優美で華麗なバロック音楽 ― 「音楽の捧げもの」はフルート愛好家のプロイセンのフリードリヒ大王(1712〜1786)に献呈された作品。ポツダムの宮殿にいたフリードリッヒ大王は、対位法の大家であり、鍵盤楽器の即興演奏では、当時並ぶものがなかったヨハン・ゼバスティアン・バッハを呼び寄せた。作曲家でもあったフリードリッヒ大王は、自らの主題で6声のフーガを即興するようバッハに求めた。しかし、その時バッハは、自ら選んだ主題に基づく6声のフーガを演奏せざるを得なかった。このことが、その後に「音楽の捧げもの」を作曲する原動力になった。2ヵ月後、改めて大王の主題を基に全部で16の曲からなる「音楽の捧げもの」を完成させた。曲は、3声のリチェルカーレ、無限カノンを前置いて、王の主題による各種のカノン ― 逆行カノン、同度のカノン、反行カノン、反行の拡大カノン、螺旋カノン、上方5度のフーガ・カノニカ、2声のカノン、4声のカノン ― が展開され、6声のリチェルカーレ、大王が好んだフルートを取り入れた、ヴァイオリンと通奏低音のためのトリオ・ソナタを挟んで、無限カノンで閉じられる。この「音楽の捧げもの」はLPレコード時代から、他のバッハ作品同様、競合盤が多くそれだけ愛好家は聴き比べで楽しめました。本盤は、質実剛健な音楽の構築によってバッハ演奏のスペシャリストとして知られるクルト・レーデル指揮による録音の中でも、モノラル録音で時代を感じさせるが、カール・ミュンヒンガーの重厚型とともに、このレーデル盤の穏やかさにも魅せられました。主題の変奏曲形式であっても、曲運びに重点を置いたミュンヒンガー盤に対して、レーデル盤は一曲毎に、やや即興性を思わせぶりに完結していく。他の盤と比べレーデルは地味な演奏家なのですが、長く聴かれてしかるべき名盤です。そして、今より少しでもレーデルの演奏に接してほしい。解説によると『パッヘルベルのカノン』を再発見したのは彼だと言うことだ。クラシック音楽に縁の無い人でもどこかでは聴いているほどの有名曲であり、それをメンデルスゾーンが「マタイ受難曲」を再発見したり、パブロ・カザルスが「無伴奏チェロ組曲」を再発見したように、忘れられた音楽を掘り出して光を当てたとすれば、これはビジネスモデルになって然る可き程である。しかし、唯今レーデル盤でこの曲を聴く人は少ない。懐かしい王道感と同時に、現在の潮流、ピリオド楽器を使った古楽器奏法によるバロック演奏を聴いている方には、新鮮にも映るかもしれないモダン楽器による壮麗なバロック音楽演奏で、名フルート奏者でもあったレーデルの本領発揮の名盤です。レーデルが、指揮に加え得意のフルートを掛け持ちしてヴァイオリンのヴォルフガング・マルシュナー、チェロのヴィルヘルム・シュネラー、チェンバロのレナード・ホカンソンと絶妙な演奏を聴かせてくれている。気心の合ったミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団との、バッハの作曲した音楽に魂が入ったとでも表現したらいいような、全体に滋味豊かな演奏を繰り広げる。
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フランスのエラート・レーベルが最初に日本で紹介された時は、日本コロムビアからの発売だった。フランスに数多く残るバロック音楽ゆかりの宮殿での演奏会を再現した、空想音楽会のシリーズは忘れられない。その後、1970年代半ば、エラートの日本での発売権は RVC に移るが、移った当初は日本コロムビアのような輝きのあるエラートの音が作れず、エンジニアが苦労したと言われている。さらに、1990年代エラートはワーナー・ミュージック・グループの傘下となるが、ワーナー・ミュージック・グループでは1970年代初期音源のCD化にあたってはレコード時代の音質を復活させようとしてマスタリングを当時エラートを担当した日本コロムビアに依頼したという経緯がある。東京赤坂に当時「東洋一」と謳われた日本コロムビアの録音スタジオが完成したのは1965年。この録音スタジオとカッティング室が同一ビル内にあることから、1969年にはテープ録音機を介さず、録音スタジオとカッティング室を直結して、ミキシングされた音を直接ラッカー盤に刻み込むダイレクト・カッティングのLPを発売して音の良さで話題となった。奇しくも同時期に米国シェフィールド・ラボから発売された同じダイレクト・カッティングのLPが輸入盤として注目されていただけに、NHKの放送スタジオのレコードプレーヤーが同社製であることと日本コロムビアはレコード・ファンの好評を定めた。日本コロムビア録音部ではダイレクト・カッティングを経て、1972年のPCM録音機の導入以降、録音機の小型化、高性能化と並行して、様々なデジタル周辺機器の開発へ進む。その後、1981年にはハードディスクを用いたデジタル編集機の登場。そして、86年、日本から始まったCD化の波は世界中に波及し、CD工場を持たない国内外のレコード会社はこぞって日本にマスターテープを送り、CD生産を依頼してきた。しかし、会社経営母体が日立からリップルウッドに移り、スタジオの廃止は逃れられなかった。
エラート(Erato Disques, S.A.)は古楽録音で大きな実績をもつ最古参レーベルです。レーベル名はギリシャ神話に登場する文芸の女神・エラトーからとられている。独立系レーベルとして1953年にフランスで設立された。芸術責任者のミシェル・ガルサンの下、フランスのアーティストを起用した趣味性の高いLPレコードを数多く制作し、クラシック音楽を中核とし、とりわけフランス系の作品や演奏家の紹介に努めてきた。その中心的なレパートリーはバッハ以前の古楽だった。日本ではバロック音楽すべてが含まれる場合もありますが「古楽」は、古典派音楽よりも古い時代の音楽=中世、ルネッサンス、ごく初期のバロック音楽の総称です。作曲された時代の楽器、演奏方法は、時代を経るにつれ変遷を遂げてきています。近年の「古楽」ジャンルの録音は、19世紀から20世紀にかけて確立されたクラシック音楽の演奏様式ではなく、現代の楽器とは異なる当時の楽器で、音楽史研究に基づいて、作曲当時の演奏様式に則った演奏によっています。但し、オリジナル楽器録音への取り組みはやや遅く、本格化するのはフランス系以外の奏者を積極的に起用するようになった1980年代以降。中心を担ったのはトン・コープマン、ジョン・エリオット・ガーディナー、スコット・ロスといった、グスタフ・レオンハルトたちよりも一世代後、かつフランス人以外の演奏家たちである。
ヴォルフガング・マルシュナー(ヴァイオリン)、クルト・レーデル(フルート)、ヴィルヘルム・シュネラー(チェロ)、レナード・ホカンソン(チェンバロ)、ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団、クルト・レーデル(指揮)、1963年12月、ミュンヘンでの録音。Recorded By – Peter Willemoës.
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