34-20431
商品番号 34-20431

通販レコード→独ブルーライン盤
交響曲全9曲を別々のオーケストラで演奏し、それぞれの個性的な響きが楽しめるユニークな全集 ― ラファエル・クーベリックには「その音楽は概して中庸で、素朴な味わい云々」といった評が付いてまわる。ベートーヴェンの交響曲の解釈は1980年代から随分と変化を見せているが、近寄りがたいところもなければ、なれなれしく媚びることもない。全曲通してベートーヴェンの音楽を丁寧に汲み尽くしているアプローチで際立っています。中庸を得ているクーベリックがベートーヴェンの交響曲全9曲を、別々のオーケストラで演奏したユニークなセット。クーベリックの特徴は、強烈で個性的な音にこそある。それぞれの個性的な響きが楽しめるのがポイントです。それまでの概念を打ち破った企画で大きな話題を提供したクーベリックの1970年代の代表作。中には正規録音は唯一となるオーケストラとの競演もあり、その意味でも貴重。オーケストラの特徴と曲調を見事に合致させた企画力もさることながら、オーケストラが異なってもクーベリックには一貫した解釈の統一感があることには驚かされます。1971~75年ステレオ録音。クーベリックの希望だったのか、それとも企画ものだったのか、デッカでカラヤンがウィーン・フィルで一連の録音をするときに、クーベリックを使った轍を踏む。この全集と前後してカラヤン指揮ベルリン・フィルの全集も発売になった。例えば、クラシック初心者はカラヤン盤を手にしやすいが、クーベリック盤でオーケストラの個性を聴く経験は大きいことなので、ぜひお薦めしたい。至高のベートーヴェンの交響曲全集だとは断言しないが、他の指揮者ではなかなかこうは ― 各オーケストラはその特徴を表出しながらも全体としては統一感のあるレコード芸術として究極の“ベートーヴェン交響曲全集”として ― 成功しなかっただろう。そして、この全集の一番意味あるところは私は録音年代だと考えている。数多くレコードを聴いて通になるほどにクラシック音楽界の背景で、この時期ほど面白いことはない。ドイツ・グラモフォンが一貫した音質で取りまとめていること。熊本地震で断層が地表に出てきたようにオーケストラと指揮者の図式がごそっと動く直前の、まだ戦前からのローカル性を残していた9つの世界的オーケストラの音色の違いを楽しめる全集として、最高に面白い全集だ。
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録音順に追うと、第3番《英雄》はベルリン・フィルで1971年10月ベルリン、イエス・キリスト教会で録音。スケール大きくゆったり構えた演奏。無用な力みがないため流れが良く、第2楽章第3部のフガートは美しく感動的。ヴァイオリン両翼型配置も効果的です。第1楽章の呈示部反復は省略。まず全集を効き始めるのに、一つの指針としてこれを聞いておきたい。そこには、カラヤンでもフルトヴェングラーの亡霊に振り回された時期さえあったものですが、カラヤンのベルリン・フィルでも、ベルリン・フィルの音楽でもなく、ベートーヴェンの音楽が鳴り響いたのです。指揮者の格の違いを見せつけられたような気がします。第6番《田園》はパリ管弦楽団で1973年1月パリ、サル・ワグラムで録音。色彩豊かなオーケストラの響きがなによりの魅力。管楽器ソロが活躍する《田園》で、このフランスのオーケストラの中でも独特の管楽器の音色を聞かせるパリ管弦楽団のチョイスは成功でした。遅めのテンポを採択し、ロマンティックな旋律美を大切にした演奏を聴かせてくれます。第1楽章の呈示部反復は実施せず第3楽章の通常反復のみ実施。ヴァイオリン両翼型配置。ベルリン・フィルはもとより、ウィーン・フィルにはブルーノ・ワルターがレジェンドを刻んでいますが、ステレオ録音であったならば両翼配置であっただろうに惜しい思いがします。第5番はボストン交響楽団で1973年11月ボストン、シンフォニー・ホールで録音。遅めのテンポでじっくり取り組まれた名演。かっちりしたアンサンブルと重みのあるサウンドが快適です。