34-19726

商品番号 34-19726

通販レコード→独ブルーライン盤

喜怒哀楽のドラマを千変万化に彩るクライバーの手腕。 ― 録音嫌いで知られた指揮者カルロス・クライバー(1930〜2004)が正規のセッション録音で残したオペラ全曲盤はわずか4つ。その中でクライバーが1970年以降に指揮したヴェルディのオペラは「椿姫」と「オテロ」だけですが、そのうち正規のセッション録音が行なわれたのはこの「椿姫」だけです。クライバーが「椿姫」を初めて指揮したのは1960年、ライン・ドイツ・オペラでのことで、それ以来シュトゥットガルトやミュンヘンで繰り返し取り上げ、最後に指揮したのは1989年、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場での上演となりましたが、イレアナ・コトルバスを主役に据えた「椿姫」の新演出をバイエルン国立歌劇場でクライバーが指揮したのは1975年4月のことで、外題役のコトルバスはそのままに、アルフレードをプラシド・ドミンゴ、ジェルモンをシェリル・ミルンズというより強力な歌手に入れ替えて翌年5月に集中的な録音セッションが行われ、さらに1977年に追加のセッションを行なって完成させた。本盤で録音場所となったミュンヘン市内のビュルガーブロイケラーは馴染みがないが、1885年に開店したこのビアホールは1830人を収容できる大規模な空間を擁し、ヴァイマール時代以来政治的な集会にも頻繁に使用され、ヒトラーのミュンヘン一揆の舞台ともなった歴史的な建物でした。その優れた音響効果のゆえに、またヘルクレスザール以外に録音に適したホールがなかったミュンヘンでは、ステレオ時代にルドルフ・ケンペ指揮でオーケストラの録音にも重宝されていました。第1幕の前奏曲が終わって幕が上がる。その部分を聴いただけで、このオペラを指揮してのクライバーの素晴らしさがわかる。前奏曲の暗とそれにつづく部分の明の対比を、これほど鮮やかにきかせる指揮者はクライバーをおいて他にいない。このオペラの悲劇性を精妙きわまりない表現によって明らかにし、常に生き生きとした流れと劇的で鮮やかな変化を備えた演奏によって、音楽の最深部にまで的確な光を当てつくしている。同じ旋律だが第3幕は悲劇への前奏で、第1幕の前奏曲は《椿姫序曲》と言える音楽なのだ。クライバーの緻密で俊敏な指揮のもと、バイエルン国立管弦楽団は強靭で引き締まった筋肉質な響きを獲得し、オーケストラ・パートに込められた喜怒哀楽のドラマを千変万化に彩っています。テンポも響きもリズムもきりりと引き締まり、躍動感と旋律美を十二分に生かした指揮、そしてヒロインのコトルバスが最高だ。華やかさと品格と切ないニュアンスがすべて真実味を持って迫ってくる点において比類がない。ヴィオレッタという華やかでありつつも切ないキャラクターを繊細に描き出すコトルバス、アルフレードの直情的な感情の起伏をストレートに歌うドミンゴ、そしてジェルモンという身勝手かつ包容力のある父親像を具現化したミルンズと、主役3人に適役が配されているのも大きなポイントです。数多くの実力派が育っている現在、今なおオペラ歌手として世界で最も一般に有名なのは間違いなくドミンゴでしょう。持ち前の美声と優れた歌唱表現、凛々しいヴィジュアルなどを併せ持ったドミンゴは、ソリストとしてはもとより、3大テノールのひとりとしても世界中から愛されるだけでなく、指揮者としても活躍の場を拡げたり、ワシントン・ナショナル・オペラやロサンジェルス・オペラの芸術監督も務めるなど、多彩な活動を繰り広げています。また、1993年からはオペラリア(プラシド・ドミンゴ国際オペラ・コンクール)というオペラ歌手のコンクールを開催し、若い才能にチャンスを与えることに熱心なことでも知られています。ニーナ・シュティンメやブライアン・アサワ、ホセ・クーラ、森麻季、ロランド・ビリャソンらがここから巣立っています。
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オペラ界においては、陰翳をたたえた美声、充実した中音域、卓越した演技力、すぐれた歌唱技術によって、世界各国において幅広い人気と高い評価を得ているプラシド・ドミンゴ、パヴァロッティの後、声に芯のあるテノールは出てこないのでしょうか。ドミンゴは、スペインのマドリード生まれ。両親はサルスエラ歌手。1949年、サルスエラ劇団を経営する家族とともにメキシコに移住、両親の一座で子役として舞台に立っていた。若くしてバリトン歌手としてキャリアをスタートした後、テノーレ・リリコ(叙情的な声質のテノール歌手)に転向したが、元来はより重いリリコ・スピントの声質だった。ドミンゴはバリトン出身だけにテノールの聞かせどころの最高音域は不安定であるが、美声と洗練された歌い口でオペラ通や批評家をうならせたのだった。特筆すべき多様性をもつ歌手であり、ヴェルディ、プッチーニなどのイタリア・オペラ、フランス・オペラ(『ファウスト』、『サムソンとデリラ』など)、ワーグナーなどのドイツ・オペラと広汎な演目をレパートリーとしている。その陰翳を帯びた声質と自在な表現力を生かして、30歳代で数あるテノールの役の中でも特に重厚な歌唱を要するオテロもレパートリーに加えた。ドミンゴのオテロは彼の世代の第一人者と見なされている。そして、3大テノールでドイツ・オペラに積極的なのは彼一人だけである。1968年には西ドイツのハンブルクでローエングリンを歌ってワーグナー作品にも進出したが、声帯障害を引き起こしてしまう。同年、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場にチレア作曲「アドリアーナ・ルクヴルール」マウリツィオ役でのデビューが決定、リハーサルを行っていたドミンゴだったが、同役を演じていたスター歌手フランコ・コレッリが突然出演をキャンセルしたため、劇場は代役をドミンゴに依頼、隙かさず劇場に駆けつけてマウリツィオを演じたドミンゴは、思いがけず数日早まったメトロポリタン・デビューを成功させる。また、1969年にはエルナーニでミラノ・スカラ座、1971年にはカヴァラドッシを歌ってロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスにデビューし、世界的な名声を確立した。またドミンゴは、ロマンチックなオペラのヒーローに相応しい、端正な顔立ちと高身長にも恵まれている。『愛の妙薬』のネモリーノのような軽いレパートリーにおいても、リリックに柔らかに歌う発声と演技力により評判になった。しかし、声が成熟して重みと厚みを増すに従いワーグナーの諸役も無理なく歌えるようになり、徐々に彼の主要なレパートリーとなっていく。また伊仏独の多くのオペラに加え英語の新作オペラやオペレッタの英語版まで歌い、のみならずロシア語オペラの『エフゲニー・オネーギン』や『スペードの女王』を原語で歌うなど、語学能力も高い。ドミンゴのレコード&CD録音は、オペラ全曲盤、オペラ・アリア集、ポピュラーソング集など膨大な数にのぼる。RCA、EMI、ドイツ・グラモフォン、デッカ、ソニークラシカルなど多くのレコードレーベルで録音を行っており、長年デッカと専属契約を結んでいたパヴァロッティとはこの点でも対照的である。ドミンゴはヴェルディのテノール向けのアリアを、ヴェルディが上演国に合わせてそれぞれの言語で作曲したオリジナル版からの複数版を含めて全数収録したCDセットを録音し、批評家からも概ね好意的な評価を得ている。近年は再びバリトン歌手として活動しており、『シモン・ボッカネグラ』の題名役や『椿姫』のジェルモン役で高評価を得ている。
Verdi: La traviata
Carlos Kleiber
Deutsche Grammophon
2004-11-09

