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ソ連軍隊と西側先進録音技術の融合の成果大。録音後50年を経ても失われぬ演奏の生命力。〜臓腑をえぐられるような凄絶なクライマックスが聴き手に迫ります。

地の底から湧き上がるような痛切な悲嘆、灼熱して燃え尽きんとする激情のほとばしりで聴く者を揺れ動く大波のうねりに乗せて、日常を忘れさす。

ドイツ・グラモフォン 不朽の名盤
20世紀のロシアを代表する巨匠エフゲニー・ムラヴィンスキー(1903~1988)が、1960年にドイツ・グラモフォンに録音したチャイコフキーの後期交響曲集は、発売以来一度もカタログから消えたことがない不朽の名盤です。
重厚で輝かしい金管や、コントラバスにいたるまで一糸乱れぬ弦のアンサンブルなど、ロシアの演奏伝統に依拠しつつも、粗野に走らず独自の洗練を感じさせる個性的な解釈は、ムラヴィンスキーのトレードマークといえます。臓腑をえぐられるような凄絶なクライマックスをつくる第1楽章。奥行と深い翳りを宿し充実した中低弦、木管の心情のこもった色彩、原初的と呼びたい本来の威力を発揮した金管の凄み、ヴァイオリンの豊かな表情が渾然一体となって、演奏のレンジの幅広さは抜群。
まさにロシアの慟哭を聴かせる演奏とでも言えばよいのか。ひたすら音楽の核心を見据えて、強いメリハリがドラマティックな躍動を生み出し、力強く盛り上げていく。全体の造形をくずさず、きびきびとしたリズムと端正なフレージングで、ひとつひとつの楽想を厳しく彫琢している。きわめて男性的な《悲愴(ひそう)》だが、音楽が暴力的にならないのは、ムラヴィンスキー特有の品格が基本を支えているからだ。
表面的にはストレートで淡々としたチャイコフスキーに聴こえるが、実はそうではない。その演奏スタイルは、ヘルベルト・フォン・カラヤンに代表される聴かせ上手な解釈とは異なり、主観的な解釈である。ただ彼はそうした解釈を実際の音に移すにあたって、少しでも客観的に聴こえるように全力を傾けている。
ムラヴィンスキーが再現するチャイコフスキーの世界は、文字通りロシアの風土、ロシアの自然、ロシアの民族、ロシアの歴史を背負って立つ音の営みであり、そこにある岩盤のような音楽の強さと優しさに心奪われる。地の底から湧き上がるような痛切な悲嘆、灼熱して燃え尽きんとする激情のほとばしりで聴く者を揺れ動く大波のうねりに乗せて、日常を忘れさす。
レニングラード・フィルで聴くチャイコフスキーの洗礼
エフゲニー・ムラヴィンスキーは、ソビエトの国営公社であったメロディア・レーベルにも後期交響曲の録音を行なっており(第4番=1958年、第5番=1940年代後半、第6番=1949年)、ヨーロッパでもさまざまなレーベルを通じて発売されていました。それらの録音からも1938年以来強い絆で結びついていたこのコンビ独特の演奏解釈はすでに確立されていることは聴き取ることができるものの、音質の貧しさは西側のそれに比すべくもありませんでした。1938年の常任指揮者就任以来、およそ50年間レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者として君臨したムラヴィンスキーは絶大なカリスマ性と鋭いセンスで聴衆を虜にしました。
ムラヴィンスキーは手兵レニングラード・フィルを率いて、1960年10月~11月、イギリス、フランス、ベルギー、オランダ、イタリア、スイス、オーストリアを回る長期演奏旅行に出ました。海外への渡航を厳しく制限されていたムラヴィンスキーにとって、1956年5月~6月のドイツ、スイス、オーストリアへの演奏旅行以来ひさしぶりの西側へのツアーとなり、ショスタコーヴィチの交響曲第8番のイギリス初演(9月23日=BBCによるライヴ収録あり)を含む、お得意のロシアものを中心に鉄壁のアンサンブルを披露して各地の聴衆の度肝を抜きました。
このチャイコフスキーの第6番は、1960年に行われたイギリス公演の後、オーストリアの楽友協会ホールで録音され、同録音最高峰の名盤です。ムラヴィンスキーは、生涯で演奏会の記録に残っている総演奏会数は実に133回に及びます。レニングラード・フィルは、1956年6月の訪欧時にもドイツ・グラモフォンにチャイコフスキーの後期交響曲をモノラルで録音していますが、この時は、ムラヴィンスキーは第5番と第6番《悲愴》のみで、第4番はクルト・ザンデルリンクが担当していました。1960年の秋、ムラヴィンスキーはレニングラード・フィルを率いてイギリス、フランスをはじめとした7カ国を巡り34回の公演を持ちました。
この機会をとらえ、ドイツ・グラモフォンはチャイコフスキーの後期交響曲3曲の録音を実施、ツアーの最初の公演国イギリス、エジンバラでの演奏会のあとロンドンで交響曲第4番が収録され、ツアーの最後の地となったウィーンでの演奏会の後、第5番と第6番《悲愴》が収録されました。
ステレオ録音の初期に多い古典配置
前回の録音から4年しか経っていないにもかかわらずドイツ・グラモフォンが再録音に踏み切ったのは、1950年代後半に導入された新しくステレオ技術によってステレオ・レコードを発売したいという点と、チャイコフスキーの交響曲第4番を首席指揮者であるムラヴィンスキーの指揮で残しておきたい、という強い希望があったためでしょう。
特筆すべきは、レニングラード・フィルの通常の古典配置と異なり、L→Rチャンネルで、弦楽器を第1ヴァイオリン→第2ヴァイオリン→ヴィオラ→チェロ→コントラバスというモダン配置にしている点です。ムラヴィンスキーのステレオ録音でこの配置を採用しているのはこの盤だけです。
第4番はロンドンのウェンブリー・タウン・ホール、第5番と第6番はウィーンのムジークフェラインザールという、いずれも音響には定評のある会場で収録されている点が大きなポイントです。この時期のドイツ・グラモフォンのサウンドらしい、コンサートホール的な奥行き感がそなわった名録音です。
ソ連軍隊と西側先進録音技術の融合の成果が多大にあったのではあるまいか。おそらくレニングラードの会場で露メロディアが製作したら、こうはいかなかったと思います。1960年と言えば、東西冷戦のまっ只中であり、旧ソ連の威信かけたような緊迫感漂う尋常ならざる演奏は、ムラヴィンスキーと楽団員に課されたこと。成功しなかった場合、旧ソ連共産党から粛清される恐怖感もあったろう。ムラヴィンスキーの情念と団員必死の一生懸命さが伝わってくるようだ。緊張感精妙さがありながら、力感に溢れ内に炎を燃えたぎらせている。爆発寸前の感情や熱気を押さえながら、闘志をもって突き進んで行く。表情は厳しい、ニコリともせずに毅然としつつ、最後には激しく慟哭する。まるで精緻で練り上げられた演奏でありながら、感情と感動に満ち溢れている。

本盤(SLPM138 659)はMADE IN GERMANYで始まるドイツ・チューリップ盤。


販売レコードの写真

  1. DE DGG SLPM138 659 エフゲニームラヴィンスキー チ…
  2. DE DGG SLPM138 659 エフゲニームラヴィンスキー チ…

商品名DE DGG SLPM138 659 エフゲニームラヴィンスキー チャイコフスキー「悲愴」

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