34-22728

商品番号 34-22728

通販レコード→独ジャーマン・スタンプ・ドッグ盤

冒頭の鈴の音で勝負あり ― 冒頭部分で鈴とフルートが鳴り響くと、それをバックに分割されたフルートが歌い出し、そこにクラリネットが加わります。そして、それを第1ヴァイオリンが受け継ぐと、第2ヴァイオリンとヴィオラが参加して響きに厚みを加えます。さらに、それをクラリネットとフルートが短い経過句で受けると低弦楽器が深々とした響きでそれを引き継いでいきます。おそらく時間にすれば30秒にも満たないやり取りですが、その短い時間の中で一点の音が、徐々に膨らんでオーケストラが鳴り響く広い空間が見事にお膳立てされます。これは単純にに左右に広がるだけの2次元的な表現に留まっているものではなく、一つの旋律を複数の楽器が引き継いで、点在していた音が構築物を大きく創造していくベートーヴェン ― 古典的明晰さでもってこの交響曲を再構築しようとした老巨匠の流儀なのです。オットー・クレンペラー76歳の達観した心境で描き出された、大らかで深い安らぎに満ちた広大な彼岸の空間。遅いテンポで音符を一つ一つ噛みしめるような演奏に、夕映えに火照るかのようなエリーザベト・シュヴァルツコップの歌唱が融けこんでいる。それがまた見事。彼岸から呼びかけているのはクレンペラーなのか、シュヴァルツコップか。まるで、夢を見させられているかのよう。わざとらしくなく、スコアからこういう〝音〟〝響き〟〝流れ〟を引き出すクレンペラーは凄い指揮者だ。それまでの自己をかなぐり捨てたような演奏で、クレンペラーが実際に教えを受けていたマーラーの演奏は、作曲者のイメージがそのまま伝わってくるような印象があります。オーケストラの配置が第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが指揮者の左右に配置される両翼配置とか対抗配置とか言う古いスタイルで、左右に分かれたヴァイオリンのかけあいや中央左手奥に配置されたコントラバスの弾みのある低音が極めて効果的に働いていて、包み込まれるような感覚はステレオ録音で聴く場合には、この配置の方が好ましいような気はする。このクレンペラーによるマーラー録音は「TAS Super LP List」の「SPECIAL MERIT(優秀録音)」にリストアップされている。巨大編成のマーラーの交響曲はオーディオ的なおいしさに溢れていますから、「BEST OF THE BUNCH」に1点、「SPECIAL MERIT」に8点がリストアップされているのは決して多すぎる数ではないでしょうが、全9点中の5点がEMI録音だと言うことになります。後発のテラークや、ニュープロダクト盤が健闘した、と見ることもできましょう。EMIは1957年になっても軸足はモノラルの方に置いたままでした。但し、1934年3月19日に録音されたサー・トーマス・ビーチャム指揮のモーツァルトの交響曲41番『ジュピター』には、同じテイクの実験的なステレオ・サウンドというものが存在したのです。〝ステレオ再生〟という発想は19世紀にまで遡り、寺田寅彦の随筆『蓄音機』に玩具や駄菓子を並べた露天に並んで、「蓄音機屋の店」が日曜ごとに町通りで開かれる市に出ていたことが紹介されている。器械から幾対かのゴム管が分配されていて、銭を払った花客だけが、耳にさした管を両手でおさえて熱心に聞いている様子は、周囲の汎ゆる露店と比べて一頭地を抜いた文明の宣伝者でもあるように思われた、という。大正11年4月に、東京朝日新聞に掲載されたものだ。ヘッドフォンで〝ステレオ〟を聴く姿を彷彿させる。トーマス・エジソンの発明した「キネトスコープ」は「活動写真」として明治29年に日本に輸入された。文明は、モダンとして押し寄せた。蓄音機が映画館に備えられ、「カツベン」は「レコード」に置き換わっていった。