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芸術性の最上の記録 ― 一説には当時のフルートの性能が今ほどよくなかったという説があるのだが。第1番、第2番共に実に流麗な曲であり、思わずフルートの音色に聴き惚れてしまう。同じことはフルートと管弦楽のためのアンダンテにも言える。モーツァルトは父レオポルト宛ての手紙に、フルートという好きではない楽器のために曲を書くのは気乗りがしないと書いている。だから、せっかくのド・ジャンの注文に対してオーボエ協奏曲を移調してフルート協奏曲にしたり、この〈K.315〉のように協奏曲作曲を中途半端に終わらせるなど、きちんと応じなかった。 ― ということなのだが、フルートが好きではないというのは、レオポルトへの言い訳のように思える。モーツァルトは期待を胸に訪れたマンハイムで宮廷楽団に就職することができず、そのことで少なからず苛立っていてフルート協奏曲の作曲に集中できなかったのだろう。が、他に、このことが主たる原因ではないかと思えることがある。それは、アロイジア・ウェーバーへの恋心。モーツァルトはアロイジアのためにアリアを書いているが、ド・ジャンの注文に応えるよりも、アロイジアに歌ってもらうアリアを作曲することのほうがずっと大きく心の中を占めていたと思える。ランパル(1922年―2000年)は、20世紀フランスの名フルート奏者で、我々の世代はフルート=ランパルといった図式を思い描くほどの神様的存在だ。彼は魅惑的な音、独特の言い回し、素晴しい妙技によってレパートリーの拡大を行いました。その特別なカリスマ性、楽器のために抱く情熱、驚くべき寛大さと若手音楽家の惜しみない激励 ― 彼はフルートを通じて、より多くの人に音楽をもたらすことが一意に適格であった。これらはロストロポーヴィチ、スターンらと同等にあった。LPの黄金時代の間に彼は多くの場合、燃えるような強烈さ、そして常に魅力的な解釈を基にし至難な作品の録音まで行った。その優美で嫋やかな音色を一度でも聴くと、忽ちにランパルの信者になってしまう。その音色を聴くにはLPレコードが一番いい。
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20世紀最高のフルート奏者の一人と目されるジャン=ピエール・ランパルは、1922年に当時有名だったフルーティストのジョゼフ・ランパルの息子としてマルセイユに誕生。幼少の頃には画家志望だったというランパルが、マルセイユ音楽院の教授だった父親にフルートの手ほどきを受けたのは13歳の頃のことで、さらに両親は彼が医師になることを望み、また、ランパル自身もそれに同意して医科大学に進みます。しかし、学業の途中で第2次世界大戦が勃発、軍隊に召集されることとなったランパルは、ほどなく敗戦したフランス軍兵士を待ち受けていたドイツ国内での労役を避けるためパリ音楽院に入学することを希望し、運良く許可が下りて巨匠モイーズに師事、わずか5ヶ月でプルミエ・プリを獲得して卒業するという天才ぶりを発揮します。卒業後もまだ戦争は終わっていなかったため、ランパルの演奏活動はレジスタンスの放送番組のためにシェーンベルク作品を演奏するといったことから始まることとなりますが、戦後、1947年におこなわれたジュネーヴ国際コンクールで優勝して注目され同年から1951年までヴィシーの歌劇場のオーケストラ、1951年から1956年までフランス国立放送管弦楽団、1956年から1962年にはパリ・オペラ座管弦楽団の首席奏者として活躍します。その間、フランス管楽五重奏団、パリ・バロック・アンサンブルを自ら結成して活動を行い、また、1950年代前半からそのたぐい稀なテクニックと豊かな音楽性が注目を浴びていたこともあって、レコーディングでも活躍するようになりました。その後のランパルの活躍は圧倒的なもので過去の作品の研究・開拓による新たなレパートリーの掘り起こし、編曲も交えたレパートリーの拡大のほか、数多くの作曲家からの作品献呈を受けるなどフルート音楽の世界をどんどん広げていった功績は、まさに20世紀最高のフルーティストならではのものでした。
エラート(Erato Disques, S.A.)は、1953年にフランスで創設された古楽録音で大きな実績をもつ最古参レーベルです。クラシック音楽を中核とし、とりわけフランス系の作品や演奏家の紹介に努めてきた。レーベル名はギリシャ神話に登場するエラトーからとられている。第2次世界大戦後のフランス音楽の復興運動の中で、楽譜出版社エディション・コスタラ社のレコード録音部門として1952年に独立系レーベルとして創設されたERATOレーベルは、知られざるフランス音楽の紹介やフランスのアーティストによる演奏の録音に力を入れ、中でも当時録音の少なかった中世からバロック時代の膨大なレパートリーを続々と録音することで高い人気を誇ったレーベルです。同じLP黎明期にフランスに創設されたデュクレテ・トムソンやディスコフィル・フランセなどのレーベルが活動を休止したり買収されたりしていく中で、ほぼ半世紀以上にわたってその独自の路線を貫き、日本でも多くのファンの支持を得てきました。芸術責任者のミシェル・ガルサンの下、フランスのアーティストを起用した趣味性の高いLPを数多く制作し、その中心的なレパートリーはバッハ以前の古楽だった。日本ではバロック音楽すべてが含まれる場合もありますが「古楽」は、古典派音楽よりも古い時代の音楽=中世、ルネッサンス、ごく初期のバロック音楽の総称です。作曲された時代の楽器、演奏方法は、時代を経るにつれ変遷を遂げてきています。近年の「古楽」ジャンルの録音は、19世紀から20世紀にかけて確立されたクラシック音楽の演奏様式ではなく、現代の楽器とは異なる当時の楽器で、音楽史研究に基づいて、作曲当時の演奏様式にのっとった演奏によっています。但し、オリジナル楽器録音への取り組みはやや遅く、本格化するのはフランス系以外の奏者を積極的に起用するようになった1980年代以降。中心を担ったのはトン・コープマン、ジョン・エリオット・ガーディナー、スコット・ロスといった、グスタフ・レオンハルトたちよりも一世代後、かつフランス人以外の演奏家たちである。
1977年エルサレム・ミュージック・センターにて録音。
FR ERATO  STU71144 ジャン=ピエール・ランパル モ…
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