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特にイギリス音楽のスペシャリスト、演奏もいいが、録音はそれ以上にいい。 ― 近代イギリス管弦楽の2大名曲。ヴォーン=ウィリアムズの「トマス・タリスの主題による幻想曲」「グリーンスリーヴスによる幻想曲」、ティペットの「二重弦楽合奏のための協奏曲」は1974年録音。イギリスの名指揮者による録音が多い両曲だが、ヴァーノン・ハンドリーの演奏からは音符をそのまま音にすればヴォーン=ウィリアムズの魅力は伝わるはずだ、という信念が感じられる。仕掛けをせずにハッキリとフレーズを提示し、それらをスムーズにつないでいく。変な思い入れは感じられないが、ヴォーン=ウィリアムズ特有の懐かしいメロディはしっとりと歌われているし、全強奏では豪胆と言えるほどの気迫が感じられて気持ちいい。こうした傾向からハンドリーのヴォーン=ウィリアムズはとても分かりやすい。演奏もいいが、録音はそれ以上にいい。ソフトタッチで、透明感があり、音像、音場は自然。意外とレンジが広く、長岡スピーカー向けの優秀録音盤。《トマス・タリスの主題による幻想曲》(1910)は個性的なスタイルがしっかり確立した、最初期の作品である。レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ(Ralph Vaughan Williams, 1872年10月12日〜1958年8月26日)の看板曲で、とても抒情的で誰もが気に入る曲だ。ヴォーン=ウィリアムズは1872年生まれで、1903年ごろ作曲を始め完成されたのは1910年なので、38歳の時の作品になる。ロンドンの王立音楽大学で作曲を学び、在学中にホルストと知り合い親交を深める。民謡の採集や教会音楽の研究を通して独特の作風を確立し、イギリス人による音楽の復興の礎を築いた。イギリスの田園風景を彷彿とさせる牧歌的な作風は、広くイギリス国民に愛されている。日本では『惑星』で知られるホルストに比べて知名度が低いが、欧米ではホルストより高く評価されている。生涯に9つの交響曲を遺し、また、イングランドの民謡を題材にした作品も多い。このような一風変わった音楽表現によって聴く者を楽しませてくれるところがヴォーン=ウィリアムズの魅力の最たるものだろう。Classics For Pleasure原盤。
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イギリス音楽ファンには馴染み深い指揮者、ヴァーノン・ハンドリー(Vernon Handley)は、2008年9月10日に亡くなっています。1930年11月11日、ロンドン特別区北部のエンフィールドに誕生。アイルランド人の母はピアノ教師、父はアマチュアのテノール歌手というケルトの家庭でした。1歳半で正確に歌えるようになり、早くからピアノも始めていたハンドリーでしたが、8歳のときに手のケガが許でピアノを断念し、スコア・リーディングとレコードの世界に没頭、12歳のときにはかなり正確にスコアを読むことができるようになっていました。アマチュア・オーケストラや聖歌隊を指揮して過ごすほど音楽への情熱は高まるばかりで、その後、ハンドリーは言語学を学ぶためにオックスフォード大学バリオル・カレッジを経て、ギルドホール音楽演劇学校でジェームズ・メリットに師事する。ついに、本格的に指揮法を修めることとなります。指揮者の卵となった若いハンドリーは、サー・エードリアン・ボールトに手紙を書き、リハーサルへの出席を懇願します。ボールトは出席を許したばかりか、オフィスに招待してバックスの交響曲第3番のスコアを開き、ハンドリーに指揮をしてみるように指示し、なんとかこなしたハンドリーに対して援助することを約束します。1961年、ボールトの推薦によりプロ・デビューすることになり、ボーンマス交響楽団を指揮したハンドリーは、熱烈に歓迎され、翌年には、ギルドフォード・フィルハーモニックの音楽監督に就任します。31歳でした。しかしギルドフォード・フィルの財政状況は厳しく、1966年からロンドン王立音楽院(ロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージック)で教えながら、イギリス各地で指揮をするようになり、同時にBBC交響楽団などでボールトのアシスタントをたびたび務めて研鑚を積み、1970年、ロンドン交響楽団を指揮して脚光を浴びる。ハンドリーの名が広く知られるようになったのは、スウォンジー音楽祭でロンドン交響楽団を指揮して成功を収めてからで、翌年から同オーケストラや北欧のオーケストラに客演するようになり、やがてその実力が評判を呼んで、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団やニュー・フィルハーモニア管弦楽団、ロイヤル・フィルハーモニック、バーミンガミ市交響楽団など、数多くのオーケストラとレコーディングが行われるようになりました。ハンドリーの最初の録音は、1965年、ギルドフォード・フィルとのバックスの交響曲第4番というものでした。その後、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・フィルなどを指揮し、特に自国の音楽を中心に数多くのレコーディングを精力的に行い、イギリス音楽のスペシャリストとして人気が高い。録音にも、シンプソン、アーノルド、ヴォーン=ウィリアムスの交響曲全集などが含まれている。中でもロイヤル・フィルと協演したホルスト「惑星」は高い評価を得ている。その数は160に達し、うち87の作品が初録音という開拓者精神にあふれた献身的な仕事ぶりは見事なもので、バックスやヴォーン=ウィリアムズ、スタンフォード、アーノルド、シンプソン、エルガーなどで聴かせた、作品の姿を正しく伝える堅実なアプローチには、英国音楽ファンの信頼厚いものがありました。ハンドリーの指揮するヴォーン=ウィリアムズは豪放磊落で迫力満点、集中力の高さ、祖国の作曲家に対する思い入れの強さで、際立っていた。演奏が終わり拍手喝采を受けるとき、聴衆に向かって作品のスコアを示して見せることも多かったというハンドリーは、グラモフォン誌のレコード・オブ・ジ・イヤーを3度受賞し、また、2003年にはSpecial Achievement Awardを受賞、亡くなる前年の2007年には、BRIT AWARDSのLife time achievementを受賞するなど、英国では高い人気を誇っていました。
ウィリアムズ:仮面劇「ヨブ」
BBCノーザン交響楽団
日本クラウン
1996-09-25

1973年12月録音、1974年初版。John Boyden のプロデュースによる Classics For Pleasure のための録音。
GB DEC LXT5314 ボールト ウィリアムズ・8番