ポピュラーな小曲でも緊張感にあふれた名演奏 ― ベートーヴェン生誕200年の前年となる1969年、短期間で録音された「ベートーヴェンの録音でも珍しい劇音楽」から序曲を抜き出し、それに1965年録音の作品を加えたアルバム。カラヤンの手にかかると、どんな作品にもダイナミックなドラマが生じる。彼は1973年にはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を率いて6度目の来日をしたが、毎回のように大きな話題を呼び、毎回のように“カラヤン旋風”を湧き起こしている。時代が選んだ、カラヤンは世界の音楽の帝王である。オーストリアのザルツブルクに生まれ、モーツァルテウム音楽院とウィーン音楽院で学んで、19歳のとき指揮者としてデビューした。ウルム歌劇場、アーヘン歌劇場の指揮者を歴任した後、1938年にはベルリン国立歌劇場の音楽監督に迎えられ一躍名声を高めた。その頃彼は“ドイツのトスカニーニ”とも呼ばれ、ウィーン交響楽団の指揮者をつとめて大好評を博した。1955年からはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に迎えられ、フルトヴェングラーの影響が大変強かったこのオーケストラを自分の意のままに、いわば自分の楽器のように作り上げたのである。ちなみに1959年頃のカラヤンは、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団終身指揮者、ウィーン国立歌劇場総監督、ウィーン楽友協会終身指揮者、ザルツブルク音楽祭総監督といった具合に、それこそヨーロッパ音楽界の重要なポストを独占して“帝王”の名を欲しいままにしていた。1967年からは、自らザルツブルク・イースター音楽祭を主宰、1969年からはパリ管弦楽団の音楽顧問に就任、カラヤン指揮者コンクールも自ら開催し、若手指揮者の育成にも努め、目覚ましい活躍ぶりを示している。彼のレパートリーは古典から現代音楽に至るまで、非常に広い。カラヤンの表現は極めてスケールが大きく、現代的な感覚と知性に裏づけられた明快な演奏は絶妙といって良い。また彼はポピュラーな小曲を指揮するときでも、決して手を緩めることをしないので、それだけに小曲でも緊張感にあふれた名演奏が多い。このレコードも、その好例の一つであろう。
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《エグモント》はゲーテが12年もの歳月を費やして書き上げた5幕の悲劇である。おおよその粗筋は〈オランダの名門の出であったエグモント伯爵は、スペインの圧政から祖国を救おうとするが、ついに捕らえられ死刑を言い渡される。それを聞いた愛人グレールヒェンはエグモントを助けに行くが、遂に彼女も捕らえられてしまう。もう彼を救うことは出来ないと観念したグレールヒェンは思い余って毒を一気に飲み干す。ところが彼女の幻影は自由の女神に変身して獄中のエグモントの前に姿を現し、祖国は救われたと告げる〉といったもので、ベートーヴェンが、この悲劇のために付帯音楽を書いたのは1810年、40歳の5月であった。この付帯音楽は序曲を含めた全10曲から出来ているが、序曲がずば抜けて優れているので、この序曲だけが屡々演奏会のプログラムを飾っている。曲は悲劇的な序奏を持ったソナタ形式で、主部に入ってからあらわれる2つの主題は
ドイツ、オーストリアの指揮者にとって、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスは当然レパートリーとして必要ですが、戦後はワーグナー、ブルックナーまでをカバーしていかなくてはならなくなったということです。カラヤンが是が非でも録音をしておきたいワーグナー。当初イースターの音楽祭はワーグナーを録音するために設置したのですが、ウィーン国立歌劇場との仲たがいから、オペラの録音に懸念が走ることになり、彼はベルリン・フィルをオケピットに入れることを考えました。カラヤンのオペラにおけるEMI録音でも当初はドイツもの(ワーグナー、ベートーヴェン)の予定でしたが、1973年からイタリアもののヴェルディが入りました。EMI がドイツものだけでなく広く録音することを提案したようです。この70年代はカラヤン絶頂期です。そのため、コストのかかるオペラ作品を次々世に送り出すことになりました。オーケストラ作品はほとんど60年代までの焼き直しです。「ベルリン・フィルを使って残しておきたい」というのが実際の状況だったようです。この時期、新しいレパートリーはありませんが、指揮者の要求にオーケストラが完全に対応していたのであろう。オーケストラも指揮者も優秀でなければ、こうはいかないと思う。歌唱、演奏の素晴らしさだけでなく、録音は極めて鮮明で分離も良く、次々と楽器が重なってくる場面では壮観な感じがする。非常に厚みがあり、「美」がどこまでも生きます。全く迫力十分の音だ。そして、1976年にはウィーン・フィルから歩み寄り、カラヤンとウィーン・フィルは縒りを戻します。カラヤンは1977年から続々『歴史的名演』を出し続けました。この時期はレコード業界の黄金期、未だ褪せぬクラシック・カタログの最高峰ともいうべきオペラ・シリーズを形作っています。
劇付随音楽「エグモント」OP.84〜序曲、序曲「コリオラン」 OP.62、歌劇「フィデリオ」〜序曲 OP.72b、レオノーレ序曲第3番 OP.72a、劇付随音楽「アテネの廃墟」OP.113〜序曲。1965年9月21、22日ベルリン、イエス・キリスト教会でのオットー・ゲルデスのプロデュース、ギュンター・ヘルマンスの録音。エグモント序曲とアテネの廃墟序曲は1969年1月3日に同録音。ベートーヴェン生誕200年の前年となる1969年の年明けに、短期間で録音された劇音楽《エグモント》と《ウェリントンの勝利》から序曲を抜き出し、それに1965年録音の作品を加えたアルバム。カラヤンの手にかかると、どんな作品にもダイナミックなドラマが生じる。
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