34-29557

大上段に構えたところのないロマンティックなブラームス。気合と覇気に溢れたオーケストラと一体になって、この作曲家が内包する情感豊かな世界を紡ぎ出す。

ため息が出るほど巧く、誠実な官能美に酔いしれる!

ブラームスの他の協奏曲と同様に、技巧的に至難で内容的にも渋いにもかかわらず、精神的に極めて充実した作品として親しまれている、ロマン派の屈指の名曲であるヴァイオリン協奏曲。クリスチャン・フェラスはヘルベルト・フォン・カラヤンお気に入りのヴァイオリニストとして、1960年代ドイツ・グラモフォンのヴァイオリン名曲のレコーディングでの中心的存在でした。この協奏曲を聴くときの基準の一枚として申し分ない、カラヤンの録音史の中でも白眉の傑作。ドイツ・グラモフォン専属となったカラヤン&ベルリン・フィルが、ベートーヴェン交響曲全集を完成させたあと、第2弾として制作された交響曲4曲を含む一連の企画の中の1枚ですから、ドイツ・グラモフォンもカラヤンも相当慎重に独奏者を選んだのではないかと思います。カラヤンは1956年2月にウィーン・フィルとのコンサートでフェラスを独奏者に招いてブラームスのヴァイオリン協奏曲を演奏しています。そして1964年2月に行ったベルリン・フィルのロンドン公演でブラームスのヴァイオリン協奏曲を、レコーディングの前哨戦として演奏したあと、5月にこの録音を行っています。演奏会とレコード録音を連動させていたカラヤン・システムは、レコードのためのコンサートであり、コンサートのためのレコード録音でした。レコードを録音した後に音楽祭を開いて、同時にレコードを店頭に並べる。または、レコードが発売前であったら、演奏会で気がついたところを既に録音済みだった部分と差し替えることをしてレコードの完成度を高めることを心がけていました。十分に下ごしらえを終えたうえでの取り組みで、ですから、突然の指名でフェラスが独奏者に選ばれたわけではなかったようです。カラヤンがベルリン・フィルの常任に就いて約10年であり、彼の録音は気合と覇気に溢れた構えの大きい緊張感を漲らせたオーケストラと一体になり、フェラスは繊細な美音でブラームスの情感豊かな世界を紡ぎ出している。優れた資質を持ちながら49歳で亡くなったフェラスの全盛期の代表的録音。清楚で良く歌って、しかも過剰なヴィヴラートに陥らない抑制された情熱と官能さえ感じさせて、瑞々しいテクニックがどこまでも爽やか、このフランスの往年の名匠のヴァイオリンの鳴りは繊細ながらも高い精神性に支えられた秀演で、カラヤンが万全のサポートをこなしている。カラヤンとベルリン・フィルの重厚な演奏も聴きものです。カラヤンのバックは雰囲気タップリ、ソロを包み込む豊満さ。やや濃厚で暗めですが、冷涼な味わいにも不足しません。この味わいの濃さは、カラヤンの個性に間違いありません。本盤の存在価値はフェラスの、とにかく美しいヴァイオリンの音色だけが魅力ではなく、実は一番耳を奪われるのは第2楽章冒頭のオーボエ・ソロの天国的な美しい響きです。ローター・コッホのオーボエの美しさはやはり格別。そこにフルートが入り、そしてヴァイオリン独奏が始まる ― ピアノ協奏曲でチェロを引き合いに出したように、ヴァイオリンに木管を絡める ― という、実にブラームスらしい凝りに凝った音楽です。そしてまた、この楽章のヴァイオリンの甘美さは例えようのないもので、フェラスの切ないまでの美音を聞いていますとカラヤンが、この時のブラームスの録音集にピアノ協奏曲を含まず、なおかつフェラスを起用した意図がわかるような気がしてきます。ブラームスにはフェラスの美音に端正を求め、シベリウスでは奔放に解き放つカラヤンの巧みさは、このブラームスでのオーケストラとヴァイオリンが四つに組んだ手加減のなさに感じるものと同じもの。これがまた1960年代の古い録音とは思えない最高レベルの聴き応えの有る音で聞くことができることが、録音から60年を過ぎた今でもブラームスのヴァイオリン協奏曲を代表している最大の理由でも有るでしょう。官能的な美観と情熱。ブラームスの重厚な世界を聴いて最高の満足感を得られます。

清楚で良く歌って、しかも過剰なヴィヴラートに陥らない抑制された情熱と官能さえ感じさせて、瑞々しいテクニックがどこまでも爽やか。

クリスチャン・フェラス(Christian Ferras, 1933年6月17日〜1982年9月14日)フランスのヴァイオリニスト。ピエール・バルビゼとの共演によるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ集や、ベルクの《室内協奏曲》と《ヴァイオリン協奏曲》などの音源を残した。1964年以降は、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共演して、ドイツ・グラモフォンから協奏曲のステレオ録音を行い、ブラームス、シベリウス、チャイコフスキー、ベートーヴェン、ヨハン・ゼバスチャン・バッハの録音はとりわけ評価されている。その後もドイツ・グラモフォンにおいて、バルビゼとの共演により、ブラームス、シューマン、フランク、ルクーのヴァイオリン・ソナタを録音した。ジャン=クロード・アンブロジーニの伴奏により、小品集の録音も残している。使用楽器は、1728年製ストラディヴァリウス「Dragonetti, Milanollo」を1967〜1982の間所有している。


  • Record Karte
  • 1964年5月ベルリン、イエス・キリスト教会での録音。エンジニアはギュンター・ヘルマンス。

販売レコードの写真

  1. DE DGG SLPM138 930 クリスチャン・フェラス ブラー…
  2. DE DGG SLPM138 930 クリスチャン・フェラス ブラー…

CDはアマゾンで

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲、ハイドンの主題による変奏曲
カラヤン(ヘルベルト・フォン)
ユニバーサル ミュージック
2014-05-21


関連記事とスポンサーリンク
.