FR EMI FALP782 ユーディ・メニューイン ベルリオーズ・イタリアのハロルド
通販レコード→仏ラージ・ドッグ、セミサークル黒文字盤

FR EMI FALP782 ユーディ・メニューイン ベルリオーズ・イタリアのハロルド

聴いてみると華やかでドラマ性がある。 ― 協奏曲のイメージはバロック時代にヴィヴァルディが発明してからというもの、独奏楽器を引き立てる音楽に変わっていった。協奏交響曲として知られるモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラと管弦楽団のための協奏曲」や、ブラームスの「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」は『複協奏曲』とされ、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの2台のヴァイオリンのための協奏曲ほどには親しまれていないようだ。面白くない音楽であるはずはないが、難しいのだろう。現代では認知度も高く、ベルリオーズの交響曲『イタリアのハロルド』もヴィオラ協奏曲としてヴィオラ奏者の愛奏曲ながら、今井信子さんがコリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団で録音したフィリップス盤で聴く機会を得た日本のクラシック音楽愛好家はいることだろう。『快調デイヴィスが豪壮にえがく新鮮なハロルド盤』と日本盤の帯にうたわれたとおり、「ベルリオーズの傑作であるにもかかわらず、演奏会でも、レコードでも、不思議に登場してこないのが、この『イタリアのハロルド』という作品であろう。理由は、いろいろある。弦楽器の中でも、ヴァイオリンとチェロの間に挟まれて、いつも地味で目立たない存在のヴィオラは、良い奏者 ― オーケストラ・プレーヤーがクワルテットなどの室内楽奏者がいるにもかかわらず、いざ、こうした協奏曲的な作品の独奏者ということになりと、なかなか人を求め難いという演奏する側の理由が、まずあげられよう。先になくなったライオネル・ターティスとか、もう教職に退いたウィリアム・プリムローズといったヴィルトゥオーゾ型のヴィオリストらは、まさに、こういった作品の独奏者にふさわしいタイプの名人たちだったが、現代では、こういう奏者が、ちょっと見当たらない。SP、LPを通じても、この作品のレコードは、たいへん少ない。私のような弦楽器へ強い愛情を持つ者にとっては、ほんとうに、『こんな良い作品を ―――』と口惜しくてならなかった。」とライナーノートは導入される。
フランスの作曲家、ルイ・エクトル・ベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」は、「独奏ヴィオラとオーケストラのための交響曲」とも呼ばれます。この曲には有名な逸話があります。ヴァイオリンの名手だったパガニーニが、ストラディバリウスのヴィオラを入手したが、ヴィオラ用の目立った曲がなかったのでベルリオーズに作曲を依頼した。しかし第1楽章まで作曲したときにパガニーニが曲に失望して文句を言ったため決裂し、ベルリオーズが結局最後までムリヤリ完成させた。パガニーニに失望されて発奮したかのように、前半のヴィオラ協奏曲風音楽が後半では完全に交響曲となっているチグハグが作った伝説かもしれないが、思い込みの激しい気分屋のベルリオーズのことだから、作曲の筆が走ってヴィオラと協奏させることをやめてしまったことには違いないでしょう。当時のヴァイオリンの巨匠はパガニーニ、ピアノはリスト、それに対してベルリオーズの楽器は、合唱とオーケストラといわれる。最初の構想では合唱までも伴う、スコットランドのメアリー女王の最後の時を描いた作品だったらしいが、手に汗握るオーケストラ・スペクタキュラーとして方向転換される。曲は4楽章から成り、各楽章には次のような題名がついています。第1楽章「山におけるハロルド、憂愁、幸福と歓喜の場面」、第2楽章「夕べの祈祷を歌う巡礼の行列」、第3楽章「アブルッチの山人が、その愛人によせるセレナード」、第4楽章「山賊の饗宴、前後の追想」。低音弦のつぶやくような動きのゆっくりとしたテンポの序奏から始まり、やがてハープの和音の響きと共にヴィオラで曲全体を支配するテーマが演奏され、このテーマが曲のあちらこちらに登場して主人公のハロルドを描写するのは「幻想交響曲」と同じ発想。バイロンの『チャイルド・ハロルドの巡礼』の夢想家の主人公に自分を重ね、さらにその役をヴィオラに担わせる。題名こそ付いているが、明確なストーリーがあるわけではなく、ベルリオーズがアプルッツィ山岳地方を放浪した時の詩的印象を4つの場面に綴る。ヴィジョンが優先する独善性がベルリオーズがロマン派音楽を開拓したと言われるところでもある。後期ロマン派の交響詩を先取りするように、華やかでドラマ性があり最後は狂乱に至る、聴いてみさえすれば、リヒャルト・シュトラウスの「ドン・キホーテ」の先取りのようで、かなり引き込まれる名曲です。
