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生命力 ― 流麗典雅の極み。ここにはフランスの楽人らしい洗練の粋を極めたモーツァルト演奏が有る。ランパル、ラスキーヌとも、この協奏曲をさまざまな演奏家と録音しているが、この録音が特に優れているのは両者が絶頂期だったからだろうが、優雅さと気品をたたえているからでもある。また、ランスロのクラリネット協奏曲の演奏も見事であり、モーツァルトのラテン的演奏の頂点がここに存在しているといっていい。〈もしもモーツァルトの《フルートとハープのための協奏曲》における「原イメージ」というものがあるとすると、それはおそらく当ディスクに由来するものといえるのではないだろうか。〉(吉井亜彦、『クラシック不滅の名盤1000』、2007 年) ― これには紛れも無く頷いてしまう。こう言われるほどだから、わたしと同じ思いで、この演奏を気に入っているモーツァルト・ファンが居るということでしょう。収録場所は明示されていませんが、この時期のERATO録音の通例としてパリ市内の音響効果の優れた会場(教会?)で行われたものと思われます。流麗なフランス風の華やかさを撒き散らすソロやオーケストラの響きを温かみのあるアナログ・サウンドで捉えた定評のある名録音でモーツァルトの協奏曲の名品2編を収めたLPは1963年に録音された永遠不滅の名盤として、LP初出以来カタログから消えたことがない。
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エラート(Erato Disques, S.A.)は、1953年にフランスで創設された。クラシック音楽を中核とし、とりわけフランス系の作品や演奏家の紹介に努めてきた。レーベル名はギリシャ神話に登場するエラトーからとられている。第2次世界大戦後のフランス音楽の復興運動の中で、楽譜出版社エディション・コスタラ社のレコード録音部門として1952年に創設されたERATOレーベルは、知られざるフランス音楽の紹介やフランスのアーティストによる演奏の録音に力を入れ、中でも当時録音の少なかった中世からバロック時代の膨大なレパートリーを続々と録音することで高い人気を誇ったレーベルです。同じLP黎明期にフランスに創設されたデュクレテ・トムソンやディスコフィル・フランセなどのレーベルが活動を休止したり買収されたりしていく中で、ほぼ半世紀以上にわたってその独自の路線を貫き、日本でも多くのファンの支持を得てきました。創立後10年を経て生み出した本盤で指揮を務めるジャン=フランソワ・パイヤール(1928年生れ)も、LPファンには忘れられない存在です。パイヤールもERATOレーベルの屋台骨を支えた指揮者で、1953年に自ら創設したジャン=マリー・ルクレール器楽アンサンブルを母体に1959年に結成したパイヤール室内管弦楽団とともにバロック~古典派音楽の演奏・録音で一躍その名を高めました。特にバロック音楽では未知の作品の発掘に力を入れパイヤールの録音によって20世紀に復活した作品も数多く、その決して押しつけがましくならない気品のあるエレガントな演奏は日本でも多くのファンを獲得していました。この協奏曲のギャラントな魅力を最も美しく表現した演奏である。「フルートとハープのための協奏曲」は、20世紀のもっとも偉大なフルート奏者、ジャン=ピエール・ランパル(1922〜2000)とリリー・ラスキーヌ(1893〜1988)の共演。ランパルは、1947年のジュネーブ国際音楽コンクールの優勝をきっかけに本格的なソロ活動を始め、パリ・オペラ座管弦楽団の首席奏者を務めるかたわら世界各地への演奏旅行を行なって、フルートという楽器の魅力を世界中に伝え、その音楽的価値の高さを認識させました。ランパルは生涯に5回、この協奏曲を録音しています。
現在も世界随一の国際ハープ・コンクールでその名を残すラスキーヌは、生命力の永い音楽家である。16歳でパリ・オペラ座管弦楽団に史上最年少で入団、同団初の女性奏者となり第2次大戦後、ERATOレーベルとの契約・録音によって世界的な評価を確立したハープ奏者です。SP時代以来7回も、この協奏曲を録音しており高齢になってランパルと共演しても、このハープは決して独善的でない。それにしてもラスキーヌのハープの音色の艶やかさ華やかさや表現の深さ、ランパルやパイヤールとの呼吸の合ったやり取りなど、このレコード自体、永遠の名盤の一つといって差し支えないものである。ランパルとラスキーヌの組み合わせでも同じERATOレーベルに1958年録音の旧盤があるほどですが、何といっても不滅の価値を持つのは、この1963年盤です。ランパルの同世代であり、同じフランス管楽五重奏団のメンバーでもあったジャック・ランスロ(1920〜2009)は20世紀フランスを代表する名クラリネット奏者で、その柔らかく美しい音色によって知られていました。ウィーンのウラッハやドイツのライスターなどの演奏より明るい音色による端正な様式感の中に最近は少なくなったフランスらしいエスプリを感じさせる演奏が持ち味でしたが、教育者としての比重が高かったこともあって、その長い演奏活動に比して録音は少なく、この1963年のモーツァルト「クラリネット協奏曲」は同時期に録音したモーツァルトやブラームスのクラリネット五重奏曲と並ぶランスロの代表的名盤とされています。
1963年6月、ステレオ・セッション。[プロデューサー]ミシェル・ガルサン、[エンジニア]ダニエル・マドレーヌ。
FR ERATO  EF28011 ランパル&ラスキーヌ&a…
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