第1楽章再現部ファゴットはホルンに改変してあります。両端楽章の呈示部反復は実施。通常配置。シャルル・ミュンシュに鍛え上げられフランス式の奏法が特に弦楽グループに染み込んでいた時代で、小澤征爾がガラリと音楽を変えてしまう前の響きが個性的。クーベリックとボストン交響楽団のレコードにはスメタナの「我が祖国」が今でも最高です。第2番はアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団で1974年2月アムステルダム、コンセルトヘボウ大ホールで録音。オーケストラの純度の高い響きとクーベリックのテンション高い音楽づくりが結びついた快演。豊富な動機のそれぞれが表情豊かに再現される第1楽章序奏部から音楽の格調が実に高く、続く呈示部での各素材の折り目正しい演奏はまさに絶品。第1楽章の呈示部反復は実施。通常配置。
愛称のついた4曲の交響楽曲に続いては、ヨーロッパにある伝統オーケストラでの個性を活かした録音が並ぶ。第1番はロンドン交響楽団で1974年6月ロンドン、ブレント・タウン・ホールで録音。いかにもイギリスのオーケストラらしい瑞々しい響きを立体感豊かに、十分に生かした非常に優れた演奏。伸びやかな音楽とエネルギッシュな音楽が交錯する第1楽章から実に魅力的で、当時のロンドン交響楽団の実力の高さを再認識させてくれること請け合いです。両端楽章の呈示部反復実施。ヴァイオリン両翼型配置。第7番はウィーン・フィルで1974年9月ウィーン、ムジークフェラインザールで録音。両端楽章の呈示部反復は実施せず第3楽章の通常反復のみ実施。ウィーン・フィルの美しい響きが存分に味わえる演奏で、見事な鳴りっぷりのホール・トーンがまた魅力十分。終楽章コーダ大詰めでのトランペットはクレンペラーを思わせ、非常に効果的です。ヴァイオリン両翼型配置。終楽章の終結部でのトランペットのクレッシェンドは身の毛がよだつ。フルトヴェングラーの名録音以降、名演奏を比較するのに困らない。第4番はイスラエル・フィルで1975年9月ミュンヘン、ヘルクレスザールで録音。イスラエル・フィルの弦楽サウンドが素晴らしい演奏。構えも大きく力強く、第1楽章主部の入りは雄大かつ切れ味も抜群という見事なもの。ヴァイオリン両翼型配置。本拠地ではなくヘラクレスザールということもあって、イメージは大きく広がる。バイエルン放送交響楽団は「合唱」で相交える。第9番《合唱》はバイエルン放送交響楽団、バイエルン放送合唱団(合唱指揮:ハインツ・メンデ)、ヘレン・ドナート(ソプラノ)、テレサ・ベルガンサ(メゾソプラノ)、ヴィエスワフ・オフマン(テノール)、トマス・ステュワート(バス)で1975年1月ミュンヘン、ヘルクレスザールで録音。第2楽章の反復は前半のみ実施し、主部のホルンかぶせはおこなっていません。ティンパニの音も良い質感で捉えられており、要所引き締めの効果も十分。全体に端然として密度の高い演奏で、声楽が入ってからのスケールはかなり大きいです。ヴァイオリン両翼型配置。テンポ設定、内声部の鳴らし方など本当にスコアが読み尽くされており、第1楽章再現部のトランペットのクレッシュンドや、第4楽章終結のマエストーソのテンポなど何度聴いても鳥肌ものだ。歌劇「ローエングリン」を思い起こさせ、“バイロイトの第九”にリスペクトしたい。第8番はクリーヴランド管弦楽団で1975年3月クリーヴランド、セヴェランス・ホールで録音。全編リズミカルという作品の特質を妙な強調感なしに伝える優れた演奏。いろいろな声部が立体的に聴こえるのも美点で、第3楽章中間部の美しさは特筆もの。第1楽章の呈示部反復と第3楽章の主部反復を実施。第4楽章の呈示部反復は省略。左右に飛び交うヴァイオリンが効果満点の両翼型配置。ジョージ・セルに鍛え込まれたオーケストラの機能美とホールの響きが効果を上げる。
録音時期と場所は本文に含めました。
DE DGG 2740 155 クーベリック ベートーヴェン・交響曲…
DE DGG 2740 155 クーベリック ベートーヴェン・交響曲…