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ライナー=シカゴ響の残した数多くの名盤の中でも、最高の名に値する名録音 ―   昨年はスペイン・カタロニア生まれの作曲家エンリケ・グラナドス(1867.7.27~1916.3.24)の生誕150年でした。彼は 〝ピアノの詩人〟〝スペインのショパン〟と呼ばれ、ドビュッシーは、誰も簡単に忘れることのできない天才の心を持っていたと評しています。歌劇「ゴイェスカス」を成功させたアメリカツアーから帰国途上、グラナドスはUボートの攻撃で命を落とした。その間奏曲から幕開けるイメージさせるコンセプトを隠している選曲のアルバム。ハイライトのパブロ・カザルスの故郷、カタルーニャ (東北スペイン)出身のイサーク・アルベニス(1860〜1909)が晩年最後の5年間に作った全12曲からなるピアノ大作組曲「イベリア」はアルベニスの最高傑作に数えられ、ドビュッシーやメシアンからも称賛の的とされた。またラヴェルが管弦楽用に編曲することを考えていたが、作曲者の没後、友人であり指揮者でもあったエンリケ・フェルナンデス・アルボスが管弦楽化したため断念したとの逸話も伝えられている。アメリカRCAへのスタジオ録音が網羅的な上に秀演ばかりなので、フリッツ・ライナーとしては比較的珍しいスペイン音楽集。アルトゥーロ・トスカニーニとレパートリーも多く重なりブラームスの交響曲4番などを聴くとライナーがよりも厳格だったのでは、と思わせるくらい厳しい表情を見せています。シカゴ交響楽団の各パートの巧みなソロを引きたてながら、細部まで緻密に仕上げられた楷書体のユニークなスペイン音楽が楽しめる作品。シカゴ響と言えば、ゲオルク・ショルティの時代におけるスーパー軍団ぶりが記憶に新しいところだ。ただ、ショルティがかかるスーパー軍団を一から作り上げたというわけでなく、シカゴ響に既にそのような素地が出来上がっていたと言うべきであろう。そして、その素地を作っていたのは、紛れもなくライナーであると考えられる。もっとも、ショルティ時代よりも演奏全体に艶やかさがあると言えるところであり、音楽性という意味では先輩ライナーの方に一日の長があると言えるだろう。演奏自体は必ずしも深みのあるものではなく、その意味ではスコアに記された音符の表層を取り繕っただけの演奏に聴こえるのは、カール・ベームやヘルベルト・フォン・カラヤンら同時代の演奏と比べているからだろう。しかしライナーといえば金管楽器や木管楽器の力量も卓越したものがあり、異様に凝縮したオーケストラのアンサンブルの鉄壁さは言うに及ばず。全ての楽器が完璧なバランスで結晶化して鳴り響き、感動的なクライマックスを築いていました。シカゴのオーケストラ・ホールは、ボストン・シンフォニー・ホールよりも録音に向いていたようで、このホールで収録された1950年代・1960年代のライナー=シカゴ響の録音はいずれも高いクオリティに仕上がっており、オーケストラのトゥッティの響きと各パートのバランスの明晰さが両立した名録音が多いです。1958年ステレオ時代の到来と共に、RCAはライナー指揮シカゴ響と専属契約を結び、数々の名演奏を録音しました。〝Living Stereo〟は最も自然でありスリリングな録音で、現在でも他の録音に全く劣らないものです。製作陣はRCAの一軍、リチャード・ムーア&ルイス・レイトン。個々のパートまではっきり分離するステレオは、生の音とはやや趣を異にするとはいえ、やはりすごい。スタジオ録音とはとても思えない熱気を孕んでいる。一発取りをしたとしか思えない怒濤の極みです。アンサンブルを引き締めながら、強靭な造形が生む緊張感の素晴らしさがハッキリと感じ取れます。
グラナドス:歌劇 「ゴイェスカス」 ~間奏曲、ファリャ:バレエ「三角帽子」より 1)隣人たちの踊り 2)粉屋の踊り 3)終幕の踊り、歌劇「はかなき人生」~間奏曲と踊り、アルベニス(アルボス編):組曲「イベリア」~トゥリアーナ、セビリアの聖体祭、ナバーラ。1958年4月26日シカゴ、オーケストラ・ホールでの録音。Producer – Richard Mohr, Engineer – Lewis Layton
GB RCA|DECCA VICS1294 フリッツ・ライナー ファ…
GB RCA|DECCA VICS1294 フリッツ・ライナー ファ…
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Fritz Reiner, Chicago Symphony Orchestra ‎– Spain
  • Side-A
    1. Goyescas: Intermezzo – Granados
    2. La Vida Breve: Intermezzo & Dance – Falla
    3. Dances From "The Three Cornered Hat" – Falla
  • Side-B
    1. Iberia: Navarra – Albeniz
    2. Iberia: Fete-Dieu A Seville – Albeniz
    3. Iberia: Triana – Albeniz
