1. Erich Leinsdorf
  2. 34-23866

身を焼いて、灰の下から美しく蘇る不滅の姿と、金鶏の言葉に翻弄され、国を滅ぼした愚王の醜態を風刺した2曲を、精華な演奏と録音で。

ロシアの2人の作曲家が〝鳥〟をモチーフに作曲した2曲のオーケストラ組曲を取り合わせたこの一枚は、エーリヒ・ラインスドルフとボストン交響楽団が築き上げた20世紀オーケストラ芸術の清華と思わせてくれる。これが、日常生活の中で在る鳥ではなく、使命や宿命を担っている特別な鳥なのです。独自の編曲版によるバレエ音楽《火の鳥》と色彩感豊かなオペラからの《金鶏》組曲の名カップリング。ストラヴィンスキーの組曲《火の鳥》は、バレエ音楽全曲から、ストラヴィンスキーが自身でオーケストラで演奏するために編んで出版した3つの組曲のいずれとも異なった独自の形をとっており、編纂者のクレジットはありませんが、初演指揮者ピエール・モントゥーが実演で取り上げていた『組曲』を手本にしているようで、基本的には、1911年版の組曲をベースとしながらも、最後の『子守歌』と『フィナーレ』を1910年のバレエ全曲版から補っているというもの。組曲《金鶏》は、リムスキー=コルサコフが書いた最後の歌劇から編まれたもので、『4つの音楽的絵画』という副題が付せられています。どちらもラインスドルフの音楽性には最適の作品であり、期待通りの名演盤に仕上がっています。
金鶏は天鶏、この天鶏が夜半先づ暁を報じて然る後地上の鶏之に倣つて鳴く。 ― 朝鮮王朝李太祖が王位に就く歴史物語の背景に登場する金鶏。金鶏が棲むという鶏龍山は、『朝鮮の風水』において、大極を備えた極めて稀な山として有名である。
《金鶏》(Le Coq D'or)はニコライ・リムスキー=コルサコフが書いた最後のオペラ作品です。原作はアレクサンドル・プーシキンのおとぎ話からとられていて、愚鈍なドドン王が、危機が迫るとそれを知らせるという金鶏を献上した占い師に翻弄されて、国を滅ぼしてしまう御伽オペラです。「隣国の侵入に悩まされているドドン王に一人の星占師が危急の時に鳴く金鶏を献上した。戦いが起こり、王は東方のシェマハの女王を獲得して凱旋するが、星占師が報酬として女王を要求したのを王が拒んだため、金鶏が舞い降りて王をつつき殺す。」という民話を題材にしている。
架空の国の王ドドンは、ふがいない2人の王子グヴィドンとアフロンの存在と、何事にも反対する大臣ポルカンとの諍いのためか、最近、国を支配することに疲れてしまいました。しかし外国からの侵攻の気配に心を痛めたドドン王、ついには怪しげな星占い師の言葉を信じ、国の采配を全て『金鶏』のお告げに従って進めることにしましたが…。
ところが、この王さえ優柔不断な愚鈍な性分。金鶏に「寝ころんで治めろ」と言われれば政務全てを放り投げては眠り込んで見たかと思うと、次は「気をつけろ」と言われると気乗りのしない両王子に出陣を命じます。再び「寝ころんで治めろ」と金鶏に言われると再び眠り込んで見知らぬ美女の夢を見ている間に事態は展開。再び金鶏が「気をつけろ」と叫ぶと夢を破られ飛び起きたドドン王は出陣するのですが、戦場に着いたときには先に派遣した軍隊は壊滅していて、両王子もまた互いに差し違えて命を落としていました。
驚いたドドン王は敵を探して大砲を撃ち込もうとするのですが、そこにシェマハの女王が4人の女奴隷を従えて登場。立ちふさがった、その美しさにすっかり魅了されたドドン王は戦闘放棄、シェマハの女王の前に跪いて、「国も自分もお前のもの、都で一緒に暮らそう」と申し出てしまう始末。出発の支度をする中、女王の女奴隷たちはドドン王を嘲笑する歌を歌うが、王は有頂天で兵士たちに「花嫁と凱旋だ」と告げ、兵士たちの万歳の合唱となる。
終幕。ドドン王の宮殿前に不安に駆られた都の民衆が集まっているが、金鶏は鳴かない。王都に帰還した王に、星占い師が褒美としてその女王を求めるのですが、ドドン王は星占い師の頭を打ちすえて殺してしまいます。途端に雷がとどろき、シェマハの女王が不吉な笑い声を上げるや、ドドン王を化け物と嘲り、お前もお前の馬鹿な国民も消えてしまえと叫びます。そして、金鶏が突然耳をつんざくような鳴き声で「爺の頭を突っつくぞ!」と叫びとドドン王の頭を突いて殺してしまうのです。
