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DE DGG 2532 035 パールマン&バレンボイム エルガー・ヴァイオリン協奏曲

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《ノーブルで憂愁にも満ちた「英国のエルガー」の香りに満ち溢れた素晴らしいもの。圧倒的な力強さと華やかさ、ヴィヴラートの濃厚な甘さには酔いしれるしかない。》 近代イギリスを代表する作曲家、サー・エドワード・ウィリアム・エルガー( Sir Edward William Elgar )は、経済的に恵まれなかったため正規の音楽教育を受けることができず、ほとんど独学で勉強したそうですが、ピアノ調律師で楽器商を営んでいた父親のウィリアムは生業のかたわら聖ジョージ・ローマ・カトリック教会のオルガニストを務めていたそうですから、やはりその血の中には音楽家の資質が備わっていたということなのでしょう。若きエルガーはシューマン、ワーグナーの作品にはとりわけ強く影響を受けたとされています。代表作のひとつである『エニグマ(謎)』変奏曲がハンス・リヒターの指揮によって初演され、オラトリオ『ゲロンティアスの夢』はリヒャルト・シュトラウスが絶賛したことで、その名声はヨーロッパ中に広まります。エルガーのもっともポピュラーな作品である行進曲『威風堂々』第1番中間部の有名な旋律は、今日『希望と栄光の国』として愛唱されイギリス第2の国歌とまで称されています。1914年(旧吹込み)以来エルガーはレコーディング活動にも積極的であり、1920年にマイクロフォンによる電気吹き込みの技術が新しく開発され、エルガーは自身の代表作を次々とレコーディング、ビートルズが使用したことで有名な EMI のアビー・ロード・スタジオで初録音をおこなったのはエルガーでした。ヴァイオリン協奏曲は、エルガーが自身の最も親しんだこの楽器のために書いた唯一のものであり、当時のスーパー・スターであるフリッツ・クライスラーが初演、彼に捧げられました。エルガーらしい甘美な旋律もさることながら、細かなオーケストレイションやピツィカート・トレモロといった特殊なテクニックを要する箇所も登場します。そして、スコアの扉にスペイン語で「ここに・・・・・の魂が秘められている」と謎の引用句が記されている。ここは正しくは5つの臥せ文字。エルガーは真相を明かすことはありませんでしたが同時代の仲間や後世の研究家が様々名前を予測し、それがこの協奏曲の難解さを助長、聴く人の好奇心を刺激するポイントにもなっている。これはアラン=ルネ・ルサージュという作家の「ギル・ブラス Gil Blas」という小節の一句だそうですが、曰く5文字は画家ジョン・エヴァレット・ミレーの娘でエルガーが「アネモネ Windflower 」の愛称で呼んでいたアリス・ステュアート=ワートリー男爵夫人( Alice )であるという説。エルガーの元カノだったヘレン・ウィーバー( Helen )だったという説。エルガーのアメリカの友人であるユリア・ワージントン( Julia )であるという人。更にはエルガー夫人のアリスその人、いやエルガーの母だという意見もある上に、実はエルガー本人( Elgar )だという意見も登場するほど。他にも7~8人にも及ぶようです。音楽も正にそれを反映し、この協奏曲には3つの楽章に登場するテーマは7つか8つほど。第1楽章第2主題、第2楽章冒頭、第3楽章の第2主題は、それぞれ異なる女性を想わせ、第2楽章と第3楽章でエルガー得意の表情記号である Nobilimente で出現する言わば「貴族の主題」の人物は重要で、怪人二十面相宜しく、変形されたモチーフで特に第2、3楽章の多くの箇所に登場します。こうした登場人物たちは3つの楽章で複雑に絡み合い、時には変奏されることから、このヴァイオリン協奏曲を難しくしている根本です。ヴァイオリンの奏法はバロック時代に確立しきっていますが、特に第1楽章第2主題がエルガーの発明になるという弦のピチカート・トレモロに導かれて登場する主題は「謎」の鍵かもしれません。イツァーク・パールマンのヴァイオリンは豊かな表情を湛え、魅力あふれたこの作品を存分に弾き込んでおり、特段に美しい響きを聴かせる。超高音の音程の正確なこと。一つ一つの音が、どんなに難所でも、はっきりと、きらびやかに鳴っています。1981年3月シカゴ録音。イツァーク・パールマンは彼が22歳の時に録音した最初のコンチェルト・グループ ― チャイコフスキー、シベリウス、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番 ー の入れなおしを完了した時、これらの初録音を未熟だと思っていると言っていた。パールマンほどの名手になると、若き日の録音はそれなりに価値があり、一人の偉大なアーティストの成長の軌跡をたどることの出来る貴重なドキュメントというべきだろう。パールマンは13歳の時、エド・サリヴァン・TVショーのゲストに招かれて、渡米して研鑽(けんさん)を深めるきっかけを掴んだが、このレコードの発売当時、彼は自己を語っている。『ぼくは、ぼくが13歳で信じがたいほどの驚異的天才であったとは信じていない。OK、ぼくは才能に恵まれてはいたが、アブノーマルな天才じゃなかったな ― 天才とは、良かれ悪しかれ、アブノーマルなもんでしょう。