34-28288

定番を聴く。

ソ連のダヴィッド・オイストラフとアメリカのアイザック・スターンが巨匠として並び称された冷戦時代、次々とレコーディングされたヴァイオリン協奏曲の中でも、スターンの代表作の一つ「メン/チャイ」。今あらためて聴いても50年代〜60年代のスターンは、その安定感と美しい音色は際立っていると感じました。名盤と言って良い一枚ですがベストセラーゆえ、市場に比較的たくさんあって値段はこなれています。ただし程度の良い6EYESは入手困難で、それなりに高価です。

若い頃のアイザック・スターンは本当に美しい音と、不安を感じさせない表現をしていました。それが、良い形で現れたのがこのメンデルスゾーンです。スターンのヴァイオリン演奏の音色は美音というより、時に荒々しく、豪放磊落。それはハイフェッツにはないものだったと思われます。ヤッシャ・ハイフェッツはスターンの登場により、自分のテクニックを鍛えなおす為に演奏活動を中断して1年間練習したそうですが、ハイフェッツがオイストラフを意識して、オイストラフはスターンを意識して、それぞれが刺激し有って、それが巡り巡ったのです。そもそもハイフェッツが大衆向けの最高のパフォーマーなら、オイストラフは、より深い作品の表現を求めたのに対して、スターンは専門家的な分析から必要以上の脚色を避けた演奏が多いと三者三様。ハイフェッツはアグレッシブ ― 積極的で刺激的。テクニックではスターンの演奏に、いつも鳥肌が立ちます。それは自分の音楽性に絶対の自信が感じられる。多少、人を見下したぐらいの余裕の表れでしょう。そこに、イツァーク・パールマンやピンカス・ズーカーマンから人望厚く慕われているところ。

エンジニア一丸となった堂々とした表現、甘さの無い音色。何よりソロ、楽団の演奏に聴く者の心に直接突き刺す説得力がある。

その昔、クラシック音楽が特別なものだった時代がありました。1950年代~60年代が顕著で、「偉大な」、「世紀の」、「完璧」、「この上ない」、「巨匠」などの文字が躍った時代です。既に忘れ去られてしまった人も少なくない中で、この時代に活躍して今も名を残すふたりのヴァイオリニストがいます。旧ソビエトのダヴィド・オイストラフ(David Oistrakh 1908~1974)とアメリカのスターン(Isaac Stern 1920~2001)です。教養主義、レコードの普及、コマーシャリズム、米ソの冷戦に伴う文化政策などと、レコード文化と経済成長や演奏家は国の戦略とも無関係ではなかったのでしょうが。この時代は、皆が本気で「芸術」の存在を信じていた時代です。それは演奏家にも、レコードを作るエンジニアにも感じられるところですが、彼らの堂々とした表現、甘さの無い音色は、1960年代のスターンはヴァイオリンの世界で「大国」を背負って立っていたことと無関係では無いと思います。「強い存在」が失われた現代には見られないタイプの演奏家と言って良いでしょう。スターンの演奏は技術的にも安定しており聴きごたえがあります。スターンのメンデルスゾーンの録音は複数ありますが、おすすめはユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団との共演(1958年録音)が、聴く者の心に直接突き刺す説得力がある。それは良い映画や舞台の緊張感に似て、しなやかで美しい音でありながらも辛口で硬派の内容になっている演奏です。
  • Record Karte
    • 1958年録音。

CDはアマゾンで

メンデルスゾーン&チャイコフスキー : ヴァイオリン協奏曲
スターン(アイザック)
ソニー・ミュージックレコーズ
1999-07-01



Blu-spec CD ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ほか
スターン(アイザック)
SMJ(SME)(M)
2008-12-24



四季*合奏
スターン(アイザック)
ソニー・ミュージックレコーズ
1993-10-10



関連記事とスポンサーリンク