実演で燃えるベームの特徴を最高度に伝える演奏として今後も語り継がれていく。 ― 長年、このオペラの最高峰と言われて高い評価を維持し続けている名演奏です。1960年代バイロイト音楽祭黄金期のキャストはもう完璧と言ってよく、この時期まさに絶頂期にあった主役のふたり、ビルギット・ニルソンとヴォルフガング・ヴィントガッセンを中心に、エーベルハルト・ヴェヒター、クリスタ・ルートヴィヒ、マルッティ・タルヴェラ、エルヴィン・ヴォールファールトと素晴らしいキャストが揃い、新進時代のペーター・シュライアーが若々しい美声の水夫役で花を添えています。カール・ベームの強烈な緊張感をみなぎらせた指揮も大きなポイント。「実演で燃えるベーム」の特徴を最高度に伝える演奏として有名なものですが、当初は聴衆無しのセッション録音を企画していたメーカーをベーム自身が「ぜひライヴで」と説得、3日間のゲネプロに1000人の聴衆を招き、1日1幕ずつ通しで収録されたと伝えられています。ベームのテンポも幾分速いがセカセカした感がなく、淡々と物語が進んでいくという聴こえ方。強烈な緊張感をみなぎらせた指揮に改めて拍手を贈りたい。バイロイトでの穴倉演奏という避けられないハンディを負っているものの、音の厚みを伴い、バイロイトの穴倉から湧き上がってくる金管が生々しくズシッ、ズシッと押し寄せてきて、ヘルベルト・フォン・カラヤンのような軽やかさともゲオルク・ショルティのような激しさとも違う、深く濃い音が迫ってきて圧倒されました。
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流線型のヘルベルト・フォン・カラヤンや全身全霊のヴィルヘルム・フルトヴェングラーとは違う、なにか古き良きドイツ=オーストリアの雰囲気を感じられるカール・ベームの指揮。フルトヴェングラーは時の経過につれて奥深さを痛切に感じるのは聴き手として、わたしが歳を重ねたことにあるのか。今となってはベームの音楽がわからなくなっている。カラヤンを際立てるために同時代にあったのだろうか。膨大なレパートリーの印象がカラヤンにはあるが、1945年以後の音楽には関心がないと明言している。ベームのレパートリーはどうだっただろう。『現在ドイツ、オーストリアに在住する指揮者としては、フルトヴェングラー亡きあと最高のものであろう。』とカラヤンとの人気争奪戦前夜の評判だ。『その表現は的確で、強固なリズム感の上に音楽が構成されている。メロディを歌わせることもうまいが甘美に流れない。彼は人を驚かすような表現をとることは絶対にないが、曲の構成をしっかり打ち出し、それに優雅な美しさを加え、重厚で堂々たる印象をあたえる。まったくドイツ音楽の中道を行く表現で、最も信頼するにたる。レパートリーはあまり広くはないが、彼自身最も敬愛しているモーツァルトや生前親交のあったリヒャルト・シュトラウスの作品はきわめて優れている。しかしブラームス、ベートーヴェンなども最高の名演である。』これが1960年代、70年代の日本でのカラヤンか、ベームかの根っこになった批評ではないか。
ビルギット・ニルソン、ヴォルフガング・ヴィントガッセン、エーベルハルト・ヴェヒター、クリスタ・ルートヴィヒ、マルッティ・タルヴェラ、クロード・ヒーター、エルヴィン・ヴォールファールト、ゲルト・ニーンシュテット、ペーター・シュライアー。1966年7月、バイロイト祝祭劇場での録音。解説書付属。
Engineer – Günter Hermanns. Producer – Dr. Hans Hirsch, Otto Gerdes. Recording Supervisor – Wolfgang Lohse. 5枚組。
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