ぼくの場合には、それは健全な才能だったし、ぼくの生活からかけ離れたものじゃなかった(グラモフォン誌 '81年9月号)』クライスラーとハイフェッツのレパートリーを現代に更新し充足しうるヴァイオリニストと言ったら、パールマンを措いて他にないだろう、と期待が大きかった時代を邂逅できるレコード。全ての音程は完璧に制御され、徹底的な美音、暖かで繊細・豊麗な歌い回し等が彼の演奏の特徴である。レパートリーは極めて広く、協奏曲・ソナタのみならず、フリッツ・クライスラーなどの小品集でも高い評価を受ける。また純粋クラシック音楽以外の分野も手がけ、ユダヤの民族音楽を歌ったものやスコット・ジョプリンのラグタイム集などの演奏等の業績も見られる。パールマンが弾く楽器は、かつてフランスのヴァイオリニスト、エミール・ソーレが所有していたグァルネリ・デル・ジェスの「ソーレ( Sauret , 1740-1744 )」と、パールマンが23歳の時にメニューヒンに弾かせてもらい恋に落ちた楽器で、「もし手放す気になった時には是非僕に売ってください」とお願いしていた。メニューヒンより購入した、ストラディヴァリウスの黄金期に類される1714年製「ソイル( Soil )」を1986年から使用している。オーケストラのクレッシェンドを実感するためには、全楽器が同時にスタートしてはならない。クレッシェンドはすべての音が聞き取れるようなやり方で有機的に組織化されなければならない。つまり、それぞれの楽器の音が完全に伝わってこなければならない。指揮者というものは聴覚的に考えることができなければならない。 ― バレンボイムにとってエルガーは特別な作曲家です。若い頃にイギリスを拠点に生活していたバレンボイムは、バルビローリとの関わりもあってか、エルガーの作品には特別な親しみを感じていたようで、実演だけでなくレコーディングにも早くから取り組み、交響曲や管弦楽曲、協奏曲で成果を上げてもいました。高貴で優美、かつ情熱にも満ちた第1楽章、抒情のしたたりに思わず目頭が熱くなってしまう第2楽章。そして、ソロの早いパッセージが連続しスリリングな第3楽章。それが、最後には、1楽章の冒頭の高貴な旋律が回帰してきて、感動の高まりは最高潮となる。けっこう自由なアプローチも、感興重視のバレンボイムならでは。バレンボイムは演奏家である前に、独自の音楽観を持った音楽家であり、楽想そのものの流れを掴むことのできる稀有な才能の持ち主であろう。テンポの揺れは殆ど無く、凪の中で静かに時間が進み、色彩が移り変わっていく。全体的には厚めの暖かみのある音色で、煌めき度は高くなく沈んだ暖色系の色がしている。ピアニストからスタートして、もともとフルトヴェングラーに私淑していたこともあり、さらにメータ、アバド、ズッカーマンなどとともに学びあった間柄で、指揮者志向は若い時からあったバレンボイム。7歳でピアニストとしてデビューしたバレンボイムの演奏を聴いた指揮者、マルケヴィッチは『ピアノの腕は素晴らしいが、弾き方は指揮者の素質を示している』と看破。52年、一家はイスラエルへ移住するが、その途上ザルツブルクに滞在しフルトヴェングラーから紹介状“バレンボイムの登場は事件だ”をもらう。エドウィン・フィッシャーのモーツァルト弾き振りに感銘し、オーケストラを掌握するため指揮を学ぶようアドヴァイスされた。ピアニスティックな表現も大切なことだとは思いますが、彼の凄さはその反対にある、音楽的普遍性を表現できることにあるのではないか。『近年の教育と作曲からはハーモニーの概念が欠落し、テンポについての誤解が蔓延している。スコア上のメトロノーム指示はアイディアであり演奏速度を命じるものではない。』と警鐘し、『スピノザ、アリストテレスなど、音楽以外の書物は思考を深めてくれる』と奨めている。バレンボイムの演奏の特色として顕著なのはテンポだ。アンダンテがアダージョに思えるほど引き伸ばされる。悪く言えば間延びしている。そのドイツ的重厚さが、単調で愚鈍な印象に映るのだ。その表面的でない血の気の多さ、緊迫感のようなものが伝わってくる背筋にぞっとくるような迫力があります。この時期のレコードで特に表出している、このロマンティックな演奏にこそバレンボイムを聴く面白さがあるのです。「トリスタンを振らせたらダニエルが一番だよ」とズービン・メータが賞賛しているが、東洋人である日本人もうねる色気を感じるはずだろう。だが、どうも日本人がクラシック音楽を聞く時にはドイツ的な演奏への純血主義的観念と偏見が邪魔をしているように思える。近年、クラシック音楽の新録はダウンロード配信だけのケースが増え、往年の大演奏家たちの活動の把握が難しいが2014年から新たな「エルガー・プロジェクト」をシュターツカペレ・ベルリンとスタートしている。人気の点では確かにチェロ協奏曲に一歩譲るものの、パールマンは高いテクニックを駆使し、懐深いおおらかな歌を聴かせています。ヴァイオリン協奏曲としては50分を超える超大作を、気が付くと、すっきりとした気分で聴き終えている。パールマンとバレンボイムのとても美しく丹精な演奏。みずみずしく、余裕さえ感じられるバレンボイムのリードの下、パールマンが持ち前の美しく華麗な音色で思う存分に演奏している様に感じる。
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