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《春休みに鑑賞しておきたい名曲》

ABQの緻密なアンサンブルと緊張感の持続、そして豊かな歌心。

凝縮されていくベートーヴェンの後期モデル。

ベートーヴェンの創作期は大きく3つに分れています。生れ故郷のボンからウィーンに移り住んでからの最初の10年間、難聴となり自殺まで考えるものの不屈の精神で立ち直り、作曲に邁進する「傑作の森」の10年間。そして、私生活における多くのトラブルに巻き込まれつつも、芸術的に益々深化していく晩年。ベートーヴェンの創作中、9曲の交響曲、32曲のピアノ・ソナタ、それに16曲の弦楽四重奏曲の三本柱において、弦楽四重奏曲は、1番から6番までが「初期」、7番から11番までが「中期」、12番から16番までが「後期」というように、はっきりと分かれていますので、それぞれの曲の創作の深度との位置づけが非常に分かり易く、創作の発達を掴み取れる。

〝第9〟作曲後に完成される、後期弦楽四重奏曲は9曲のシンフォニーをも凌駕する。

ベートーヴェンは第11番の作曲後、14年間弦楽四重奏曲に着手する事はなかったが、ロシアのニコラス・ガリツィン公爵から弦楽四重奏曲の依頼を受け作曲したのが第12番と、第13番、第15番とあわせた「ガリツィン・セット」と呼ぶ3曲。ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲の、第13番から第15番までの3曲は楽譜が出版された順に作品番号が付けられたために、実際に書かれた順序とは異っています。第15番と第13番はほぼ並行して作曲が進められました。この曲の作曲は、ピアノ・ソナタ第30番、第31番、第32番や、ミサ・ソレムニス、第9交響曲などの作曲時期とほぼ重なり、そのためか大変充実した曲になっています。SPレコード鑑賞会でも解説しましたが、3曲の大きな特徴としては、それまでの古典的な4楽章構成ではなく、曲を追うごとに楽章の数が増えてゆくことが上げられます。それはベートーヴェンが既に外面的な形式から解き放たれて、自らの心の奥底へと深く入り込んで行った結果では無いでしょうか。実際、ここで聴かれる音楽の自由さ、深淵さは、既に書き終えていた9曲のシンフォニーをも凌駕しています。

2種類の終楽章を選んで聴くことができる、アルバン・ベルク四重奏団盤。

《弦楽四重奏曲第13番変ロ長調、作品130》は全6楽章形式で、最初に書かれた楽譜では終楽章に大規模なフーガが置かれていました。これでは余りに難解で長大だと、出版される段階で周囲に説得されて、新しい終楽章と入れ替え現在のかたちで出版しました。お蔵入りにはとても惜しまれる最初の終楽章は、《大フーガ変ロ長調、作品133》として出版されました。別々の曲となったために、長いこと初稿は日の目を浴びずにいましたが、徐々に見直されるようになり、現在では2種類の終楽章として演奏団体に選択を委ねられており、本盤は《大フーガ》を新しい終楽章の前に挟んで、2種類の終楽章を作曲された順番に続けて聴くことになるので、これがあたかも、7楽章構成であったかのような自然さです。成立にやや複雑な事情があって、そういった特殊事情を除いても、後期四重奏曲の中でも特異な存在感も持つ名曲です。全6楽章という異例の構成のなかに、ベートーヴェンらしい巨大な気宇が込められていますが、第3楽章アンダンテ、第4楽章のドイツ舞曲(レントラー)風のアレグロも、その美しい旋律は懐かしい気分を呼び覚まします。そして、第5楽章カヴァティーナでのベートーヴェンの心の哀しみには大変胸打たれる。トーマス・カクシュカ時代に入ったアルバン・ベルク四重奏団の演奏は、緻密なアンサンブルと緊張感の持続、そして豊かな歌心で、曲の大きさに負けない、果てしない高みに達しています。レコード芸術特選盤。

ウィーン音楽を代表する弦楽四重奏団。

アルバン・ベルク四重奏団(Alban Berg Quartet)は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスター、ギュンター・ピヒラー(Günter Pichler)により1970年に結成。ラサール四重奏団に学び、ウィーンの音楽の伝統を尊重し、20世紀の音楽に対するプレーヤーのコミットメントを示すために、そしてアルバン・ベルク未亡人によって〝アルバン・ベルク四重奏団〟という名前の使用を許可され、1971年ウィーン・コンツェルトハウスでデビューし、忽ち国際的に活躍の場を拡げました。その名は、膨大なレコーディングによっても知られ、ベートーヴェン、ブラームス、バルトーク、ヴェーベルン、ベルクの弦楽四重奏曲全曲や、カーネギー・ホール、ウィーン・コンツェルトハウスなどでのライヴ録音など、多くの名盤が30以上の国際的な賞を受賞。ウィーン古典派とロマン派の伝統、また新ウィーン楽派との彼らの密接な関係を象徴し、更に現代音楽まで幅広いレパートリーをもち、ウルバンナー(1973、1993年)、ライターマイヤー(1974年)、ハウベンストック=ラマティ(1974、1978年)、フォン・アイネム(1976年)、ヴィムベルガー(1980年)、リーム(1983年)、シュニトケ(1989年)、ベリオ(1994年)、バルギールスキー(1999年)、シュヴェルトシク(2003年)らの作品を初演しています。アルバン・ベルクの名前を戴いているように、現代音楽への取り組みに熱心だったアルバン・ベルク弦楽四重奏団。ウィーンの伝統的なカルテットとしての側面も併せ持った、万能の楽団でした。精緻なアンサンブルは80年代を代表する存在で、ベートーヴェンの全集はLP時代の最後を飾る名盤です。 ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲録音は2度行われ、最初はスタジオ録音、2度目はウィーン・コンツェルトハウスでのライヴ録音でCDと映像でリリースされました。アルバン・ベルク四重奏団は、2005年、ヴィオラのトマス・カクシュカ(Thomas Kakuska)を死によって失うという悲劇に見舞われた。残されたメンバーは、彼らの信念とカクシュカの遺志を継いで、イザベル・カリシウスと共にコンサート活動を続けました。


  • アルバン・ベルク弦楽四重奏団
  • Violin – Günter Pichler, Gerhard Schulz, Viola – Thomas Kakuska, Violoncello – Valentin Erben

  • Record Karte
    • Recorded: Seon Aargau, Switzerland. 1982年6月13日~18日、デジタル録音。
    • 見開きジャケット、名演。

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ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番
アルバン・ベルク四重奏団
ワーナーミュージック・ジャパン
2006-09-20


ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第3番、第13番(1989年ライヴ)(UHQCD)
アルバン・ベルク四重奏団
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2017-06-21


Complete String Quartets
Beethoven, L. Van
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Alban Berg Quartett
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ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲第13番 / モーツァルト:アダージョとフーガ 他
ハーゲン弦楽四重奏団
ユニバーサル ミュージック クラシック
2002-12-25


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