鋼鉄のピアニスト・ギレリスのすごさが如実に味わえる。ただただうっとり。 ― ギレリスの協奏曲録音のなかで重要な位置を占める名盤の誉れ高い1972年録音。〝鋼鉄のピアニスト〟と呼ばれるだけあり、力感に満ちた表現を聴かせます。ただ、やり過ぎという感じはなく、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共に強い構成感を感じます。さらにオイゲン・ヨッフムとベルリン・フィルが絶妙なアンサンブルで、素晴らしいブラームスを奏でている。オーケストラやピアノの力量のすごいことはわかる。でも、こういうふうにやらなくても、ブラームスの圧倒的な凄さは現せるので、この演奏のよさがわからない。それでも、骨太のピアノとベルリン・フィルの完璧なアンサンブルは素晴らしい。名ピアニストの故エミール・ギレリスは強靱なタッチで迫力ある演奏を聴かせるばかりでなく、とっても繊細でロマンティックな所もあり、その対比が絶妙で実に素晴らしい。おそらくヨッフムとの相性も良いのだと思います。同時期にヨッフムはドレスデン国立管弦楽団とブルックナーの全集をEMIに入れている。ヨッフムがベルリン・フィルから見事なブラームス・トーンを引き出し、重厚感たっぷりの演奏を聴かせ、ドッシリ構えてギレリスをサポートしています。ブラームスのピアノ協奏曲は、オーケストラが重要な役割を果たす場面が連続する作品で、それだけに指揮者とオーケストラには、まるで交響曲のような演奏のグレードが求められるため、これまで名盤といわれてきたものの多くが、有名オーケストラと指揮者によるものだったのも頷けるところです。そうした名盤群の中でも、もっと気骨のある演奏が聴きたいと思ったとき、本盤は最適な巡り合わせとなる。このギレリスと名指揮者ヨッフム指揮ベルリン・フィルによる演奏で、パワフルなピアノと、オーケストラの壮大な演奏が、図抜けた存在感を示していたものでした。20世紀ドイツを代表する名匠ヨッフム(1902〜1987)は、1902年11月バーベンハウゼン生まれ。ドイツ・グラモフォンへ数多くの録音を特に1950、1960年代という壮年期に行っています。ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナーという三大Bの作品では、最も熱く、渋く、重厚、そしてロマンティックで熱情的な演奏は、現在においても名盤として称賛され続けています。1972年にベルリンのイエス・キリスト教会で録音されたこの協奏曲は、従来のピアノ協奏曲とは一線を画した〝ピアノ付き交響曲〟といった趣の、気宇広大ともいえるスケールがある。抑制された沈鬱感が横溢する晦渋さを湛えた作品。この教会での録音ならではの野太い音質も功を奏し、きわめて重厚なサウンドがリスニング・ルームを埋め尽くしてくれます。ヨッフムとベルリン・フィルの純ドイツ的な響きも聴きもの。録音はややオーケストラから距離をおき、ピアノは適度に位置します。
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オイゲン・ヨッフム(Eugen Jochum)の演奏スタイルに派手さはなく地味ではあるが、堅固な構成力と真摯な態度、良い意味でのドイツ正統派の指揮をする。やはり本領はヨハン・ゼバスティアン・バッハ及びロマン派音楽と思われる。彼は音楽を自己の内心の表白と考える伝統的ドイツ人で、したがってバッハ、ブルックナー、ブラームスに於いては敬虔な詩情を迸っている感動的な名盤を生むが、モーツァルトの本質を探ろうとするほどに湧き溢れて来るがごとき心理的多彩さや、ベートーヴェンの英雄的激情、それにリヒャルト・シュトラウスの豊麗なオーケストラの饒舌を表現するには乏しい結果となっている。ヨッフムがはたして、すでに成長すべき極言まで達してしまった人なのか、それともさらに可能性が期待できるのか、いつまでも巨匠の風貌に至らないのが、好感とともに焦燥を禁じえないが、おそらく同世代のカール・ベーム、エドゥアルト・ファン・ベイヌム、ヘルベルト・フォン・カラヤンたちにくらべれば、個性と想像力において弱く、名指揮者にとどまるのではないかと思われた。ところが、後年のヨッフムの録音活動の活発さは目を引いた。戦前のSPレコードでは、わずかにテレフンケンに録音したレコードがベートーヴェンの「第7」「第9」ほどだったのと比べて、彼が晩年型の指揮者と称されることを簡易に理解できる面だろう。ベルリン放送交響楽団(1932~34年)、ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団(1934~49年)、バイエルン放送交響楽団(1949~60年)、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1961~64年)、バンベルク交響楽団(1971~73年)とオーケストラ首席指揮者を務めた変遷を見ると、バイエルン放送響以外は短いのに気づくが、同時に2つのオーケストラを兼務することをしていないことも見て取れる。そうした、一つ一つの歴任を経て来たことは彼の律儀な性格のあらわれかも知れない。でも彼の真価が本当に発揮されるのは1970年代に入ってからで、幾つかの楽団を渡り歩いたのちの70歳代になってからである。シュターツカペレ・ドレスデンとのブルックナー交響曲全集やロンドン・フィルハーモニー管弦楽団とのブラームス交響曲全集、そしてロンドン交響楽団とのベートーヴェン交響曲全集をのこしたのもすべてこの時代である。早熟な天才指揮者ではなかったが、長く生き、途切れること無くオーケストラを相手したことで、職人指揮者で終わることもなかった。
1972年6月12、13日ベルリン、イエス・キリスト教会でのクラウス・シャイベによるセッション、ステレオ録音。
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