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一斉に妖精の羽ばたきが始まる。 ―  最初の木管楽器の柔らかく軽やかな音色から、聴くものを幻想的な世界に誘う屈指の名盤。弱音部分の美しさに耳を傾け、聞き惚れてしまった。いったい、何人の妖精たちが羽ばたいているのやら。とてもキュートな妖精が、たくさん周りに取り囲んでいる。序曲部分の弦のこまかな動きを初めとして、描写の豊かさもあるが、夜想曲のような暖かみある、ゆったり感が良い。客演でも、その演奏効果を十分にオーケストラから引き出すアンドレ・プレヴィン。重厚一筋のオーケストラからだろうと、しなやかさを引き出せるのは彼ならでは。その反面となるのが、得手・不得手がとても分かりやすい指揮者のようです。ロンドン交響楽団時代のプレヴィンこそ、若き日にジャズピアニストとして培ったリズム感と、ハリウッド映画の作曲を通して身に付けた音楽の伝わり方のわかり易さと手際良さ、そして指揮法の師であるピエール・モントゥー譲りのオーケストラを自在に操るテクニックとが一気に開花した絶頂期にあった。そのロンドン響を指揮した1976年盤に続き、プレヴィンにとっては2度目の録音となった『真夏の夜の夢』。本盤でも、プレヴィンの卓越した指揮にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が見事に応え、幻想的な音世界を創り出している1985年録音盤。 いや、合奏の精度で及ばない。このウィーン・フィル盤の方がリズムの切れが良く、軽やかだ。響きのムードも一枚上で、有名な「結婚行進曲」などで違いが出た、世評の高い名盤です。歌手もこちらの方が可愛らしく曲に合っている。全体に表情がおおらかで、音楽が伸びやかで、音色も美しく、おそらくこの曲に対してある程度共有的に期待されている表情のイマジネーション、例えば幻想的な音楽の起伏、メルヘン的な色彩、あるいはユーモア・ロマンといった要素を、最大公約数的に持つ演奏。ハリウッド映画の作・編曲家であったプレヴィンならではの演出の巧さが光る。プレヴィンの演奏は、あくまでも淀みのない流れと瑞々しいリズムが信条。この曲に相応しい爽やかなテクスチュアと無理のないテンポが心地よく、奇を衒ったところのない素直なフレージングがどこまでも続きますが、さりげなく施されている内声の絡み合いの充実ぶりにプレヴィンの天才的な冴えを感じずに入られません。上品でソフトな語り口が、この作品にふさわしいものです。
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アンドレ・プレヴィンの出生名はドイツ名でアンドレアス・ルートヴィヒ・プリヴィン(Andreas Ludwig Priwin)といい、アンドレ(André)はフランス風の名乗りである。1929年4月6日、ドイツ・ベルリン生まれ。ベルリンのユダヤ系ロシア人の音楽家の家庭に生まれ、ベルリン高等音楽院でピアノを学び、一時期ナチス政権を逃れて9歳でパリ音楽院に入学。1938年から家族に連れられアメリカへと渡り、1943年に合衆国市民権を獲得した。10歳代の頃からジャズ・ピアニストとして演奏し、1940年代、当時黎明期にあった初期モダン・ジャズのビバップ・スタイルに影響を受けたプレイで「天才少年」として注目され、ライオンのイラストが可愛いピアノ・トリオでのアルバム『キング・サイズ』(King Size, 1958年)、ダイナ・ショアと共演した『ダイナ・シングス、プレヴィン・プレイズ』(Dinah Sings Previn Plays, 1960年)、シェリー・マン&ヒズ・フレンズでの『マイ・フェア・レディ』(Modern Jazz Performances of Songs from My Fair Lady, 1956年)などが代表盤に挙げられる。キャリア初期のロサンゼルス時代にはハリウッドの大手映画会社 MGM 専属となり、多くの映画において映画音楽の作曲や編曲、音楽監督を務めている。彼のその多彩な活動の当初は映画音楽の分野において頭角を現し、4回ものオスカー賞を獲得する傍ら、ピエール・モントゥーにも師事し指揮を学んで、1963年には指揮者としてもデビューします。『キス・ミー・ケイト』(1953年)、『マイ・フェア・レディ』(1964年)、『ジーザス・クライスト・スーパースター』(1973年)など時代の好みを反映させ、ハリウッドの著名人にはよくあるようにプレヴィンは結婚回数の多い人物であり、音楽家、男としての興味の衰えない姿を見せる存在だ。クラシック音楽の指揮者としては、その後アメリカ、イギリスのオーケストラ音楽監督を歴任し着実なキャリアを重ねた。管弦楽曲の演奏・録音が活動の中心であり、とりわけスラヴ系の音楽とイギリス・アメリカ近現代の音楽の録音で評価を得てきた。近年では、現在ウィーン・フィルを振って最もウィーン・フィルらしさを引き出させるなど、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との間に厚い信頼関係を築きあげています。クラシック音楽における自作品としては、ウラディーミル・アシュケナージへの献呈作『ピアノ協奏曲』やハインリヒ・シフに献呈された『チェロ協奏曲』、2002年に当時の新妻アンネ=ゾフィー・ムターのために作曲した『ヴァイオリン協奏曲』、ジョン・ウィリアムズのために書かれジャズバンドも加わる1971年の珍しい『ギター協奏曲』、金管アンサンブルでは『金管五重奏のための4つの野外音楽』、また声楽のジャンルでは最初のオペラとなった『欲望という名の電車』(1998年にサンフランシスコにて初演)や歌曲集『ハニー・アンド・ルー』、室内楽では『オーボエ、ファゴット、ピアノのための三重奏曲』などが挙げられる。一方ではジャズ・アルバムも制作し、また自らが作曲を手掛けた新作のオペラを録音するなど今日最もアグレッシヴな活動を展開しています。
エーファ・リント(ソプラノ)、クリスティーン・ケアーンズ(メゾ・ソプラノ)、ウィーン・ジュネス合唱団。1986年2月ウィーン、ムジークフェラインザールでのセッション、ステレオ・デジタル録音。
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