ロマンと形式と歌の見事な融合 ― メンデルスゾーン(1809~47)はショパンやシューマン、リストらロマン派の作曲家と同世代で、ピアノが飛躍的に普及し、傑作ピアノ曲が数多く作られた時代に活躍した。ロマン派といえば、豊かな表現のできるピアノやオーケストラのために数々の傑作が生み出された時代です。メンデルスゾーンが残したピアノ独奏曲は約200曲。そのなかでは、《無言歌集》が飛びぬけてポピュラー。他には、ピアノ協奏曲と独奏曲に加えて、ピアノ三重奏曲、交響曲、ヴァイオリン協奏曲、《フィンガルの洞窟》、など、ピアノ作品では《無言歌集》のほかに比較的有名な曲がいくつか。メンデルスゾーンがいなかったら、今日の私たちのバッハへの評価も違っていたかもしれないし、メンデルスゾーンがバッハのマタイ受難曲を復活蘇演した指揮者として音楽史に記憶されなかっただろうと予測できることと考えあわせると、お互いに時代を超えて切ってもきれない関係。メンデルスゾーンのバッハ復活演奏以後、ロマン派の巨匠達は、バロック音楽とりわけバッハの音楽を研究するため、バッハなどのオルガン作品を学び、オルガン演奏にも精通していたのです。1848年に残された書物には、若い音楽家へ向けて「オルガンを学ぶ事を怠ってはいけない。これほどに、音楽的に間違った習慣を正してくれる楽器は無いのだから」という言葉も残っています。ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作品は、メンデルスゾーンの芸術を語る上で欠く事もできない。メンデルスゾーンのピアノ曲と言えば、どうしても無言歌のイメージだ。「美しい旋律」「穏やかなイメージ」「さわやか」「素直」…こんなイメージがどうしてもある。「メンデルスゾーンは、銀行家の家に生まれ、何不自由なく育った」などと、教えられるものだから、《無言歌集》《ヴァイオリン協奏曲》《夏の夜の夢》の音楽からの印象も合わせて、マイナスイメージを抱いていたら、本盤は、是非聴いてもらいたい。メンデルスゾーンはバッハへ深く傾倒しており、この作品も、バッハの作品に習ってかかれている。バッハの形式と精神を受け継ぎながら、ロマン派の歌と情熱を重ねた素晴らしい曲が、ピアノ曲《6つのプレリュードとフーガ》である。短調と長調を交互にして6曲を配置しているので、明暗のコントラストが鮮やか。とりわけメンデルスゾーンらしい幸福感溢れる変イ長調の第4番以降は、ロマン派的な要素が強くなっているが、ロマン派の時代に生きたメンデルスゾーンが、バッハのフーガをどのように聴いていたのか ― どのような要素を重視して聴いていたのか、メンデルスゾーンとバッハ、それぞれの作品を比較してみると面白いかもしれない。メンデルスゾーンの音楽は、とにかく主題が素晴らしい。ベートーヴェンと比べると聴きやすいし、耳なじみも良いから下手すると浅くとりとめのない演奏に終わってしまいそうですが、深く掘り下げると本質が見えてくるはず。居心地は良いけれど決してBGMのようには聴き流せない、内容の濃い音楽です。
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フェリックス・メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn, 1809〜1847)は、裕福なユダヤ系のドイツ人家庭に育ち、豊かな教養と圧倒的なピアノの腕前を兼ね備えた神童として名を馳せました。14歳のクリスマスプレゼントに、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのオラトリオ「マタイ受難曲」の楽譜をもらった彼は、その6年後の1829年に自らその大作を指揮し、100年ぶりの再演を果たします。今でこそバッハの作品、この「マタイ受難曲」は世界中で演奏されていますが、当時は〝時代遅れの古くさい音楽〟として忘れ去られていました。これを機に、ロマン派の時代に再びその価値を取り戻したのです。メンデルスゾーンは本格的なオルガンの指導を受けており、ドイツやイギリスでバッハの前奏曲とフーガやコラール作品を演奏していたという記述も残っています。多くの演奏旅行を通して、バロック時代の名器やロマン派風に進化しつつある表情豊かなオルガンにも触れ、当時最先端のオルガン事情を仕入れていたと言えましょう。古典派からロマン派の時代への過渡期に生き、バロック的かつロマン派的情感の豊かさをもつ作風で知られています。オルガン作品としては、25歳頃から書かれた『3つの前奏曲とフーガ』、そして晩年に書かれた『6つのオルガンソナタ』が残されています。
マウリツィオ・ポリーニがショパン・コンクールで優勝後、英EMIに一時期録音しただけで姿をくらました。数年後にドイツ・グラモフォンで再登場してくるわけですが、その間、英EMIレーベルでショパン演奏を盛んだったピアニストが居た。お馴染みのミシェル・ベロフとジャン=フィリップ・コラールのディオ・ピアノ録音を筆頭に、クリスティーナ・オルティズといった、1970年代の英EMIは、若手ヴァイオリニストやピアニストの紹介に熱心だった。特にピアニストは鬼才として名前の残る演奏家が多い。現在も老ピアニストが活躍しているドイツ・グラモフォンのピアニストたちと比べると面白い傾向だ。アドニ(Daniel Adni)も録音が盛んだった。昨今クラシック・ソムリエや音楽CD検定が盛んだ、その設問に「32歳でコンサート活動をやめ、レコーディングに専念し、LP90枚以上を録音。メディアを活用し、録音芸術に新時代を開いたカナダ出身の鬼才ピアニストといえば?」と有る。もちろん、グレン・グールドですが、選択肢に「A.グレン・グールド、B.ダニエル・アドニ、C.サンソン・フランソワ、D.ディヌ・リパッティ」と名前が上がっているほど。1951年12月6日イスラエル生まれのユダヤ人ピアニスト。12歳でデビューして、ヴラド・ペルルミュテールに師事している。これまでに世界各地で演奏活動を行い、世界の主要な指揮者やオーケストラと共演してきた。来日して後進の指導には熱心だが、メジャーレーベルにレコーディングしていたのはこの時期だけのようだ。英EMIレーベルのピアノ録音では要所要所に彼の録音が目に留まる。「ショパンのピアノ名曲集」に欠かせぬだけに、ショパンの録音もひと通り残された。ほかに英EMIに録音したメンデルスゾーンの「無言歌集」のアルバムは定評のあったものです。「無言歌集」は、全8巻48曲に及ぶメンデルスゾーンの親しみやすい珠玉のピアノ作品集です。アドニの瑞々しい感覚が全編で聴きとれるメンデルスゾーン。この「無言歌集」は最初の曲「甘い思い出」を、ゆったりと、穏やかに弾き始めめます。これを聴き慣れると、他のピアニストの多くが、あっさりと味気なく感じるほどです。全体を通してゆっくりめで抒情的に聴かせてくれます。アドニの作為のない淡々とした表現は、このメンデルスゾーン作品にピッタリ。優しい音色がベースながら、時折見せる激しさとのコントラストが実に美しく、爽やかな詩情を豊かに描き出しています。ダイナミック・レンジの広い録音も優秀。程無く、ポリーニがドイツ・グラモフォンで人気となり、マルタ・アルゲリッチも登場。アドニはレコーディングから遠のいていった。
1977年録音。
YIGZYCN
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