20世紀オーケストラ演奏芸術の一つの極点を築き上げた巨匠フリッツ・ライナー(Fritz Reiner, 1888.12.19〜1963.11.15)は、エルネスト・アンセルメ(1883〜1969)、オットー・クレンペラー(1885〜1973)、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886〜1954)、エーリヒ・クライバー(1890〜1956)、シャルル・ミュンシュ(1891〜1968)らと同世代にあたる名指揮者のなかで、19世紀の名残であるロマンティックな陶酔よりも、20世紀の主潮である音楽の客観的再現に奉仕した音楽家です。ブダペスト音楽院でバルトークらに作曲、ピアノ、打楽器を学び、1909年にブダペストで指揮デビュー。第一次世界大戦以前から、ブダペスト歌劇場(1911〜1914)、ザクセン宮廷歌劇場(ドレスデン国立オペラ)(1914〜1921)を経て、1922年に渡米しシンシナティ交響楽団(1922〜1931)、ピッツバーグ交響楽団(1938〜1948)の音楽監督を歴任。その後メトロポリタン歌劇場の指揮者(1949〜1953)を経て、1953年9月にシカゴ交響楽団の音楽監督に就任し、危機に瀕していたこのオーケストラを再建、黄金時代を築き上げました。その後、1962年まで音楽監督。1962/1963年のシーズンは「ミュージカル・アドヴァイザー」を務める。ライナー着任時のシカゴ響には、すでにアドルフ・ハーセス(トランペット)、アーノルド・ジェイコブス(チューバ)、フィリップ・ファーカス(ホルン)、バート・ガスキンス(ピッコロ)、クラーク・ブロディ(クラリネット)、レナード・シャロー(ファゴット)といった管楽器の名手が揃っており、ライナーはボルティモアからオーボエのレイ・スティルを引き抜いて管を固め、またメトロポリタン歌劇場時代から信頼を置いていたチェロのヤーノシュ・シュタルケル、コンサートマスターにはヴィクター・アイタイという同郷の名手を入団させて、「ライナー体制」を築き上げています。このライナーとシカゴ響は、ヘルベルト・フォン・カラヤン&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ジョージ・セル&クリーヴランド管弦楽団、ユージン・オーマンディ&フィラデルフィア管弦楽団などと並び、20世紀オーケストラ演奏芸術の極点を築きあげたのです。
録音史に残る名録音 ― LIVING STEREO

1950年代半ばから1960年代初頭、ステレオ技術にこそレコードの将来性を感じたRCAは積極的に2チャンネルおよび3チャンネル録音を推進。ライナー、ミュンシュ、モントゥー、ルービンシュタイン、ハイフェッツ、フィードラーなどの名演奏家たちの決定的な解釈が、ずば抜けた鮮度と立体感を誇る音質によって次々と録音されました。 1958年になってウエスタン・エレクトリック社によりステレオLPレコードの技術が開発され、同じ年、RCAはついに念願のステレオLPレコードを発売、『ハイファイ・ステレオ』の黄金時代の幕開けを告げたのです。 RCAのチーフ・エンジニア、ルイス・レイトンを中心に試行錯誤を経て考え抜かれたセッティングにより、ノイマンU-47やM-49/50などのマイクロフォンとRT-21(2トラック)やAmpex社製300-3(3トラック)といったテープ・デッキで収録されたサウンドは、半世紀近く経た現在でも、バランス、透明感、空間性など、あらゆる点で超優秀録音として高く評価されています。

フリッツ・ライナー=シカゴ響のRCAレーベルへの録音は、1954年3月6日、シカゴ交響楽団の本拠地オーケストラ・ホールにおけるリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」のセッションで始まりました。この録音は、その2日後に録音された同じリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」と並び、オーケストラ・ホールのステージ上に設置された、わずか2本のマイクロフォンで収録された2トラック録音にも関わらず、オーケストラ配置の定位感が鮮明に捉えられており、録音史に残る名録音とされています。これ以後、1963年4月22日に収録された、ヴァン・クライバーンとのベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番まで、約10年の間に、モーツァルトからリーバーマンにいたる幅広いレパートリーが、ほとんどの場合開発されたばかりのこのステレオ録音技術によって収録されました。ヤッシャ・ハイフェッツ、アルトゥール・ルービンシュタイン、エミール・ギレリス、バイロン・ジャニスなど、綺羅星のごときソリストたちとの共演になる協奏曲も残されています。いずれもちょうど円熟期を迎えていたフリッツ・ライナー芸術の真骨頂を示すもので、細部まで鋭い目配りが行き届いた音楽的に純度の高い表現と引き締まった響きは今でも全く鮮度を失っていません。これらの録音「リビング・ステレオ」としてリリースされ、オーケストラの骨太な響きや繊細さ、各パートのバランス、ホールの空間性、響きの純度や透明感が信じがたい精度で達成された名録音の宝庫となっています。