34-13548

商品番号 34-13548

通販レコード→英カラースタンプ・ドッグ黒文字盤

若き日のベロフによる痛快な演奏です。 ― フロント(ソロ)と大きな力(オーケストラ)の鬩ぎ合いではなく、お互いが融け合って進む方向を作る小澤の音楽作りがそのまま生きている。大きなオーケストラに唯一人対峙する指揮者。NHK交響楽団や日本フィルハーモニー交響楽団との事件は彼の指揮者として目指していくスタイルを確信させた。「世界のオザワ」がはじめて持った、「自分のオーケストラ」はトロント交響楽団で、1965年秋に音楽監督に就任した。欧米の名門オーケストラを若いうちから指揮する機会に恵まれたのは、小澤が物珍しい東洋人であったからだろう。遡ること、レナード・バーンスタインがニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督と成っていた1960年。小澤はバーンスタインとパーティーで会うと、街に連れ出され、飲み明かした。小澤には知らされていなかったが、この時点で彼をニューヨーク・フィルの副指揮者にすることが内定していた。明るくスマートでアクも少なく、リズムの扱いもていねいで好感が持てる。このオーケストラは翌61年4月下旬に日本公演を予定しており、話題作りとして日本人を起用してみようと考えたらしい。 欧米のクラシック音楽の中心にはドイツ音楽精神が根強い。小澤の得意のレパートリーは何か、何と言ってもフランス音楽、そしてこれに次ぐのがロシア音楽ということになるだろうか。それは近年の松本でのフェスティバルでもフランス音楽がプログラムの核であることでも貫かれている。ロシア音楽について言えば、チャイコフスキーの後期3大交響曲やバレエ音楽、プロコフィエフの交響曲やバレエ音楽、そしてストラヴィンスキーのバレエ音楽など、極めて水準の高い名演を成し遂げていることからしても、小澤がいかにロシア音楽を深く愛するとともに得意としているのかがわかるというものだ。ストラヴィンスキーの「ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ」「ピアノと管楽器のための協奏曲」は、第1次世界大戦が終わり、その解放感からヨーロッパ全体が興奮状態にあった時期にかけて作曲した、華やかでノリの良い知られざる傑作。カメレオンと揶揄されたストラヴィンスキーの数少ないピアノ協奏曲で、新古典主義時代に手懸けた数々のピアノ曲を代表する作品でもある。ストラヴィンスキーが自分でピアノを弾くことで大きな収入源となることを当て込んで作曲したらしい。本盤はミシェル・ベロフがまだ、20歳代前半の演奏。一方、小澤が30歳代の本当に脂の乗り切った時期で、互いに丁々発止の演奏が息を呑むよう。若きベロフの挑発性のヒリヒリする快感が実に印象的で、「カプリッチョ」では1970年代相性抜群のコンビだった小澤+パリ管弦楽団の躍動感に触発されて繰り広げる、異様なハイテンションぶりも実に楽しい。人間味溢れる両者の鬩ぎ合いに、オーケストラが生き物のように反応するのがすばらしい。バッハや、ベートーヴェンだと様式だとか、慣習だとかが足枷になりますが、ここではそうした柵を開放して自分たちのスタイルを貫いているのもいいものです。ベロフとジャン=フィリップ・コラールとのデュオのレコードを解説した時にも説明しましたが、この時期のベロフはことさらに素晴らしい。ベロフは強靱な指の力を生かしたヴィルトゥオーゾ的な一面も見せながら、随所で彼ならではの西欧的ロマンティシズムを湛えます。ソロも指揮者もオーケストラも、アグレッシヴで瑞々しい感性を持ち合わせていた頃の芸風を知るには恰好の一枚。
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小澤征爾は2002年、ボストン交響楽団の音楽監督を離れた。就任から29年。アメリカのオーケストラの音楽監督として最も長い在籍期間だ。小澤は38歳の若さで1973年にボストン響の音楽監督に就任します。以来、その演奏は国際的なレーベル、ドイツ・グラモフォンから発売されるようになり、しかもこの国際的なレーベルから、その演奏が発売された日本人指揮者では小澤が初めてのことでした。小澤が着任した時のボストン響は、どちらかと言えばきれいで色彩豊かな音を出していた。かつての音楽監督シャルル・ミュンシュやよく客演していたピエール・モントゥーらフランス人指揮者の影響だろう。その代わり、ドイツ的な重みのある音楽はあまり得意じゃなかったように思う。しかし小澤自身はドイツ系の音楽もしっかりやりたい。例えばブラームス、ベートーヴェン、ブルックナー、マーラー。あるいはやはり重みが必要なチャイコフスキーやドヴォルザークもやりたかった。そこで重くて暗い音が出るように、弦楽器は弓に圧力をかけて芯まで鳴らす弾き方に変えた。だけど小澤が就任した時のコンサートマスターのジョセフ・シルヴァースタイン ― その後、彼は指揮者となり成功している。 ― はそういう音を嫌がり、途中で辞めてしまう。それでも辛抱強く時間をかけて、ボストン響はドイツの音楽もちゃんと鳴らせるようになった。それでいてベルリオーズの「幻想交響曲」といったフランス物も素晴らしい演奏ができる。フランスの洗練とドイツの重み、両面を持つ良いオーケストラになった。「メロディーとリズムの微妙なせめぎ合い」は殆ど感じられない、工芸品の美しさに人種の息吹を知るといったふうに小澤らしさとは、メロディーを奏するソロ奏者の手足を縛ったストイックさにこそあるといえる。
  • Record Karte
  • 1971年10月セッション、ステレオ録音。
  • GB  EMI  ASD2770 ミシェル・ベロフ ストラヴィンスキ…
  • GB  EMI  ASD2770 ミシェル・ベロフ ストラヴィンスキ…
ストラヴィンスキー:ソロ・ピアノ作品全集
ベロフ(ミシェル)
ワーナーミュージック・ジャパン
2012-08-22