令和元年秋に鶴屋百貨店クラシックサロンでの鑑賞会で説明したことで補足になりますが、1881年のパリ国際電気博覧会で、すでに複数のマイクロフォンから収音した音を両耳で聴くと立体的に聞こえるという実験がクレマン・アデールによってなされ、オペラ座の舞台からパリ電気博覧会会場に設置した部屋まで一連の電話通信装置を接続し、オペラ座での公演の音声を生中継で転送して聴かせたことが、評判を呼んだ。そこで128もの特許を持つ技術者&発明家アラン・ブルームライン(1903〜1942)は、ニュージャージー州のベル研究所で電話のケーブルの開発に携わりつつ、「両方の耳」で聴くステレオ・サウンドの実用化に向けての研究を始めました。二本のマイクで演奏を同時収録し、ステレオ録音を行う本格的な実験が数多く行われた。レオポルド・ストコフスキー指揮のフィラデルフィア管弦楽団は実験として1932年3月12日にスクリャービンの「プロメテウス」、ムソルグスキーの「展覧会の絵」の一部をステレオでSP録音した。そのことを当時映画産業の隆盛期にアニメーション映画で参入してきた、ウォルト・ディズニーに話したことから、制作と再生に物量を投入できる「映画」というジャンルにおいて、初めてのステレオ音響は映画館で実現されることになる。その世界最初のステレオ・サウンドの商業映画が、ディズニーによる「ファンタジア」でした。彼の技術に着目したEMIのアラン・ブラムレインは25年後ステレオレコードの主流となる、レコードの溝の2つの壁を直角に交わらせて左右の壁に2つのチャンネルを録音する、2チャンネルのステレオ録音方式を開発し、1933年に特許を取得した。そして、EMIが実験的にロンドン・フィルの演奏会をステレオ録音で収録してサー・トーマスの『ジュピター』は商業レコードのステレオ録音第一号となるものでした。というのは、もっとも当初はステレオ再生装置はほとんど普及していなかったので、モノラル盤と並行して少枚数のステレオ盤が市販されたに過ぎなかったのだが。閑話休題。録音技術の意味において、本盤は英コロンビアの偉大なサウンド・レコーディングの一つに入ります。迫力ある低音から繊細なディテール。その全てがスペクタクルなサウンドの中にあります。1961年にロンドンのキングスウェイ・ホールで録音されたこのパフォーマンスは、ヘルベルト・フォン・カラヤンのレコーディングとは異なりますが、とても印象的で素晴らしい録音です。ピアノ独奏や声楽独唱と比べて、大編成のオーケストラ曲ではステレオ録音の威力は絶大であった。各楽器がしかるべき位置に定位して聴こえ、パートごとの分離が格段に違う。クレンペラーのマーラーは、演奏面においてはドイツ・グラモフォンのレナード・バーンスタインの演奏に漂う限りなく沈んで行く静寂性ではなく、死に直面してもそれを受け入れる気高さを示しています。録音に当っては、ライヴ以外では大方通常より少し遅いテンポで演奏されています。そこにアイロニーとブラックユーモアを感じ取ることが出来るのも、ディテールにこだわったレコーディング技術のおかげです。 しかし、モノラルとステレオという二つのフォーマットが同時に存在した時代にあって、モノラルテイクとステレオテイクが同時進行していました。エンジニアにはモノラルテイクはダグラス・ラター、ステレオテイクはクリストファー・パーカーと違うプロデューサーが其々録音を担当していました。
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  • Record Karte
  • オットー・クレンペラー指揮、フィルハーモニー管弦楽団、エリーザベト・シュヴァルツコップ、1961年4月ロンドン、キングズウェイ・ホールでの優秀録音、名演、名盤、解説書付属。
  • DE EMI C063-00553 クレンペラー マーラー・交響曲4番
  • DE EMI C063-00553 クレンペラー マーラー・交響曲4番
マーラー:交響曲第4番【HQCD】
クレンペラー(オットー)
EMIミュージックジャパン
2010-01-20

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