カラヤン唯一のメンデルスゾーン ― ヘルベルト・フォン・カラヤン、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の全盛期の録音。1970年代前半の超名盤として知られるメンデルスゾーンの交響曲全集です。彼らならではのゴージャスかつ色彩感豊かなサウンドは録音から約半世紀経った現在もその輝きは健在。一点の曇りもなければ弛緩もない、明るさと暗さを持ち合わせたメンデルスゾーンだ。メンデルスゾーンというと、メンデルスゾーン作品の大きな特徴である貴族的優雅さ、明朗で知的な美しさ、類稀なメロディの豊かさといったものが、あたかも短所であるかのように論じられさえした。長い間、「軽い曲を作った幸せな音楽家」「サロン的音楽家」といったマイナスイメージがもたれていて、しかもそういった誤解はあなどれない。そうしたところが影響した演奏がジャンルを問わず実に多いのは、嘆かわしいことだが。さてこのカラヤンによる交響曲全集はそうした観念を吹き飛ばす、端正なフォルムと美しさ、そしてマッシヴな力強さが一体となった、会心の演奏である。この時期彼はシューマンの交響曲全集、新ウィーン楽派といった、それまで敬遠してきたレパートリーを積極的に録音したのは周知の通りだが、メンデルスゾーンのシンフォニーでは第5番《宗教改革》だけは実演では振っていないようだ。が、しかし構成的にも良くできた曲ですし、これが素晴らしい演奏になっている。1973年3月録音のヴェルディ・歌劇「オテロ」からベルリン・フィルハーモニーでの録音に代わり、これらのレコーディングまでが、ベルリンのイエスキリスト教会が録音ロケーションになっていました。なかなか臨場感があり、カラヤンも颯爽としたときのもので、 推進力あふれるカラヤンの指揮が見事にマッチした演奏です。メンデルスゾーンらしいかどうか、それはメンデルスゾーンの音楽に求めているものが聞き手それぞれだからなのだけれども、ただ、メンデルスゾーン本人は自分がユダヤ人であるとかそのようなことは全く気に留めておらず、信仰心の篤いキリスト教徒であり、ドイツの民族主義的な音楽家だったと言われています。これが《宗教改革》の出来栄えに反映したのか、カラヤンが録音するにあたって、作曲の背景にある《とある人類が引き起こした悲しい歴史》の生々しい記憶に触れようとしたのかは想像の域をでないが、この演奏は鳥肌もの。ダイナミックにして流麗、推進力に満ちた演奏が楽しめる。カラヤンはメンデルスゾーンの交響曲を録音したがらなかったが、つまりレコード会社のカタログ充実に一肌脱いだ感じだが、いざ録音してみたらやっつけ仕事に堕さず、これほど素晴らしい「芸術品」に仕上げている点、なんだか悩ましい。全集となるとどれも、作曲家の若い意欲で空回りしているところのある「第1番」は、手抜きなさのカラヤンらしい真剣演奏が、かえってこの曲の若さを浮き彫りにしてしまった興味深い演奏。第3楽章にあらわれるコラール的雰囲気、第4楽章でのバロック時代のフーガを思わせる書法の表現でカラヤンは、実に見事な世界を作っている。この交響曲全集は私の大の愛聴盤です。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908~1989)は、レコード録音に対して終生変わらぬ情熱を持って取り組んだパイオニア的存在であり、残された録音もSP時代からデジタル録音まで、膨大な量にのぼります。その中でも、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との結び付きがいよいよ強固なものとなり、続々と水準の高い録音が続々と行われた1970年代は、カラヤンの録音歴の中でも一つの頂点を築いた時代といえます。ヨーロッパの音楽界を文字通り制覇していた「帝王」カラヤンとベルリン・フィルと、ドイツでの拠点を失ってしまった英H.M.V.の代わりとなったドイツ・エレクトローラとの共同制作は、1970年8月のオペラ『フィデリオ』の録音を成功させる。カラヤンのオーケストラ、ベルリン・フィルの精緻な演奏は、ヘルガ・デルネシュ、ジョン・ヴィッカースの歌唱を引き立てながら繊細な美しさと豪快さを併せ持った迫力のある進め方をしています。有名なベートーヴェンのオペラが、ただオペラというよりオラトリオのように響く。カラヤンは1972~76年にかけてハイドンのオラトリオ『四季』、ブラームスの『ドイツ・レクイエム』、さらにベートーヴェンの『ミサ・ソレムニス』という大曲を立て続けに録音しています。ドイツ、オーストリアの指揮者にとって、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスは当然レパートリーとして必要ですが、戦後はワーグナー、ブルックナーまでをカバーしていかなくてはならなくなったということです。カラヤンが是が非でも録音をしておきたいワーグナー。当初イースターの音楽祭はワーグナーを録音するために設置したのですが、ウィーン国立歌劇場との仲たがいから、オペラの録音に懸念が走ることになり、彼はベルリン・フィルをオーケストラ・ピットに入れることを考えました。カラヤンのオペラにおける英EMI録音でも当初はドイツもの(ワーグナー、ベートーヴェン)の予定でしたが、1973年からイタリアもののヴェルディが入りました。英EMIがドイツものだけでなく、レパートリー広く録音することを提案したようです。この1970年代はカラヤン絶頂期です。そのため、コストのかかるオペラ作品を次々世に送り出すことになりました。オーケストラ作品はほとんど1960年代までの焼き直しです。「ベルリン・フィルを使って残しておきたい」というのが実際の状況だったようです。この時期、新しいレパートリーはありませんが、指揮者の要求にオーケストラが完全に対応していたのであろう。オーケストラも指揮者も優秀でなければ、こうはいかないと思う。歌唱、演奏の素晴らしさだけでなく、録音は極めて鮮明で分離も良く、次々と楽器が重なってくる場面では壮観な感じがする。非常に厚みがあり、「美」がどこまでも生きます。全く迫力十分の音だ。ベルリン・フィルの魅力の新発見。そして、1976年にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団から歩み寄り、カラヤンとウィーン・フィルは縒りを戻します。カラヤンは1977年から続々『歴史的名演』を出し続けました。この時期はレコード業界の黄金期、未だ褪せぬクラシック・カタログの最高峰ともいうべきオペラ・シリーズを形作っています。カラヤンのレコードでは、芸術という大目的の下で「人間味」と「完璧さ」という相反する引き合いが、素晴らしい相乗効果を上げる光景を目の当たりにすることができる。重厚な弦・管による和声の美しさ、フォルティシモの音圧といった機械的なアンサンブルの長所と、カラヤン個人の感情や計算から解き放たれた音楽でもって、音場空間を霊的な力が支配しており、聴き手を非現実の大河へと導く。
- Record Karte
- エディト・マティス(ソプラノ)、リゼロッテ・レープマン(ソプラノ)、ヴェルナー・ホルヴェーク(テノール)、ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)。1973年9月9日、11月1日(1番)、1972年9月7-11日/1973年2月23日(2番)、1971年1月(3番、4番)、1971年1月2,8,22日/2月17日(5番)1971,72年ベルリン、ダーレムのイエス・キリスト教会でのスタジオ録音
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