1. Otto Klemperer
  2. 34-30037
通販レコード→GB BLUE & SILVER ORIGINAL, 155g重量盤

人類や神のような大きな問題ではなく、ちっぽけな一人の男の青春を反映した ― 新しい時代 ― ロマン派の音楽。

初演を聴いた記者の批評 ― 第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘され、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と憤慨したといいます。ベルリオーズが「幻想交響曲」とタイトルを付けた標題音楽を創始し、文学や絵画といった他の芸術と結びつけた物語性が音楽に求められるロマン派音楽の時代を迎え、リストが交響詩の傑作で評判を上げていた最中に、古典派の様式を踏襲した交響曲を作曲することを志したブラームス。
偏屈な男ですが、最初の交響作品はセレナードに、次はピアノ付きの交響曲と称される、演奏時間50分のピアノ協奏曲の形で完成を見せた。ベートーヴェンが交響曲9番を初演してから20余年、そうして完成したブラームスのこの第1交響曲は、姿・形も古典派の交響曲そのものですが、懐古的な作品ではなく、ブラームスが生み出した、新しい時代の、立派なロマン派音楽の交響曲です。
交響曲の作曲を志してから20年をかけた交響曲1番ですが、翌年、第2番は、夏の避暑を過ごした4ヶ月の間に完成、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」にたとえられ、「ブラームスの『田園』交響曲」と呼ばれることもある。また、5曲目の交響曲となるはずだった大きな作品は、友人の仲直りのためのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲に化けました。そういうことから、ブラームスは古典派の交響曲を作曲することにこだわりはなかったようです。
この第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、神の偉大な力や、人類愛を謳い上げたものではなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると評した、ちっぽけな一人の男の青春を物語ったロマン派の音楽なのです。この交響曲を聞いて心を打つ感動、焦燥感は、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じて生じている興奮のようです。昭和40年代のテレビまんがの最終回で、自分がデビルマンだと世間に明かした不動明が堂々と正体を見せて、最後の戦いに立ち向かっているシーンでこの曲の冒頭が響きます。偶然かもしれませんが、深い選曲意図を感じます。
交響曲第1番は、フォルムのがっしりしたきわめて構築的な名演で、情緒に流されることなく各素材を組みあげています。第4楽章の有名な主題も、序奏終了後、間髪入れずに開始されますが、表情は気品高く美しく、端正な〝形〟への意識、バランス感覚の強さを感じさせます。
オットー・クレンペラーはブラームスを愛していたと思います。コンサートでもよく取り上げていますし、フィルハーモニア管弦楽団との録音を始めた時にも、真っ先にこの全集を仕上げています。1958年には「寝たばこ事件」を引き起こして全身大火傷、指揮棒すらももてないような状態に陥ってしまった、超スローテンポによる異形の晩年スタイルのクレンペラーのイメージが強いようですが、この交響曲1番からは、晩年のクレンペラーを特徴づける雄大なイメージは乏しいでしょうが、あざとい演奏効果を狙うこともない、真っ当でスタンダードな演奏を聞かせてくれる、青春の澱のような気負いや突っ張った部分がかっちりとしたフォルムの中に押し込められている、1956年〜57年にかけて録音されたブラームスの交響曲全集です。
オーケストラの配置が第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが指揮者の左右に配置される両翼配置とか対抗配置とか言う、古いスタイルで、左右に分かれた第1、第2ヴァイオリンのかけあいや中央左手奥に配置されたコントラバスの弾みのある低音が極めて効果的に働いていて、包み込まれるような感覚はステレオ録音で聴く場合には、やはり和音の動きなどこの配置の方が好ましい。ゆったりとしたテンポをとったのは、透徹した目でスコアを読み、一点一画をおろそかにしないようにしていることで隠れていた音符が一音一音浮かび上がってきます。
この気迫の籠った快演は聴き手に感動を与えずにはおきません。フィルハーモニア管弦楽団は、まさにクレンペラーの為にウォルター・レッグが作り出した楽器だと言う事、しみじみと感じました。
英EMIの偉大なレコード・プロデューサー ウォルター・レッグは、1954年に目をかけていたヘルベルト・フォン・カラヤンがベルリンに去ると、すぐさま当時、実力に見合ったポストに恵まれなかったクレンペラーに白羽の矢を立て、この巨匠による最良の演奏記録を残すことを開始した。このレッグが理想とした、クラシック音楽の基準となるレコード盤をつくるという大仕事は、彼がEMIを去る1963年までクレンペラー&フィルハーモニアによって夥しい数が生み出されました。
この時代はモノーラル・テイクとステレオ・テイクが同時進行していました。モノーラルはダグラス・ラター、ステレオはクリストファー・パーカーと、それぞれ違うプロデューサーが担当していました。
  • 演奏:オットー・クレンペラー指揮、フィルハーモニア管弦楽団
  • 録音:1956年10月29,30日,1957年3月28日ロンドン、キングズウェイ・ホール。
  • プロデューサー&エンジニア:ウォルター・レッグ&クリストファー・パーカー
  • 1956年から57年にかけての録音で、70歳代になったばかりで気力充実のクレンペラーが残した名演。ゆったりとしているが決して遅くない、緊迫感みなぎるブラームス。この1番はがっちりとした構築性の高い名演として名高い。貴重な英国オリジナル盤です。



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