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刎頸の友ロストロポーヴィチとブリテン共同作業による至高の美しさを湛えた演奏 ― アルペジオーネ・ソナタと並ぶ名盤。名チェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(1927〜2007)とデッカとの契約が短命で終了したことで、デッカとフィリップスに残したアルバムは、LPレコードで6枚分だったのは残念なことでした。「戦争レクイエム」から繋がる話ですが、第二次世界大戦ヨーロッパ戦線の中心的交戦国だった、ソ連のソプラノ、ガリーナ・ヴィシネフスカヤ、イギリスのテノール、ピーター・ピアーズ、ドイツのバリトン、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ ― 戦争の恐怖と被害を身に沁みて体験したこれら三国の最も優秀な歌手を一堂に集めることを初めから考慮して作曲したものでしたが、ロシア側がヴィシネフスカヤ手の出国を認めなかったため、初演時のソプラノは英国のヘーザー・ハーパーに変更になった。1963年に行なわれたロンドンでの演奏では、初演で予定されていたソプラノのヴィシネフスカヤが初めて登場した。ヴィシネフスカヤは冷戦時代にあったソ連の「鉄のカーテン」を開かせた数少ない存在の一人だった。1964年にヴィシネフスカヤはプッチーニの歌劇「トゥーランドット」のリュー役でミラノ・スカラ座でのデビューを果たし、大きなセンセーションを巻き起こした。その舞台で、ヴィシネフスカヤは優れたアーティスト、ビルギット・ニルソン、フランコ・コレルリと共演した。このヴィシネフスカヤがロストロポーヴィチ夫人。1960年に知り合ったロストロポーヴィチとベンジャミン・ブリテンは最初から意気投合し、ロストロポーヴィチのチェロの才能にいたく感動したブリテンは、彼のための作品を続々と書き上げることとなります。1963年に作曲された「チェロと管弦楽のための交響曲」もそうした作品のひとつで、チェロの名技も十分に楽しめる見事なチェロ協奏曲に仕上がっています。ブリテンがピアノ伴奏者としての手腕を示した数々は素晴らしい。感傷的な旋律で知られるシューベルトのアルぺジョーネ・ソナタを、鮮やかな歌い回しによって、チェロのための音楽としての魅力をフルに示してくれた若きロストロポーヴィチの快演。ドビュッシー晩年の小規模な名曲に、若きロストロポーヴィチが驚くべき集中力で取り組んだ雄弁な演奏。彼に捧げられたブリテンのソナタも同じくテンションの高い演奏で、どちらも近代作品ならではの緻密な作曲技巧をパーフェクトに再現した技巧の安定度も印象的です。シューマンの「民謡風の5つの小品」は、素朴な旋律が魅力的な音楽で、ロストロポーヴィチもここではリラックスした響きを聴かせてくれています。ところが1970年、社会主義を批判した作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンを擁護したことによりソビエト当局から「反体制」とみなされ、以降、国内演奏活動を停止させられ、外国での出演契約も一方的に破棄される。しかし、これとてブリテンとの意気投合が勇気となったのは間違いないだろう。刎頸の友ロストロポーヴィチとブリテン共同作業による至高の美しさを湛えた演奏盤の全てが不朽の逸品だ。
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第2次世界大戦の潜水艦技術が録音技術に貢献して、レコード好きを増やした。繰り返し再生をしてもノイズのないレコードはステレオへ。ステレオ録音黎明期1958年から、FFSS(Full Frequency Stereo Sound)と呼ばれる先進技術を武器にアナログ盤時代の高音質録音の代名詞的存在として君臨しつづけた英国DECCAレーベル。レコードのステレオ録音は、英国DECCAが先頭を走っていた。1958年より始まったステレオ・レコードのカッティングは、世界初のハーフ・スピードカッティング。 この技術は1968年ノイマンSX-68を導入するまで続けられた。英DECCAは、1941年頃に開発した高音質録音ffrrの技術を用いて、1945年には高音質SPレコードを、1949年には高音質LPレコードを発表した。その高音質の素晴らしさはあっという間に、オーディオ・マニアや音楽愛好家を虜にしてしまった。その後、1950年頃から、欧米ではテープによるステレオ録音熱が高まり、英DECCAはLP・EPにて一本溝のステレオレコードを制作、発売するプロジェクトをエンジニア、アーサー・ハディーが1952年頃から立ち上げ、1953年にはロイ・ウォーレスがディスク・カッターを使った同社初のステレオ実験録音をマントヴァーニ楽団のレコーディングで試み、1954年にはテープによるステレオの実用化試験録音を開始。この時にスタジオにセッティングされたのが、エルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団の演奏によるリムスキー=コルサコフの交響曲第2番「アンタール」。その第1楽章のリハーサルにてステレオの試験録音を行う。アンセルメがそのプレイバックを聞き、「文句なし。まるで自分が指揮台に立っているようだ。」の一声で、5月13日の実用化試験録音の開始が決定する。この日から行われた同ホールでの録音セッションは、最低でもLP3枚分の録音が同月28日まで続いた。そしてついに1958年7月に、同社初のステレオレコードを発売。その際に、高音質ステレオ録音レコードのネーミングとしてffss(Full Frequency Stereophonic Sound)が使われた。以来、数多くの優秀なステレオ録音のレコードを発売し、「ステレオはロンドン」というイメージを決定づけた。
  • Record Karte
  • Recorded Kingsway Hall, London, July 1961. Engineer – Alan Reeve, Producer – Andrew Raeburn. First Published 1962 , FFSS Wide Band, ED 1.
  • GB DEC LXT5661 ロストロポーヴィチ&ブリテン ブリテン…
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