- ―6月2日―メンデルスゾーン作曲の《結婚行進曲》が初めて結婚式で演奏されたといわれる日(1847年)。イギリスのとある州の教会で行われた式だったという記録がある。今では結婚式ですっかりお馴染みの本作はもともと、シェイクスピアの戯曲にメンデルスゾーン が音楽を付けた《夏の夜の夢》(1826年作曲)の中の一曲。

DE DGG 104 451 ラファエル・クーベリック(指揮) バイエルン放送交響楽団 メンデルスゾーン/「真夏の夜の夢」序曲~録音の為のゲネプロと本番
- ヴィンテージ盤レコード→ドイツ/チューリップレーベル(ALLE)。1964年の録音です。優秀録音。見開きジャケット。 録音の為のゲネプロ風景と本番が収録されています。
第一幕:現実の焦土、あるいは冷徹な構造
- 鼻腔の奥を容赦なく刺すのは、頽廃した都市が吐き出す、焦げたコンクリートの乾いた死臭。そして、皮膚にねっとりとまとわりつく、湿った灰の重み。
- 未曾有の大震災は、私たちが築き上げた傲慢な文明をまたたく間に噛み砕き、見渡す限りの凄惨な瓦礫の山へと変えてしまいました。天井を劈くようなあの悍ましい地響きが、ようやく遠い微鳴へと退いたその時。避難所の薄暗い天井に据えられた歪なスピーカーから、場違いな調べが滴り落ちてきたの。それはメンデルスゾーンの『夏の夜の夢』序曲──いえ、かつての華美なロマンティシズムなどどこにもない、まるで息絶え絶えの怪物が引き伸ばされた喉を鳴らしているかのような、不自然に歪んだ、狂ったテンポの異形のエコー。

- 灰色のスモークが生き物のように這いまわる視界の向こうで、復興都市の首長たるシーシアスが、握りしめた図面を苛烈に震わせながら怒号を上げていたわ。彼の放つ熱気は、冷え切った焦土の空気の中で、獣の息吐きのように白く濁って。
- 「何が免震だ! 何が都市計画だ! 基礎がすべて割れている。これでは冬を越せずに、民は凍え死ぬぞ!」
- 荒々しい、男特有の焦燥を含んだ太い声。物理的な力だけでこの傷ついた世界をねじ伏せようとする、彼の焦りと、剥き出しの征服欲。その猛り狂う熱量を、まるですべて吸い尽くしてしまうかのように、「霧の瓦礫の森」の中央、崩落したコンクリートの巨塊の上に、冷徹な一筋のシルエットが屹立していたわ。
- ヒポリュテ。あの硬質な美を湛えた女。
- 彼女は、直線のカッティングが肌に吸い付くような、軍服を思わせる灰色の仕立ての硬いタイトジャケットを纏っていたの。その隙のない佇まいは、まるで自らを頑なな城塞に閉じ込めているかのよう。けれど、ジャケットの襟元から覗く白皙の首筋には、冷気とは異なる微かな汗のパウダーが、真珠の粉のように怪しくきらめいていて。彼女は感情のいっさいを削ぎ落とした、けれど耳の奥を粟立たせるほどに滑らかな声音で、冷ややかに告げたの。
- 「直線の壁を作るから、揺れに耐えきれずに砕けるのです、シーシアス。必要なのは、力を逃がす柔らかな曲線──氷が自らの重さを支えるように、完璧な比率で組まれたアーチ構造だけです」
- 彼女の唇から零れ落ちる「曲線」という言葉。それは、硬いジャケットの下に隠された、彼女自身のしなやかな肢体の輪郭を否応なく連想させたわ。力で抗うのではなく、圧力を受け入れ、その身を撓めながらも決して屈しない、妖艶なまでの構造の秘密。シーシアスの焦燥の視線が、彼女の計算され尽くしたアーチの美学に射すくめられ、一瞬、二人の間に張り詰めた官能的な沈黙が、重く、甘く、沈殿していくのが分かった。

- しかし、その硬質な均衡も長くは続かない。
- 立ち入りを禁じられた、あの深く、濃い霧が渦巻く「霧の森」へ、二人の男が迷い込むように足を踏み入れた瞬間──。
- 空気が、ざらりと鳴った。
- 耳を打っていたメンデルスゾーンの、あの歪んだ優美さは一瞬にして掻き消え、世界は一変する。劇場を満たしたのは、ベンジャミン・ブリテンのオペラ『夏の夜の夢』が孕む、あの不気味にうねる弦楽器の低音。それは皮膚の裏側の毛細血管を直接震わせるような、淫らで、冷酷な、奈落の揺らぎ。冷たい霧の触手が、男たちの、そして私たちの足首を絡め取ろうと、じっとりと這い寄ってくるのを感じていたわ。
第二幕:境界に立つ女王
- 一瞬の静寂。それは世界が息を止めたかのような、絶対的な空白の時。
- 次の瞬間、ヒポリュテの身体を覆っていた灰色のジャケットが、静かに床へと滑り落ちました。衣服が擦れ合う微かな音が、静寂に波紋を広げます。
- その下に現れたのは、神秘的な変容の光景でした。

