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モーツァルトの再来か。 ― 超絶的な技巧を披露しているばかりではなく、ショスタコーヴィチのジャズ的な軽やかさ、打楽器的な鍵盤の連打。15歳のエフゲニー・キーシンがソリストとして縦横無尽の活躍を展開するショスタコーヴィチ。「わたしの交響曲は墓碑である」という例の『証言』の中の言葉に色々な意味で象徴されるショスタコーヴィチの音楽と生涯への価値観の変質は、今もって盛んな議論や推論、研究、演奏解釈によって再認識過程の最中にあるとも言えますが、作品によってはすでに演奏年数も75年に及び、伝統と新たな解釈の対照がごく自然におこなわれてきているとも言えそうです。圧政と戦争の象徴でもあったソビエト共産主義社会の中に生き、そして逝ったショスタコーヴィチの音楽は、最も20世紀的な音楽のひとつとして位置付けられている。ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲は素晴らしい音楽だが、第1番は、マルタ・アルゲリッチを大きく凌いでこのキーシン盤をベストに挙げたい。何よりウラディーミル・スピヴァコフの指揮が最高だ。何と鋭敏でフレッシュな演奏だろう。現在のロシアを代表するヴァイオリニストであり指揮者、スピヴァコフが、もう70歳の誕生を過ぎた。モスクワ・ヴィルトゥオージの創設者、芸術監督、ロシア・ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督兼首席指揮者として多忙を極めるスピヴァコフが、第4回チャイコフスキー国際コンクールで第2位と銀メダルを獲得したのは、1970年だった。その際のチャイコフスキーとシベリウスでデビュー。ドビュッシー、ラヴェル、ミヨー、ガーシュインの小品をここまで洒落て演奏できるというので、ロシアの演奏家としては稀な存在をイメージづけた。指揮者に転じてからの、モーツァルトの交響曲第28番は名演だった。モスクワ・ヴィルトゥオージの演奏もレベルが高く、パッセージの変化に機敏に対応している。世界最高峰の室内管弦楽団ではないだろうか。モスクワ・ヴィルトゥオーゾ室内管弦楽団とも呼ばれるが、指揮者のスピヴァコフが、主にモスクワ音楽院出身者を集めて結成した室内管弦楽団である。実に素晴らしい。指揮者としてのスピルヴァコフは古典派やロマン派が得意なのかもしれないが、ヴァイオリニストとしてのスピヴァコフがロマン派より近現代の作品の方が合うかに思えるのも、納得できる。キーシンのピアノもこの素晴らしい指揮に支えられて実力以上の演奏を成し遂げている。歯切れが良く、ジャズのような要素を持つこの曲をリズミカルに演奏している。1988年12月26日にライヴで演奏したものもあり、そちらはスピヴァコフ指揮のサンクトペテルブルク室内管弦楽団と協演している。これらが10代半ばの演奏というのに、本当に驚く。すでにこの段階で大変な完成度に達している。演奏も良く似ていて素晴らしいが、どちらかと言われれば本盤をとりたい。音もすばらしい、トランペットとピアノの音色がとてもクリアに聴こえる。冒頭から硬めのピアノの打鍵で、近代的だ。鋼のような充実した音が響く。神童と呼ばれたピアニスト、キーシンは2歳でピアノを始め、11歳の時にモスクワで初めてソロ・リサイタルを開くなど、神童ぶりを発揮していたという。1984年3月に、たった12歳にしてドミトリー・キタエンコ指揮のモスクワ・フィルハーモニー管弦楽団と協演し、モスクワ音楽院でショパンのピアノ協奏曲2曲を演奏した。それは伝説となり、一気にキーシンの名前を世に知らしめた。1987年に西側デビュー、1988年にヘルベルト・フォン・カラヤンに招かれてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との共演し、それがきっかけで世界の一流の指揮者やオーケストラとの共演を重ね、1990年米国デビューを飾っている。それ以降チャイコフスキー、ラフマニノフ、ショスタコーヴィチなどのロシアの作曲家と、ハイドンやモーツァルトの古典派のピアノ協奏曲を録音している。ショパンやリスト、シューマンのピアノ独奏曲もいくつか録音している。スピヴァコフ指揮のモスクワ・ヴィルトゥオージが明るい音色でモーツァルトらしいはつらつとした演奏に仕上げており、それにキーシンのピアノがハキハキとした明るい、まろやかな音色で加わる。ペダルをよく利かせ、ベルカントの音色で、まろやかでレガートな演奏を行う。まるでショパンのコンチェルトを弾くかのようにロマン的なピアノである。このまま他のモーツァルトのピアノ協奏曲も録音して欲しかったと思わせる、贅沢な演奏である。
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1993年にイェルク・フェルバー指揮、ハイルブロン・ヴュルテンベルク室内管弦楽団との演奏で発売され、マルタ・アルゲリッチの新レパートリーとして話題盤となったショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番ハ短調 作品35は、1933年に作曲されていて、正式の名称は、「ピアノとトランペット、弦楽合奏のための協奏曲」といいます。4つの楽章で構成されており、実際には、いくつかの部分が、全てアタッカで続く単一楽章の作品として見なすことができるもので、自作や他人の作品からの引用が、全曲に散りばめられているのが特徴です。特に「24の前奏曲」と類似していて、劇付随音楽「ハムレット」からも引用がみられる。第1楽章の第1主題はベートーヴェンの熱情ソナタが聴こえ、ハイドンのピアノ・ソナタなどなど、それに絡みついている。作品はシニカルな性格があり、「正しくない調性」への横滑り、特殊奏法の要求やアンバランスな音色による風変わりな楽器法、ロシア音楽に伝統的な歌謡性の否定、リズミカルな楽想への極端な依存によって、当て擦りのような印象がもたらされている。二重協奏曲と言っても、トランペットは、皮肉っぽい合の手を入れ、ピアノの走句のユーモアやウィットを醸し出している。おどけた風に短いパッセージがあったり、どっかで聴いたようなフレーズが出てきたり、唐突に楽しくトランペットが吹かれたり、性質の違う短いフレーズが、パッチワークのように繋がっていく。気分がころころ変わっていくのだが、トランペットが重要な役割をしていて、沈み込んでいくところで、夜のムードを醸し出したりする。全容を緻密に語るには難しい楽曲で、複層的というか、いくつもの顔を持ってて、歌謡風フレーズが出てきたり、ジャズのようでもあり、マジメな顔をして、舌を出しているかのような、スリリングで、オチャメ。限られた時間のなかを、駆け足で巡るかのような楽曲で、つかみどころがない、謎めいたまま、あっという間に駆け抜けてしまう。その分、飽きない。アルゲリッチの演奏も、豪快で痛快、彼女のピアノの硬質な美しさにまったく圧倒させられる。自由奔放という感じがするが、とっても繊細だ。超絶技巧と感覚的な美が、互いを高め合いながら見事に両立している。
  • Record Karte
  • Recorded at the Grand Hall of the Moscow Conservatoire, November 13, 1984 and April 27, 1986. Engineer – P. Kondrashin, Supervised By [Editor] – L. Abelyan.
  • RU MELODIA 5289-80 キーシン&スピヴァコフ…
  • RU MELODIA 5289-80 キーシン&スピヴァコフ…

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