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時に近代の作品のように響くところはロンドンのオーケストラらしい面白いところ。 ―  忘れてはいけない颯爽とした名曲と全集の一環のヴォルフガング・サヴァリッシュの名盤。ドイツ指揮界の重鎮として活躍してきたサヴァリッシュ(1923〜2013)が、とりわけ熱意をもってとりあげた作曲家がこのメンデルスゾーン。管弦楽作品全曲を構成するほどの熱心さでした。サヴァリッシュは来日演奏の機会が多く、私たちには親しみやすい名指揮者の一人でした。ことに1967年にNHK交響楽団の名誉指揮者となって以降、サヴァリッシュの演奏は一段と身近になり、音楽ファンはこのヨーロッパの伝統と様式美を誇りながらも、そこに清冽なる抒情性と若々しい生命の息吹きをたたえた熱演を心行くまで堪能させてくれました。40歳代後半のこの演奏からも、作品に対する深い愛着と尊敬の念が感じられます。《讃歌 Lobgesang》はライプツィヒで催されたグーテンベルク400年記念祭のために作曲された、声楽がカンタータ風に導入された大規模な交響曲です。メンデルスゾーンの『讃歌』は当初交響曲というジャンルではなく、『交響カンタータ』という新しいジャンルの作品として構想されました。内容としてはオーケストラだけの前半部分と声楽が加わる後半部分に分かれ、よくベートーヴェンの《第九》との類似性が指摘されています。グーテンベルクの生誕を祝した祝典で初演されたため、祝典的な雰囲気に満ちているのですが、時々、あまりのナイーブさに聴いていて気恥ずかしくなることもあります。作曲者はベートーヴェンの《第九》を聴き、同じような曲を作ろうとしたら、このような曲に仕上がりました、という感じ。やはりメンデルスゾーンですね。メンデルスゾーン畢生の大作オラトリオ『エリヤ』を準備するような《讃歌》。こうした声楽作品において見事な造形的空間を作り上げる手腕もサヴァリッシュの魅力のひとつでした。ともすればロマンチックに流れてしまう指揮者が多い中、徹底して余分なものを削いだ演奏になっている。その昔は外科医のようと評されたサヴァリッシュだが、この演奏でも音の立った厳しい棒さばきを見せてくれる。そのためこの交響曲の真価がはっきりとわかる秀演となっている。その固さに違和感を覚える人もあろうが、時に近代の作品のように響くところはロンドンのオーケストラらしい面白いところ。サヴァリッシュがシューベルトと共にフィリップスに録音したメンデルスゾーンの交響曲全曲は放っておくにはもったいない。特にオペラと声楽について日本の音楽界に、とても大きな貢献をしたサヴァリッシュの曲の本質を見事に表現した圧倒的な名盤です。当時、クレンペラーのオーケストラだった、ニューがついたフィルハーモニア管弦楽団の爽やかさな響きで、気分いい演奏です。録音も鮮明であり、オーケストラも実に瑞々しく鳴っている。
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フェリックス・メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn, 1809〜1847)は、裕福なユダヤ系のドイツ人家庭に育ち、豊かな教養と圧倒的なピアノの腕前を兼ね備えた神童として名を馳せました。14歳のクリスマスプレゼントに、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの「マタイ受難曲」の楽譜をもらった彼は、その6年後の1829年に自らその大作を指揮し、100年ぶりの再演を果たします。今でこそバッハの作品、この「マタイ受難曲」は世界中で演奏されていますが、当時は〝時代遅れの古くさい音楽〟として忘れ去られていました。これを機に、ロマン派の時代に再びその価値を取り戻したのです。メンデルスゾーンは本格的なオルガンの指導を受けており、ドイツやイギリスでバッハの前奏曲とフーガやコラール作品を演奏していたという記述も残っています。多くの演奏旅行を通して、バロック時代の名器やロマン派風に進化しつつある表情豊かなオルガンにも触れ、当時最先端のオルガン事情を仕入れていたと言えましょう。古典派からロマン派の時代への過渡期に生き、バロック的かつロマン派的情感の豊かさをもつ作風で知られています。
