルシュテット
  4. 作曲家
    ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
  5. 曲目
    ピアノ協奏曲1&2番
  6. レーベル
    DECCA
  7. レコード番号
    SXL2178
  8. 録音種別
    STEREO
  9. 製盤国
    GB(イギリス)盤
  10. レーベル世代
    MADE IN ENGLAND BY THE DECCA WIDE BAND ED3
  11. レコード盤重量
    150㌘
  12. Stamper
    3W/2W
  13. 製盤年
    1959.
  • バックハウス&イッセルシュテット ベートーヴェン・ピアノ協奏曲1&2番 DECCA SXL2178
  • SXL2178

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ベートーヴェン:ピアノ協奏曲1
バックハウス(ヴィルヘルム)
ユニバーサル ミュージック クラシック
2017-12-01

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