熱を持って表現するミュンシュがドライヴするパリ・コンセバトワールの燃焼ぶりは、永遠に色褪せることがない。

ミュンシュは音楽が持っているストーリー性を、物語の様な視点で語りかけてくる。この《幻想交響曲》のロマンティックな曲想は、ベルリオーズの実体験にもとづいたストーリーあってのものだということを、熱を持って表現する。それが度を越すケースが多いのだけど、熱を持って表現する。エクトル・ベルリオーズの《幻想交響曲》とヨハネス・ブラームスの「交響曲第1番」でのミュンシュがドライヴするパリ・コンセバトワールの燃焼ぶりは永遠に色褪せることがない。指揮者ミュンシュの決定版と言えば、この2つに止めをさすだろう。
指揮者シャルル・ミュンシュのキャリアはヴァイオリニストからスタートしていますが、若かりし頃、ゲバントハウスのコンサートマスターに就任、その時の指揮者がヴィルヘルム・フルトヴェングラーだった。音大生なら誰もが真似をして、皆の議論の種にするあれである。毎日その巨匠の目の前に座って多くのことを習得したことから、しらずと例の拍子をぼかす内容重視の指揮法はフルトヴェングラーの指揮姿から身につけたものと推察出来ます。
ミュンシュは当時ドイツ領だったストラスブルク出身であることから、れっきとしたドイツ人であるがゆえにブラームスなどのドイツモノまで得意としていたのは当然、彼の演奏で聞いても見たかったがヨハン・ゼバスティアン・バッハの音楽も熱愛していた。そのアイデンティティあってこそのベルリオーズなどのフランスモノでの情熱的な指揮ぶり、爆発的な熱気あふれる音楽表現で感動的。ミュンシュのザ・ベストとなれば、まずこれがあげられよう。
思うがままに棒の振れた充足感に溢れている。解釈は当然ながら徹底していて、ベルリオーズの標題性とドラマ性を思い切りよく描き出した。一度聴いたら忘れられない名演。指揮者と作曲家、指揮者と作品とが特別なきずなで結ばれている、そんな感銘に浸らせる名盤である。
ドラマティックな解釈も素晴らしいし、演奏にかける情熱、覚悟にもただならぬ気配が充満しているが、その背景にはこの名作だけが持つ真実性を、全身全霊をかけて明らかにしようとしたミュンシュの使命感があり、それが強烈な説得力となって演奏全体に輝きとスリルを与えている。そして、ミュンシュの美学を背負って立つフランスの腕利きの奏者が集結したパリのオーケストラも傑出、聴き手を演奏芸術の神髄に立ち会わせてくれる。座右の宝である。

ミュンシュもパリ管もデビュー戦。持ち前の大きく、粗っぽい程に、気合い、情熱が入りまくった演奏です。

フランスの名指揮者、シャルル・ミュンシュ(1891〜1968)がその最晩年に持てるエネルギーの全てを注いだのが、パリ管弦楽団の創設と育成でした。1967年6月、フランス文化相アンドレ・マルローと文化省で音楽部門を担っていたマルセル・ランドスキのイニシアチブにより、139年の歴史を誇りながらも存亡の危機を迎えていた名門パリ音楽院管弦楽団の発展的解消が行われ、新たに国家の威信をかけて創設されたのがパリ管弦楽団で、その初代音楽監督に任命されたのがミュンシュでした。
第2次世界大戦前にパリ音楽院管弦楽団の常任指揮者を務めていたミュンシュ以上にこの新たなオーケストラを率いるのにふさわしい指揮者はおらず、同年10月2日からの綿密なリハーサルを重ねてむかえた11月14日の第1回演奏会は、国内外に新しいフランスのオーケストラの誕生をアピールする大成功を収めたのでした。
その1年後、1968年11月、パリ管弦楽団の北米ツアーに同行中にリッチモンドで心臓発作のため急逝するまで、ミュンシュは30回ほどの共演を重ねるとともに、EMIにLPレコード4枚分の録音を残しました。その中の1枚がこのベルリオーズの《幻想交響曲》で、11月14日の第1回演奏会でも取り上げられた作品であり、EMIはそれに先だって4日間のセッションを組み、巨匠の叱咤激励(しったげきれい)のもと覇気に燃える新生オーケストラの息吹を捉えたのです。
仲間と音楽を作りたい。そう思ったのかどうか、若い時にオーケストラは組織し、自己流で指揮法を編み出した男の情熱の行き着いた終結点。

録音史上最もドラマティックな演奏へと結実。

ベルリオーズの作品は、シャルル・ミュンシュが得意としたフランス音楽の中でも最も定評のあったレパートリーで、中でも《幻想交響曲》は、ミュンシュが世界各地で取り上げたトレードマーク的な作品でした。作品に盛り込まれた感情のダイナミズムを余すところなく表現しきる思い切りの良さ、作品全体を俯瞰するスケールの大きさ、夢中になってのめり込んで行くようなクレッシェンドやアッチェレランドの激しさの点で、ミュンシュの幻想交響曲ほど熱い演奏は他にはありません。
このパリ管弦楽団との録音の前にすでに3回の正規セッション録音を重ねていることからも、その得意ぶりが判ります。パリ管弦楽団との〝最後の幻想〟は、老ミュンシュの豊富な演奏経験の蓄積と、最晩年に鮮やかに燃え上がった音楽への情熱が融合して、録音史上最もドラマティックな演奏へと結実したものです。
収録は、当時EMIでオーケストラ録音に常時使用していたサル・ワグラムで行われ、録音を手掛けたのは、名プロデューサーとして知られているルネ・シャルランと名エンジニア、ポール・ヴァヴァッスールのコンビです。ホールに分厚く渦巻く演奏の熱気が余すところなく捉えられています。


  • Record Karte
  • 1967年10月23日~26日パリ 、サル・ワグラムでの、ルネ・シャルラン&ポール・ヴァヴァッスールによる優秀録音、名演、名盤。いまだ決定盤の地位が揺るぎない、ミュンシュ最晩年の「幻想交響曲」。白熱の演奏とはまさにこのこと。もちろん、オーディオファイル盤としてもいまだ第一級。

販売レコードの写真

  1. JP 東芝(赤盤)AA8255 ミンシュ・パリ管 ベルリオーズ 幻想…
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