メンデルスゾーンは、38歳の短い生涯に、オペラも数曲まじえ、あらゆるジャンルに幾多の作品を残した才人です。音楽史、音楽界で最大級の悲劇と感じるひとつが、このメンデルスゾーンの業績のいわれのない低評価です。メンデルスゾーンの作品の中でも最も人気のある曲の1つとなっているヴァイオリン協奏曲ホ短調ばかりで、ニ短調の協奏曲は振り向かれること無く、全4曲あり、2台用もあるピアノ協奏曲に至っては関心がない聴き手も多いと感じるくらいに、いくつかの曲しか聴くばかりの気がしますが、その音楽とともに生涯を知り掘り下げることも、そのユダヤ人としての出自と合わせ、そして革新と発見をいくつか行った背景なども含めて知ってみたい意外と未知な作曲家なのです。5曲の交響曲があることは知られていても、声楽付きの交響曲第2番変ロ長調《讃歌》は聴かれる機会が少ない。メンデルスゾーンはこの、『交響曲第1番ハ短調』の前に12曲の弦楽合奏のための交響曲を作曲しています。それら幼少期の作品を経験として、改めて本格的に交響曲に望んだ印象ですが、それが若干15歳だから驚きだ。メンデルスゾーンはモーツァルトやシューベルトに匹敵する早熟の天才なのです。メンデルスゾーンを色眼鏡越しに見てしまうのは、銀行家の御曹司というところでしょうか。その年齢で自分のための組織されたオーケストラを持っていたことにも驚きですが、要は頭の中でイメージされた音ではないということ、実践を重ねて確実に作曲されてきたのです。曲は、しっかりとした4つの楽章による均整のとれた聴き応えのある交響曲で、大人びた表情のなかに、明るく、そして音楽の諸先輩の影響と敬意を込めたシリアスさをも漲らせています。ユダヤの血は流れていても、そして一族はビジネスで大成功して裕福であったとしても、メンデルスゾーンはドイツ人としての認識を強く持って先達の偉大な作曲家たちの雰囲気を継承しつつ、メンデルスゾーンならではの伸びやかで屈託ないサウンドで独自性を作り上げています。
ヨーロッパ屈指の家電&オーディオメーカーであり、名門王立コンセルトヘボウ管弦楽団の名演をはじめ、多くの優秀録音で知られる、フィリップス・レーベルにはクララ・ハスキルやアルテュール・グリュミオー、パブロ・カザルスそして、いまだクラシック音楽ファン以外でもファンの多い、「四季」であまりにも有名なイタリアのイ・ムジチ合奏団らの日本人にとってクラシック音楽のレコードで聴く名演奏家がひしめき合っている。レコード産業としては、英グラモフォンや英DECCAより創設は1950年と後発だが、オランダの巨大企業フィリップスが後ろ盾にある音楽部門です。ミュージック・カセットやCDを開発普及させた業績は偉大、1950年代はアメリカのコロムビア・レコードのイギリス支社が供給した。そこで1950年から1960年にかけてのレコードには、米COLUMBIAの録音も多い。1957年5月27~28日に初のステレオ録音をアムステルダムにて行い、それが発売されると評価を決定づけた。英DECCAの華やかな印象に対して蘭フィリップスは上品なイメージがあった。フィリップスは1982年10月21日コンパクト・ディスク・ソフトの発売を開始する。ヘルベルト・フォン・カラヤンとのCD発表の華々しいCD第1号はイ・ムジチ合奏団によるヴィヴァルディ作曲の協奏曲集「四季」 ― CD番号:410 001-2。1982年7月のデジタル録音。現在は、フィリップス・サウンドを継承してきたポリヒムニア・インターナショナルが、これら名録音をDSDリマスタリングし、SACDハイブリッド化しています。
メンデルスゾーン:交響曲第2番「賛歌」
サヴァリッシュ(ヴォルフガング)
ワーナーミュージック・ジャパン
2013-06-26

ヘレン・ドナート(ソプラノ)、ロートラウト・ハンスマン(ソプラノ)、ワルデマール・クメント(テノール)、ニュー・フィルハーモニア合唱団、ヴィルヘルム・ピッツ(合唱指揮)、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団、ウォルフガング・サヴァリッシュ(指揮)。1967年、ステレオ録音、2枚組。
NL PHIL 802 856/57LY サヴァリッシュ メンデルス…
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