このフィリップス盤が1975年にリリースに至ったことは、今井さんの自叙伝『憬れ ヴィオラとともに』(春秋社、2007)を繙くと興味深い。1969年の春、ベルリオーズ没後100年記念国際演奏会でフランクフルト放送交響楽団が演奏する《イタリアのハロルド》のソリストとして今井信子さんが招かれたことに端を発する。指揮は岩城宏之さん。ヘッセン放送協会のディレクターだったクーレンカンプフ( Hans-Wilhelm Kulenkampff )が、ミュンヘン国際コンクールの関係者から今井信子さんを推薦されて、使ってみようと思ったらしい。岩城さんは今井信子さんのことを知らなかったが、クーレンカンプフは岩城さんと親交があり、彼の方が岩城さんに推薦したのだ。今井さんが「イタリアのハロルド」を人前で弾くのは生まれて初めてだったそうで、「メニューインが弾いたレコードを聴いて必死で勉強して」急場を凌いだのが本盤(初版ステレオ盤は英 H.M.V. ASD 537 白金ラベル)。ところがフランクフルトでの演奏は思いがけず高く評価され、翌年度の西ドイツ音楽功労賞を彼女に齎したばかりか、全欧に向けて放送された実況録音をたまたま耳にしたフィリップス・レコードの名プロデューサー、エリック・スミスはコリン・デイヴィス指揮で進行中のベルリオーズ録音プロジェクトで「イタリアのハロルド」独奏を新人の彼女に委ねることを即断したという。然るに今井さんの国際的な名声はこうして確立されていく。彼女の出世作となった録音への経緯と、彼女が手本としたメニューインのレコードの指揮者がどちらもコリン・デイヴィスだというのは無縁ではなかっただろう。
おそらく20世紀で最も名を知られたクラシック音楽家、ユーディ・メニューインは1916年4月にニューヨークで生まれました。4歳からヴァイオリンのレッスンを受け、7歳で公衆の前で演奏を披露。1925年初リサイタル、1926年ニューヨークにデビュー、1927年にはラロのスペイン交響曲を演奏。1927年10歳でパレー指揮のラムルー管弦楽団とのパリ公演でヨーロッパ・デビュー、28年には米ビクター社に初録音。1929年はストラディヴァリウスを贈与され、ワルター指揮のベルリン・フィルでベルリン・デビュー、アドルフ・ブッシュとのレッスンを始め、ロンドン・デビュー、そして H.M.V. への初録音と神童の名をほしいままにしました。演奏家、音楽教育家として大家をなし、さらに世界的セレブリティーとして日本でも多くのファンを持つメニューインは、戦後同世代のハイフェッツらと共にヴァイオリニストとして名声の頂点を極める。また、メニューインはヨガや菜食主義を実践し、健康管理を怠らず壮年期になるまでソリストとしての活動に取り組んだ強い精神が本盤でも随所に聴けます。その証左として膨大な音源が英 EMI に録音された。メニューインは、様々なヴィルトゥオーゾ的小品を数多く録音。そして記念碑的な協奏曲やソナタを演奏し、その記録はメニューインの技術的な輝きについて多くを伝えました。ヴィオラのための協奏曲もヴァイオリンで演奏し、バレエ音楽にまで及ぶほど多数。メニューインの初期盤は、余りにも発売枚数が多すぎて、当時の音楽ムーブメントで期待が高かったことで、レコード会社の意気込みが伝わる。それが現在の中古レコードの世界では、この優れた演奏に対して 低い評価 ― 価格が安い ― がなされているのは良質の盤に出会いやすいことでは幸いをもたらした。ゴージャスを尽くしたセッション環境での演奏は申し分なく、本盤もメニューインの松脂が飛び散っています。いずれも地味だが、なかなかの好演。やや固い締まった響きで音楽の運びはオーソドックスだが独特のバランス感覚を持ち合わせた演奏です。
曲成立の逸話は改めて語るまでもないが、ストラディヴァリ作の素晴らしいヴィオラを入手したパガニーニが、しかし、その名器で弾くべきヴィオラの独奏曲がないと悩んでいると「幻想交響曲」なるすごい曲を書いた男を発見する。そこでその男ベルリオーズに「ヴィオラ独奏のための曲」を依頼した。このヴィオラの名器とは何か。パガニーニが入手したカルテット・セットの楽器のうちのヴィオラのことだと思われるのだが。ストラディヴァリのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロをパガニーニの独断でセットにした、このいわゆるパガニーニ・カルテットの一つは現在、東京クヮルテットに貸与されている。だから、磯村和英氏が弾いているヴィオラであろうか。また、パガニーニが期待したヴィオラの協奏曲のような作品としては、パガニーニの頭にあったのは自分自身のヴァイオリン協奏曲や、シュポアのヴァイオリン協奏曲のようなものだっただろうと想像に難くない。それからするとほど遠いものとなったが、しかし、後日この曲を聴いたパガニーニがベルリオーズの才能を認めて、約束の委嘱料を払ったという逸話の結末は、このヴァイオリンの巨匠の度量の広さを示している。
1963年初発。
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