デッカ契約歌手のオールスター・キャスト ― 「マリア・カラスのヴェルディ・ヒロイン」に25日朝に『若い時は理解し難いものでしたが、時代を超えてオーディオ装置と思考の変化で、最近やっと良さが解るようになりました。』とメッセージを受けましたが、カラスが圧倒的なディーヴァとしてベルカントの多くを復活させた試み。それでも、ロッシーニの復興がクラウディオ・アバド指揮による一連の録音ではじまるまで待たなくてはいけませんでした。ベッリーニのオペラ「ノルマ」で圧倒的な歌唱を残したカラスであっても、ベッリーニに関しては原典に遡っての検証はほとんど行われていなかったこと。上演やレコーディングも復興というよりも、修復、あるいは再構築といったものでした。さて、ジョーン・サザーランドもポスト・カラスの一人であり、カラスが取り組めなかったものへにも食指を伸ばした一人。そして何しろ、リチャード・ボニングはグノーのオペラ「ファウスト」の録音が出世作となった指揮者です。カラスの劇的な役柄との一体感。それは、何人をも納得させるそれでしたが、サザーランドもモンセラート・カバリエも強固な声であっても、そうした強さではなく、もっと声楽的な美しさといった方面を追求していきました。特に高音の魅力。カラスにとっては「ノルマ」、プッチーニの「トスカ」があり、サザーランドにはヘンデルの「セミラーミデ」、そして、本盤でも共演したマリリン・ホーンもまた大いなる誤解を受けた歌手が集っています。1926年生まれのサザーランド、それはカラスとは3歳しか違わず、活動期間の驚異的な長さ、結局、オペラにしろ、しばし指摘された歌詞の分かりにくさは、歌のフォルムを優先するというところからきたものでしたし、まず突出した能力の高さは残された録音だけを聴いても分かるものです。1853年にローマのアポロ劇場で初演されたヴェルディのオペラ『イル・トロヴァトーレ』は、このあとに書かれた『椿姫』とまではいかないにしても、ヴェルディの人気オペラのひとつです。ただし第一級の作品にしては台本が複雑な15世紀のスペインの因縁話で、主役たちの人間関係の描き方も不徹底なところがあるのと、その主役にさまざまな声域の名歌手を揃えなければならないという点で、なかなか優れた舞台や録音が出てきません。その点、サザーランド、ニコライ・ギャウロフなど豪華な顔ぶれと、サザーランドの夫君ボニングの精妙な指揮によった本アルバムは、この時代の記録として貴重なものです。1970年代のデッカ契約歌手のオールスター・キャストで録音された『イル・トロヴァトーレ』ですが、やはり聴きどころは全盛期のルチアーノ・パヴァロッティ。ボニングの奥様サザーランドも全盛期は60年代と言われますが、まだまだ素晴らしい声を聴かせてくれます。加えて、バレエ付きのオリジナル版での録音。ボニングの魅力はこうした作品をオリジナル版で演奏するこだわりにある。
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リチャード・ボニング(Richard Bonynge)は1930年、オーストラリアのシドニー生まれの指揮者。ジョーン・サザーランドとのおしどり夫婦は有名。ドイツ系のレパートリーは中心には据えていないが、モーツァルトやウィンナオペレッタには比較的熱心であり、DECCAには夫人とのオペラ録音があります。 一方、バレエ音楽の指揮も得意としており、DECCAには珍しい曲目を含めて多数のバレエ音楽録音があります。生地でピアノを学び、14歳でグリーグのピアノ協奏曲を弾いてデビュー、ピアニストへの道を歩んでいた。1950年に渡米、ロンドンの王立音楽院に留学、ロンドンでピアノのリサイタルを開く一方、同じオーストラリアから王立音楽院に留学していたソプラノ歌手、サザーランドとの出会いによってオペラの世界に魅せられ、指揮者に転向する。1954年、名ソプラノ歌手サザーランドと結婚、伴奏者兼ヴォイス・トレーナーを務めながら、ベル・カント・オペラの研究を続ける。この方面で忘れられていた作品の復活蘇演に尽力している。またワーグナー・ソプラノを目指してソプラノ歌手を目指したサザーランドにコロラトゥーラに転向するよう助言したのもボニングで、ロイヤル・オペラ・ハウスが夫人サザーランドにワーグナーやリヒャルト・シュトラウス作品の役を与えようとした時、ボニングは歌劇場当局に抗議したという。1962年にローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団で指揮デビュー、1963年にはヴァンクーバー歌劇場でグノーの歌劇『ファウスト』を振ってオペラ・デビュー、さらにその翌年にはロンドンのコヴェントガーデン王立歌劇場、国際的な活動を開始し、オペラ指揮者として不動の地位を獲得する。1970年にニューヨークのメトロポリタン歌劇場にデビュー、ヴァンクーバー歌劇場を経て、1976~85年シドニー歌劇場の音楽監督を務めた後、フリーとして活躍、バレエのスペシャリストとしても知られている。1975年にメトロポリタン歌劇場に帯同して初来日、1978年にもサザーランド夫人のリサイタルの伴奏指揮者として再来日している。
ルチアーノ・パヴァロッティ(テノール)、ジョーン・サザーランド(ソプラノ)、マリリン・ホーン(メッゾ・ソプラノ)、イングヴァール・ヴィクセル(バリトン)、ニコライ・ギャウロフ(バス)、ノーマ・バロウズ(ソプラノ)、グレアム・クラーク(テノール)、ウィンフォード・エヴァンス(バリトン)、ピーター・クナップ(テノール)、ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団 ロンドン・オペラ合唱団、指揮:リチャード・ボニング。1976年9月ロンドン、キングズウェイ・ホールでのレイ・ミンスハル&ケネス・ウィルキンソン、ジェームズ・ロックによる録音。3枚組。
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