- 彼女の肢体を包んでいたのは、まるで凍土から削り出された氷の結晶を織り上げたかのような、薄く、冷徹な輝きを放つドレス。それは彼女の身体に隙もなく密着し、彫像のようなシルエットを際立たせていました。密着する薄氷のような生地の下腹部には、お臍のシルエットがどこにも見当たりません。
- 彼女がその場で、ゆっくりと優美なターンを描いた瞬間、周囲の瓦礫は青白い神聖な燐光へと変じ、彼女は「氷の王国」の中心に君臨する妖精の女王、タイテーニアへと変貌を遂げていました。
- 光の霧に包まれた彼女の姿は、月の光を吸って怪しく発光しているかのようです。流麗な曲線を描くその身体の中心に、本来あるはずのお臍が無いという事実は、彼女が人間を超越した、冷たくも孤高な絶対者であることを物語っていました。

- 「お前はまた、人間の男たちを導こうというのか、タイテーニア!」
- 闇の奥、ひび割れたコンクリートの裂け目から、細く、鋭い歌声が響き渡りました。氷の世界の王、オーベロン。カウンターテナーの妖艶な高音が、冷気そのものとなって空間を満たしていきます。彼はタイテーニアが持つ、すべてを包み込み、癒やす圧倒的な力に嫉妬し、支配しようと試みています。人間に希望を与える彼女を拒む彼は、凍てついた言葉を紡ぎ、呪詛のようなアリアを彼女へと向けました。
- しかし、タイテーニアはただ、静かに微笑むだけ。その一歩が瓦礫を踏むたび、足元から、被災した人々の心の傷を洗い流すような、神秘的なオーラが波動となって広がっていきます。彼女の存在そのものが、トラウマを浄化する生命の源泉となっていました。
- 「見なさい、怯える子供たち」
- 『夏の夜の夢』の幻想的な夜の調べに乗せて、彼女は深く、響き渡る声音で、迷い込んできた男たちに語りかけました。
- 「あなたたちは肉体を持って生まれたから、傷つき、崩れることを恐れる。でも、ここには壊れる前の、完璧な静寂と再生の力が眠っているのです」
- 彼女の、あまりにも滑らかで欠損のない腹部が、言葉の抑揚に合わせて幽玄に波打ちます。その超越的な美しさと、包容力に満ちた存在感に、男たちはただ、圧倒されるように見入るほかありませんでした。
第三幕:再生と創造のインスピレーション
- タイテーニアの放つ神秘的な輝きが、暗く冷え切っていた瓦礫の空間を包み込んだ瞬間、肌を刺していた冷気は、生命の息吹を感じさせる濃密な創造のエネルギーへと変わっていきました。
- その中心に立つ彼女の姿は、この世のものとは思えないほど神聖で、あらゆる不浄を浄化するような威厳に満ちています。
- 彼女の存在そのものが、見る者の心を癒やす慈愛の象徴であり、傷つき、引き裂かれた被災した男たちの魂を根源から温める生命の源泉となっていました。タイテーニアは、その場に立ち尽くし、あるいは圧倒されて跪く男たちを、優しく見守るようにその腕を広げました。男たちは彼女から放たれる清廉な光と圧倒的な包容力に身を委ね、凍りついていた心の傷が、内側から穏やかに癒えていく感覚を覚えました。

- 若き建築家ライサンダーと医師ディミートリアスは、震災の記憶によって創造力を奪われ、彷徨うように「霧の瓦礫の森」へ迷い込んでいたのです。
- 「ああ……ここには、悲鳴がない。崩落の音もしない……」
- 建築家ライサンダーが、安らぎに満ちた表情で呟きます。
- タイテーニアは、空間に響き渡るヘンリー・パーセルのオペラ『妖精の女王』の気高く美しい旋律に合わせ、彼らに再生の知恵を授け始めました。
- 「恐れることはない。氷の土台を築きなさい。揺るぎない基礎の上に、力を分散させる美しいアーチを架けるのです。そうすれば、大地がどれほど揺れようとも、あなたたちの築いた構造物は決して砕けない。」
- その言葉はライサンダーの知性に深く染み込み、凍りついていた彼のインスピレーションを鮮やかに刺激しました。
- 続いて、タイテーニアは不安を抱える医師ディミートリアスの手をとり、静かな勇気を与えました。
- 「命を繋ぎ止める術を見つけなさい。この清澄な冷気を使って、癒やしのための時間を稼ぐのです。死の淵で命を救うためのヒントを、今、授けましょう。」