ヴィオレッタ・ヴァレリー:イレアナ・コトルバス(ソプラノ)、フローラ・バルヴォア:ステファニア・マラグー(メゾ・ソプラノ)、アンニーナ:ヘレーナ・ユングヴィルト(ソプラノ)、アルフレード・ジェルモン:プラシド・ドミンゴ(テノール)、ジョルジョ・ジェルモン:シェリル・ミルンズ(バス)、ガストン子爵:ヴァルター・グリーノ(テノール)、ドゥフォール男爵:ブルーノ・グレッラ(バリトン)、ドビニー公爵:アルフレード・ジャコモッティ(バリトン)、グランヴィル医師:ジョヴァンニ・フォイアーニ(バス)、ジュゼッペ:ヴァルター・グリーノ(バリトン)、フローラの従僕:パウル・フリース(テノール)、使者:パウル・ヴィンター(テノール)、バイエルン国立歌劇場合唱団(合唱指揮:ヴォルフガング・バウムガルト)、バイエルン国立管弦楽団、指揮:カルロス・クライバー。エグゼクティヴ・プロデューサー:ハンス・ヒルシュ。レコーディング・プロデューサー:ハンス・ウェーバー。エンジニア:クラウス・シャイベ。1976年5月14日~21日、1977年1月26日、6月25日&26日ミュンヘン、ビュルガーブロイケラーでの録音。2枚組。