やがて辺りが暗闇に包まれるとシェマハの女王は笑い声とともに消え、金鶏もいなくなり、最後は民衆だけが取り残されてしまいます。これで終わりではなく、幕は下りきらず王に頭を割られて殺されたばかりの星占い師が現れて、「お話はお終い。悲惨な結末を畏れなくてもいい。何故なら実在したのは私と女王だけ。残りは幻さ。」と告げ、観客に一礼して姿を消すというエピローグが最後に付け加えられます。
おとぎ話とはいえプーシキンの原作をもとにした、リムスキー=コルサコフの最後の歌劇《金鶏》は、ロシアに長く続いてきた皇帝崇拝の幻想は打ち砕かれはじめたことを示唆することを連想させる、明らかに当時の帝政ロシアを批判した風刺的なストーリーであったために初演が許可されず、紆余曲折を経てソロドヴニコフ劇場で(1909年10月7日にエミール・クーパー指揮により)初演された時には、すでにリムスキー=コルサコフは(作曲から僅か9か月後の1908年6月21日に)この世を去っていました。リムスキー=コルサコフは、いつものようにオペラを書くとその短縮版とも言うべき演奏会用「組曲」を書くのが常であり、手始めに全曲のうちから「序奏」と「婚礼の行列」を抜き出して編曲し、1908年2月16日にパリで開催されたロシア音楽演奏会でフェリックス・ブルーメンフェルトの指揮により初演を行っています。さらに今日演奏される内容とほぼ同じでしたが、全曲を途切れなく演奏する単一楽章に仕上げるつもりだったようなのですが、急逝。リムスキー=コルサコフ未亡人の要請により、未完成だった部分は5人組の仲間であったグラズノフと娘婿のシテインベルクによって当初の構想を受け継いで補筆、完成されました。
《金鶏》は、この作品の持つ現代性と劇的な想像力を刺激します。ニコライ・アンドレイェヴィチ・リムスキー=コルサコフ(1844年3月18日(ユリウス暦3月6日)〜1908年6月21日(ユリウス暦6月8日))は、ロシア五人組の一人で、色彩感あふれる管弦楽曲や民族色豊かなオペラを数多く残した作曲家です。ストラヴィンスキーやプロコフィエフを輩出した「ロシア楽派」の実質的な創始者であり、ボロディンやムソルグスキーを世に紹介した功績は大きいといえます。
昭和のはじめ、クラシック音楽愛好家には旋律の持つ異国情緒、日本の音曲と似たところのある華やかな響きで馴染みがあったロシアの作曲家、リムスキー=コルサコフ。英米では「Hymn to the sun」のタイトルになってヴァイオリン独奏曲に編曲もされて親しまれていた、オペラ 《金鶏》の第2幕で、シェマハを統治する女王ツァーリツァがドドン王に向けて歌う〝太陽への賛歌〟。シェマハの侵略に失敗したドドン王は、この歌とシェマハの女王の美しさに完全に魅了されてしまいます。SPレコード時代から、LPレコードがステレオになってしまう頃まで、愛されてきた歌曲でした。可憐な歌声のリタ・シュトライヒが「オペラ・アリア集」での歌唱は神秘的を帯びた良さで、格別に魅力的でした。
Ответь мне, зоркое светило
  • 応え賜え 鋭き陽光で
  • 東方から 来た そなた
  • 我が故郷を 訪れたか
  • 幻想的な 夢の故国を
  •  
  • バラの花は まだ 輝いているか
  • ユリの花園は 燃えているか
  • ターコイズ色の とんぼは
  • 萌え立つ草木に キスしているか
  •  
  • 夕暮れ時 池のほとり
  • 乙女や淑女の 慎ましき歌
  • 相も変わらず 素晴らしき 静けさ
  • 愛とは 禁じられた 情熱の夢か
  • 相も変わらず 愛しき御方は 偶然か
  •  
  • 準備はできているか
  • 贈り物に ささやかなご馳走
  • 秘めた美貌 恥じらいのベール
  • 秘めた美貌 恥じらいのベール
  •  
  • 夜は 青みを増して
  • 彼のもと 恥も恐れも 共に忘れ
  • はやる心 若き女王
  • こぼれ落ちる 甘美な告白
  •  
  • はやる心 若き女王
  • はやる心 若き女王
  • こぼれ落ちる 甘美な告白