- ディミートリアスが彼女の神聖なエネルギーに触れた瞬間、彼の脳裏に新たな医学の光が閃きました。
- 二人の男たちは、彼女の神秘的な導きによって、魂の奥底にこびりついていた震災のトラウマから解き放たれました。その瞳には、もはや絶望の影はなく、新しい世界を創り出すという開拓者の力強い輝きが宿っていました。
第四幕〜第五幕:大団円、そして希望の光
- 深い闇の底から、震えるような透明なテノール──いえ、汚れを知らない少年のソプラノの合唱が、世界を満たしていきました。ブリテンが紡ぎ出した、目覚めを告げる冷涼な歌声。
- 「目覚めよ! 人間の男たちよ! 朝が来る!」
- その澄んだ声の波動が、立ち込めていた灰色のスモークを吹き払い、凍てついた大気を震わせるの。重い夜の帳が切って落とされたかのように、首長シーシアスの頭上へ、眩いばかりの太陽の光が怒涛のごとく降り注ぎました。音楽は、闇を切り裂くメンデルスゾーンの『結婚行進曲』の、あの力強く猛々しいファンファーレへと回帰していくわ。
- 金色の陽光が瓦礫を照らし出す中、闇の中でしか生きられぬ氷の王オーベロンの干渉は、光に溶けるように消え去っていきます。夢の深淵から生還した男たちは、歓喜の声を上げ、復興という使命へと駆け出していきました。
- 「分かったぞ! アーチだ! 氷の免震構造だ!」
- 「すべての命を救い出す!」
- 彼らの瞳には、かつての震災の恐怖ではなく、未来を創るための強い意志が宿っていました。

- それから、12年という歳月が幾度か巡りました。
- この都市では、12年ごとにタイテーニアが新たな「才能」を送り出すという、希望の物語が語り継がれるようになりました。彼女が授けた数々のヒントにより、都市は見事な繁栄を遂げたのです。その恩寵を体現する若者たちは、タイテーニアと同じくお臍を持たないという、特別な才能の証をその身に刻んでいました。それは、かつての悲劇を乗り越え、新しい命の形として未来を拓く者たちの象徴だったのです。
- 今や、大震災の傷跡を感じさせないほど、完璧な復興を遂げた美しい都市。
- その中央の最も高い場所に、ヒポリュテの姿に戻ったタイテーニアが立っています。彼女は街の繁栄を慈愛に満ちた目で見つめた後、ゆっくりと正面を見据えました。その表情は、不完全な人間たちの未来を育んできた、母としての誇りと威厳に満ちています。
- 彼女の存在そのものが、未来のエネルギーを蓄えた星のように神々しく輝きを放ちます。白磁の彫像へと化身したその腹部には、お臍のない無垢な神秘性が宿り、その輝きは見る者を圧倒するほどです。
- 『夏の夜の夢』の音楽が、すべての調和を祝福する最後の和音を響かせ、人類の「未来への希望」が光り輝く輪郭となって浮かび上がった瞬間──。

- 物語は、永遠に続くかのような輝かしい余韻を残して、静かに幕を閉じるのです。
プロダクト・ディテール(オリジナル盤)
- 演奏者エディット・マティス(ソプラノ)、ウルズラ・ベーゼ(アルト)、バイエルン放送合唱団(合唱指揮:ヴォルフガング・シューベルト)
- オーケストラバイエルン放送交響楽団
- 指揮者ラファエル・クーベリック(指揮)
- 作曲家フェリックス・メンデルスゾーン
- 曲目
- 「真夏の夜の夢」序曲~録音の為のゲネプロと本番
- 録音年月1964年3月(序曲)、11月(真夏の夜の夢)
- 録音場所ミュンヘン、ヘルクレスザール
- レーベルDeutsche Grammophon
- レコード番号104 451
- 録音種別STEREO
- 製盤国DE(ドイツ)盤
- レーベル世代チューリップレーベル(ALLE)
ショップ・インフォメーション(このヴィンテージ盤はショップサイトの扱いがあります。)
- 品番381713
- 盤コンディション良好です(MINT~NEAR MINT)
- ジャケットコンディション良好です(四辺にわずかな傷みあり)
- 価格8,800円(税込)
- 商品リンクhttps://www.lpshop-b-platte.com/SHOP/381713.html
- ショップ名輸入クラシックLP専門店 ベーレンプラッテ
- ショップ所在地〒157-0066 東京都世田谷区成城8-4-21 成城クローチェ11号室
- ショップアナウンスべーレンプラッテからお客様へ
当店のレコードは、店主金子やスタッフたちが、おもにヨーロッパに直接出向き、実際の目と耳で厳選した、コンディション優秀な名盤ばかりです。国内で入手したものや、オークション品、委託商品はございませんので、安心してお求めになれます。
- CD,LPの購入はアマゾンからできます。
- ショウノヴァー(ダニエラ)日本コロムビア2008-09-24
- ヴァーツラフ・ノイマン指揮/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団日本コロムビア2014-02-19
- マイ/ノイマン/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団日本コロムビア2012-12-19
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