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ジェームズ・レヴァインは才能を持て余してしまった指揮者。ピアノ、室内楽、コンサート指揮、オペラ指揮という4つの分野で活躍していた才能にはすごいものがありました。 ―  ジェームズ・レヴァインといえば、どんなオーケストラを指揮しても鳴りっぷりの良いサウンドを引き出す天才的な手腕と、楽曲構造を堅牢に示し、旋律も正確な拍でよく歌わせるという完成度の高い音楽づくりに特徴があります。10歳でピアニストとしてデビューしたレヴァインは、その後、ルドルフ・ゼルキンや、ジョゼフ・レヴィン、ジャン・モレル、そしてラサール四重奏団のワルター・レヴィンといった巨匠たちの薫陶を受け、さらに1965年からの5年間はジョージ・セルの助手を務めて実力をつけていきます。そうした努力が実って、1970年、27歳でフィラデルフィア管弦楽団で指揮者デビューして成功を収め、同年、サンフランシスコとウェールズではオペラ・デビューして評判となり、翌年にはメトロポリタン歌劇場にも登場、1973年にはシカゴ交響楽団のラヴィニア音楽祭音楽監督に就任するという、プロとして華々しいスタートを切ることになったレヴァイン。1980年代なかばにRCAからドイツ・グラモフォンに移ってからは、重厚さや抒情美への傾倒もみせるようになり、声楽大作の指揮でも実力を発揮しました。また、長年メトロポリタン歌劇場で培った劇場感覚を活かした起伏の大きな指揮にさらにスケール感が加わったのもこの時期の特徴で、1990年代なかばまでの約10年間に集中して数多くの録音を制作することになります。ピアノ、室内楽、コンサート指揮、オペラ指揮という4つの部門で腕を磨き、それぞれの分野で活躍していたレヴァインの才能にはすごいものがありましたが、レコーディングでもそれは確認することが可能です。ラサール弦楽四重奏団は、1946年にヴァイオリンのヴァルター・レヴィンによって結成され、寄贈されたアマティの楽器を用いて演奏してきました。メンバーはヴァルター・レヴィン(第1ヴァイオリン)、ヘンリー・メイヤー(第2ヴァイオリン)、ピーター・カムニツァー(ヴィオラ)、リー・ファイザー(チェロ)。1980年録音のシューマンのピアノ五重奏曲ではピアノにジェームズ・レヴァインを迎え、豪華な共演となっております。ラサール四重奏団の演奏する古典の名曲は、独特の響きで心に迫ってきます。聴いていて嫌な音は何一つ立てない。スマートでストレートで腹にもたれないクールなもの。その後に現れた四重奏団に比べると、何か禁欲的なまでに「静謐な」演奏をする人達という印象もある。どこを取り出しても音色の質が均質というあたり、ハーゲン四重奏団の極限の音色感覚とかを聴いてしまうと、もっと細やかな描き分けが欲しいということも出てくるだろう。それがラサールの持ち味でもあるだろうが、これが聴く人によっては巌しく感じられる場合もあるのでしょう。ハーゲンの極限の音色感覚とかを聴いてしまうと、もっと細やかな描き分けが欲しいということも出てくるだろう。この大理石の現代彫刻に手で触れるかのような、現代的でありつつも安定感の高い落ち着いたひんやりとした感触に寧ろ安心感を感じるのです。彼らの演奏は、美しいアンサンブルの音色といった価値感や、作品から文学的なドラマや宗教的な迄の精神性といったようなものにその重点を置いてはいないようです。そのアンサンブルは、何処までも音そのもののリアリティが最優先され、結果聴く者に未聞の世界を体験させてくれます。レヴァインは伴奏ピアニストとしてのうまさは定評あるものだが、この人は根が健全すぎないだろうか、決して弦楽器と張り合いすぎない巧妙なスタンスで役割を果たしている。その核融合が、恐らくこの演奏を口当たりのいいものにするのには相当貢献している。何かひどく静かな落ち着いた時間と空間の中にいるかのような感触がする。
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ラサール弦楽四重奏団(LaSalle Quartet)はアメリカで結成され、20世紀音楽を得意とした四重奏団。1946年に結成され、1987年に解散した。第1ヴァイオリン担当のヴァルター・レヴィンによって結成され、寄贈されたアマティの楽器を用いて演奏した。世界のたいていの主要な弦楽四重奏団がラサール弦楽四重奏団のメンバーに指導を乞うており、なかでもアルバン・ベルク弦楽四重奏団やアルテミス四重奏団、フォーグラー四重奏団、プラジャーク弦楽四重奏団が代表的な例として知られる。古典派やロマン派のような標準的な曲目もレパートリーに取り上げてはいたが、新ウィーン楽派(シェーンベルクやベルク、ウェーベルン、アポステル)以降の現代音楽をレパートリーに取り入れたことや、ジェルジ・リゲティから弦楽四重奏曲第2番を献呈され、同作を1969年12月14日にバーデンバーデンで初演した団体としても名高い。ドイツ・グラモフォン・レーベルに、当時まだ謎の作曲家であったツェムリンスキーの弦楽四重奏曲全集を録音したことによって、いわゆる「ツェムリンスキー・ルネサンス」の源流を創り出したと看做されており、この録音は、ドイツ・シャルプラッテン賞を授与された。ベートーヴェン後期の四重奏曲を、堅固なアンサンブルでしっかりと歌う。4つの楽器の重なり合いは意外にシンフォニックで、幾らか表現が過多なほどですが、アクセントも気が利いています。リズムに躍動感が有り、余計なことを考えずに聴いていて非常に楽しめる純音楽的な演奏です。
ヴァルター・レヴィン(第1ヴァイオリン)、ヘンリー・メイヤー(第2ヴァイオリン)、ピーター・カムニツァー(ヴィオラ)、リー・ファイザー(チェロ)、ジェームズ・レヴァイン(ピアノ)。1980年10月(シューマン)、1978年5月(ブラームス)ニューヨーク、RCAスタジオでのプロデューサー:ライナー・ブロック、バランス・エンジニア:ウォルフガング・ミットレーナー、レコーディング・エンジニア:クリストファー・アルダーによる録音。
DE DGG 2531 343 ラサール弦楽四重奏団 シューマン・ピ…
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