ウィーン生まれの巨匠、エーリヒ・ラインスドルフ(1912〜1993)は、1962年にシャルル・ミュンシュの後任としてボストン交響楽団の音楽監督に就任、1969年まで7シーズンにわたってその地位にあり、精密精緻を極めた指揮で、私情を排したストレートな音楽作りを行ない、前任者と際立った対照をなしました。
戦前のザルツブルク音楽祭でアルトゥーロ・トスカニーニのアシスタントをつとめたことからもその音楽性が窺い知れようが、レパートリー面でも、ミュンシュがあまり取り上げなかったハイドンやモーツァルトなどの古典派、ブルックナー、マーラーやプロコフィエフの作品を積極的に演奏して、オーケストラの機能をより多彩に拡大しています。
録音面では、ボストン在任中、モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームス、シューマン、ブルックナー、マーラー、プロコフィエフの交響曲、ワーグナー、コダーイ、ストラヴィンスキーの管弦楽曲、アルトゥール・ルービンシュタイン、ジョン・ブラウニングらとの協奏曲、モーツァルト、ブラームス、ヴェルディのレクイエムにいたる、大量の録音をRCAに残しています。
ラインスドルフのボストン響録音は、LPレコードではRCAが開発したばかりのダイナグルーヴ・システムでカッティングされていたため、ひずみ感を少なくするためダイナミック・レンジが平均化されてしまう傾向があり、音の立ち上がりの鋭さや迫力面では、その真価が十分に認識されませんでした。
しかし、リビング・ステレオ期の経験を経て完成の域に達していたRCAの3チャンネルの収録技術は、ラインスドルフの指揮が生み出す多彩な木管の色彩感や、規律の取れたボウイングによるしなやかに引き締まった弦楽パートの響きなどを余すところなく捉え、音響効果抜群のボストン・シンフォニー・ホールに響くオーケストラの細部の明晰さとマスの迫力の絶妙なバランスを再現することが出来ていました。重低音、コントラバスの地鳴りのような音が迫って来るように始まる《火の鳥》。「フィナーレ」でもとても音の抜けがよく、ダイナミックレンジが広いと折り紙付きに違わぬ光彩陸離たる大迫力の圧巻である。《金鷄》も「行進曲」の輝かしさだけでも高評価できる。ミュンシュや小澤征爾に比べて、ラインスドルフ時代のボストン響録音は注目に値する。
  • 演奏:エーリヒ・ラインスドルフ指揮、ボストン交響楽団
  • 録音:1964年4月23、24日ボストン、シンフォニー・ホール。
  • プロデューサー&エンジニア:リチャード・モア&アンソニー・サルヴァトーレ
  • 3チャンネル録音。初出:LSC-2725(1965年1月発売)、日本盤初出:SHP-2725(1965年4月発売)。これは1965年に出た最初のモノラル盤です。


Firebird and Le Coq d'or
  • Side-A ストラヴィンスキー:バレエ組曲『火の鳥』
    1. イントロダクション~カスチェイの魔法のかかった庭
    2. 火の鳥の登場
    3. 火の鳥の踊り
    4. 火の鳥の嘆願
    5. 黄金の果実とたわむれる王女たち
    6. 王女たちのロンド
    7. カスチェイら一党の凶暴な踊り
    8. 子守歌
    9. フィナーレ
  • Side-B リムスキー=コルサコフ:歌劇『金鶏』組曲
    1. 宮殿のドドン王
    2. 戦場のドドン王
    3. ドドン王とシェマハの女王の踊り
    4. 行進曲(婚礼の祝宴とドドン王の哀れな末路と死)

販売レコードの写真

  1. US RCA LM2725 ラインスドルフ ストラヴィンスキー・火の…
  2. US RCA LM2725 ラインスドルフ ストラヴィンスキー・火の…

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Scheherazade / Russian Easter Overture / La Mer
Leinsdorf
Angel Records
2000-05-27


Rite of Spring, Firebird Suite
Leinsdorf
RCA
1991-04-05


Mozart: The Symphonies
Erich Leinsdorf
Deutsche Grammophon
2005-12-08


コダーイ:ハーリ・ヤーノシュ&「孔雀」による変奏曲 [XRCD]
ラインスドルフ(エーリッヒ)
日本ビクター
2007-07-25


Milestones of a Legendary
Leinsdorf, Erich
Membran
2020-01-03



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