34-22188

商品番号 34-22188

通販レコード→独TULIP ALLE HERSTELLER フラット盤 赤ステレオ・ロゴ

〝明日はないかもしれない〟 ―  新型コロナウイルス禍の感染への不安とは違う。第2次世界大戦下におけるベルリンでの音楽活動は、〝命をかけた〟ものでした。それは劇場や、ラジオに耳を傾けるものにとっても〝これが最後かもしれない〟と、事情は全く同じでした。作曲家ワーグナー、指揮者フルトヴェングラーを切り口に、歴史と文化、そして「生きることの意味」について、飽くことなく語り続けた丸山眞男(「音楽の対話」文春新書)は、第2次世界大戦下でのヴィルヘルム・フルトヴェングラーとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏を人類が到達した最高の芸術の一つと主張しながら、しかし、そう言う極限状態で ― 〝命をかけた〟音楽を聴けた人々が果たして「幸せ」だったのかと疑問を投げかけています。戦争は社会全体を巻き込む出来事ですが、暴力・病というものはそれがいかに悲劇的な出来事であってもその経験はあくまでも個人とその周辺の範囲に留まらざるを得ないからです。事情を知って「同情」することはあっても、大戦末期のベルリンにおけるような極限状態の「共有」も現代日本のSNS社会では起こるはずもないのです。19世紀後半のチェコの偉大な作曲家ドヴォルザークは何といってもクラシックの3大メロディーメーカーのひとりである。後の二人はビゼーとチャイコフスキーだと、わたしは勝手に云っている。ブラームスは「彼がゴミ箱に捨てたスケッチでシンフォニーが1曲書ける」というほどドヴォルザークのメロディを評価していた。クラシック大作曲家きっての優れたメロディーメーカーであるドヴォルザークは、現代に言えば、ポール・マッカートニーだともいわれていた。が、それだけではなくスコアを追っていくとよくわかるのだが、とても緻密にオーケストラを書いている。色々なモチーフ(音型)を散りばめ、ポリフォニックに構築しながら全体の構成に気を配っている。ところが、幸か不幸か、第4楽章の10小節目などタータータータータターンと派手にホルンとトランペットが第一主題を鳴り響かすと、否応なく耳を奪うので、緻密さで引き立てていることにはなかなか気づかない。シンバルの扱いにしても気の毒なくらいだ。華やかであれば救いもあるが、作曲家が求めているのはくぐもった響きだ。金管楽器のチューバも同様、《新世界より》の第2楽章ぐらいしか使用されない、イングリッシュ・ホルンは主役で日本一知られているメロディを奏でている、その背景で、パート譜さえ、トロンボーンのついでに譜面が書いてあります。出番は2カ所、小節数にすると9小節で、全体で45分程度。その中でチューバの演奏時間は1分未満しかありません。しかし、ドヴォルザークは大真面目で、ハーモニーを重ねる目的以上に必要としています。そして、忘れてはならないドヴォルザークのもう一つの大きな特徴は、独特なリズム感にある。我々日本人には到底真似できないほどの複雑なリズム、これは彼のおそらく血の中にあるスラブ的リズムだろう。特に第3楽章では、顕著に現れる。3拍子の速い楽曲なのだが、そのリズムも聴きどころの一つである。白血病のために48歳で亡くなった名指揮者フェレンツ・フリッチャイが、1958年秋に胃と腸の大手術を受けるなどして1年間療養したうえで現場復帰していますが、病状の悪化により、1961年12月に指揮活動を中断せざるを得なくなるこの間の録音は、大きく芸風が異なっているのが特徴で、まだ若いのに晩年のような雰囲気さえ漂う独特なものとなり、その陰影を大切にしたスタイルには深い魅力が備わっていることが多かったようです。ドヴォルザーク:交響曲第9番《新世界より》は1959年10月録音。この時代のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、フルトヴェングラーを失って5年を経過、既にヘルベルト・フォン・カラヤンの支配下に入っていて、既にドイツの田舎オーケストラとしての風貌は失いつつありました。しかし、このときのフリッチャイのもとでは、そう言う古き良き時代の面影が甦っているかのようです。この時代のフリッチャイをドイツ人は〝フルトヴェングラーの再来〟と呼んだそうですが、アンサンブルは磨かれているどころか、お構いなし。「些細なことだ!」と言わんばかりのバーバリズムに満ちあふれた響きを聴かせてくる。響かせているのでなく、聴いてくれと訴えかけてくる。重心の低いベルリン・フィルのサウンドを絶妙な緩急でドライブするフリッチャイ。この聴きなれた名曲のイメージが変わるほど、陰影を描き切った重みと美しさを湛えた名演です。この異形と思えるような《新世界より》は、夭折の天才指揮者フリッチャイが残したステレオ録音の中で屈指の名盤。
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  • Record Karte
  • 1959年10月ベルリン、イエス・キリスト教会録音。
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ドヴォルザーク:交響曲第9番《新世界より》 他
フェレンツ・フリッチャイ
ハピネット
2013-10-09

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