34-20059
カロリーの高い美音で聴かせる〝聴くサプリ〟 ― ドイツ・グラモフォンのモーツァルト生誕250年記念「Mozart Forever 1756〜1791」新録音シリーズで、アンネ=ゾフィー・ムターによるモーツァルトのヴァイオリン協奏曲全集が取り組まれた時。ムター自身の弾き振りによる全5曲のヴァイオリン協奏曲に加え、協奏交響曲でヴィオラの共演相手になったのがユーリ・バシュメットだった。〝最高のヴィオラ奏者〟と呼ばれていたウクライナ出身のバシュメットを聴くと、〝ヴィオラはこんな素敵な音がするんだ。〟と思わされる。ムターより11歳年上のバシュメットはモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を度々録音に残してきた。2013年には樫本大進と共演していた。バシュメットは過去のヴィオラ奏者達と違って、ヴァイオリンのクレーメルのように過度にロマンチックな表現を行わず、理知的な演奏スタイルを持っていた。レオポルト・モーツァルトがヴァイオリンの達人であったことから、ヴァイオリンの名手でもあったと言われるモーツァルトは、ヴィオラを弾くほうが好きだったらしい。ヴィオラが音楽進行をコントロールすることで、独奏ヴァイオリンは自由に演奏できるようになる。バシュメットのサポート受けて、スピヴァコフがカロリーの高い美音で聴かせる。必要以上に甘美にならないのは彼のセンスの良さの証明。独奏の二人とも各楽器での名人ですから、演奏は格調が高く、すこぶる充実したものとなっています。ただ、若いモーツァルトの音楽の愉悦感・幸福感といったものをこの第1楽章の演奏に求めると、なんだかちょっと違うというような気になります。さてこの曲、名曲中の名曲でどんな演奏で聴いてもあまり裏切られることはないが、逆に決定盤も少ない。この演奏には演奏者の技巧と個性が強く示されており、モーツァルトのスコアに書かれた通りに再現される。〝モーツァルトの交響曲はラファエル・クーベリックよりカール・ベームのほうがいい〟だの〝『戴冠式』はいかにも狙っているようで嫌いだ〟という人にはこの演奏は合わない。スピヴァコフとバシュメットの演奏は、この曲にありがちな幸福感とは少し異なり、第1楽章の変ホ長調という調性にもかかわらず、どこか暗さを感じさせます。凍てついた大地に春がやってきた、そんな演奏です。そういう意味ではしっとりとした第2楽章が良く、演奏スタイルが曲にマッチしており、味わいが濃く、しんみりとした気分。これは「クラシック・リラクゼーション」CDのプログラムによく選ばれる録音です。 第3楽章は二人の名人芸を聴かされているようで、圧巻です。現在のロシアを代表するヴァイオリニストであり指揮者、ウラディーミル・スピヴァコフが、もう70歳の誕生を過ぎた。スピヴァコフは1969年のモントリオールのコンクールでギドン・クレーメルを抑えて優勝した実力の持ち主。クリアでやや硬質な音色を駆使して、快適なテンポでサラッと演奏を進めているが、その中には非常に感じやすいデリケートな側面を感じとることもできる。モスクワ・ヴィルトゥオージの創設者、芸術監督、ロシア・ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督兼首席指揮者として多忙を極めるスピヴァコフが、第4回チャイコフスキー国際コンクールで第2位と銀メダルを獲得したのは、1970年だった。その際のチャイコフスキーとシベリウスでデビュー。ドビュッシー、ラヴェル、ミヨー、ガーシュインの小品をここまで洒落て演奏できるというので、ロシアの演奏家としては稀な存在をイメージづけた。指揮者に転じてからの、モーツァルトの交響曲第28番は名演だった。モスクワ・ヴィルトゥオージの演奏もレベルが高く、パッセージの変化に機敏に対応している。世界最高峰の室内管弦楽団ではないだろうか。モスクワ・ヴィルトゥオーゾ室内管弦楽団とも呼ばれるが、指揮者のスピヴァコフが、主にモスクワ音楽院出身者を集めて結成した室内管弦楽団である。実に素晴らしい。指揮者としてのスピルヴァコフは古典派やロマン派が得意なのかもしれないが、ヴァイオリニストとしてのスピヴァコフがロマン派より近現代の作品の方が合うかに思えるのも、納得できる。本盤はイギリス室内管弦楽団を弾き振りした録音だが、「Recorded by EMI in association with Melodiya, USSR.」とクレジットがある。モーツァルトの《協奏交響曲》を1990年にはミュンヘンで再録音した。今度は、アイザック・スターン一門の名ヴァイオリニストのシュロモ・ミンツがヴィオラを担当している。モスクワ・ヴィルトーゾの指揮者スピヴァコフがソリストを兼務して、自分の思いどおりの作品に仕上げた。スピードに乗って、自由自在に、時として奔放、「どんなもんだい」と我が道を行くというがごとくで、聴いていると楽しくなる。
関連記事とスポンサーリンク
  • Record Karte
  • プロデュース:ジョン・ウィリアムズ、エンジニア:ネヴィル・ボーイリング。Recorded by EMI in association with Melodiya, USSR.
  • GB EMI ASD3859 スピヴァコフ&バシュメット モ…
  • GB EMI ASD3859 スピヴァコフ&バシュメット モ…

これより先はプライベートモードに設定されています。閲覧するには許可ユーザーでログインが必要です。