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ヴィヴァルディの〝四季〟は20世紀の作品だった ― 突飛な仮説を立ててみる。9月8日にNHK-FMで放送された『きらクラ』で、〈パッヘルベルのカノン〉の、陽の目をみない兄弟曲として〈シャコンヌ〉が紹介された。情報を寄せた投稿者が説明する通りには見つからなくて番組では、見つかりませんでしたと理って、オルガン曲の〈シャコンヌ ヘ短調〉が放送された。聴き終わった後で、ふかわりょうさんが「短調の曲しかないのはどうしてだろう」といった趣旨の感想には、一緒に番組のパーソナリティをしている遠藤真理さんに返事を求める感じがあったが、パッヘルベルには〈シャコンヌ ニ長調〉〈同ヘ長調〉の録音も多い。デジタル録音が本格化して「バロック名曲集」として最初に発売されたクルト・レーデル盤で、弦楽合奏による演奏を聴くことができる。さて、〈パッヘルベルのカノン〉は、原曲は『カノンとジーグ』。カノンは、〈カエルの合唱〉と同じ輪唱。輪唱が全く同じ旋律を追唱するのに対し、カノンでは、異なる音で始まるものが含まれる。また、リズムが2倍になったり、反行、逆行する特殊なものもあるが、パッヘルベルの〈カノン〉は、三声の同度カノンであるが、カノン声部だけで構成される純粋なカノンではなく、オスティナート・バスを伴う点が標準的なカノンとは異なる。半終止で終えられるごく短い2小節単位で進められながら、全27種類の旋律が編まれる。最後を〈ジーグ〉が〆るもので、パッヘルベルのスコア通りだったら、繰り返しを省略しても一時間の演奏になる。〈パッヘルベルのカノン〉の人気は、クルト・レーデル盤の6分間の演奏でも長く感じることだろう。オーソン・ウェルズの1962年の映画『審判』(The Trial)で使用されて、《アルビノーニのアダージョ》として親しまれる人気曲も、現在では完全なレモ・ジャゾットの創作であることが判明している。ジャゾットの名はアダージョの編曲者としてとりわけ有名になったが、この曲の版権はジャゾットが持っていたという落ちがある。秋の深まりとともに、その季節感を感じたいと選ぶのは、日本と同じような四つの季節を織り込んだ作品。ヴィヴァルディとハイドンの「四季」を取り出してくる。秋に限ったことではないですが、春、夏、冬に聴く「四季」のレコードは、長年繰り返している間に、違うものがレコード棚の一角を確保するようになりました。SPレコードの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」でモーツァルトが一般に認知されたように、ヴァイオリン協奏曲12曲からなるヴィヴァルディの「和声と創意の試み」作品8の第1から第4曲の、「春」「夏」「秋」「冬」の4曲を選んだのは、片面15分とされていた初期のLPレコードに最適だった。それを「Le quattro stagioni」とタイトルをつけてミュンヒンガー盤をデッカが発売。日本での発売で「四季」とつけたことも相乗効果で評判になる。これらレコード会社の発明だといっていい。耳馴染みがある名曲ですので意外かもしれませんが、「四季」の楽譜が再発見され出版されたのは第2次世界大戦後の1949年のことでした。戦前のクラシックファンはこの名曲「四季」の存在すら知らなかったというわけです。これをデビューしたばかりのイ・ムジチ合奏団が演奏して、イタリアのイメージにぴったりだった。さて、『調和の霊感』作品3でヴィヴァルディを知った、18世紀のヨーロッパ中の音楽ファンにとって、『ラ・ストラヴァガンツァ』作品4の印象はどんなだったろう? ― 現代曲の録音が多いサシュコ・ガヴリーロフで『四季』の後で聴く『ラ・ストラヴァガンツァ』から《第2番 ホ短調》は、とにかく刺激的だ。『調和の霊感』の成功を受けて、もっと聴き手を驚かせてやろうというヴィヴァルディの意気込みがビンビン伝わって来る。イ・ムジチ合奏団盤が1959年録音で、本盤は1961年。20世紀に再発見された音楽を、同時代に作曲されたものと考えているようだ。「心地よく聞き流したい」バロック音楽のイメージよりは、高級感ある演奏であり、リッチな気分、というと言い過ぎですが、声楽なしで、この時代のこれだけ重心の低い作風は特徴的です。次から次へと湧き上がる楽想の豊かさ。明確な主役 ― プリマ・ドンナ的なソロを、合奏が盛り立てる、近代ヴァイオリン協奏曲を予感させる形。『調和の霊感』の後では、まさに奇妙、狂態。ヴィヴァルディならではの超絶技巧でもガブリーロフの妙技は冴え渡り、『ラ・ストラヴァガンツァ』ならではの魅力を、しっかりとした聴き応えを以って、見事に鳴らし切る。音楽の焦点をソリストに絞ることで生まれる絶大なインパクト。そうして明らかにされる、ヴィヴァルディによる作り込まれた奇妙、狂態のおもしろさ。これが本盤を引き締めている。密度の濃い演奏となっていて、存分にヴィヴァルディの音楽、作風を感じ取ることができます。→コンディション、詳細を確認する
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サシュコ・ガヴリーロフ(Saschko Gawriloff)は、ドイツのヴァイオリニスト、音楽教育家。サッシュコ・ガヴリロフとも記す。1929年10月20日、ライプツィヒに生まれる。父親ヨルダン・ガブリーロフはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のヴァイオリニストであった。最初のヴァイオリン教育を父より受け、後にヴァルサー・ダヴィゾン、マルタン・コヴァックス、グスタフ・ハーフェマン等に学び、18歳でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターとなった。1959年のパガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールで第2位となる。ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送交響楽団、フランクフルト歌劇場管弦楽団、ハンブルク交響楽団のコンサートマスターを歴任。ソリストとしてもヨーロッパの一流オーケストラや、ゲオルク・ショルティ、ピエール・ブーレーズ、エリアフ・インバル、エサ=ペッカ・サロネン、ガリー・ベルティーニ、ケント・ナガノ、クリストフ・フォン・ドホナーニ、ミヒャエル・ギーレン、マルクス・シュテンツ、エトヴェシュ・ペーテル等世界的指揮者との協演が多数あり、室内楽奏者としても成功を収めている。現代音楽にも意欲的に取り組み、1992年にはアンサンブル・モデルンとリゲティ・ジェルジュが彼に捧げたヴァイオリン協奏曲をケルンで初演し大成功を収め、同作品をサロネン指揮ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団とアメリカでも初演した。その後の10年間で70回以上も世界各地で演奏している。数々の受賞歴の中にはパガニーニ・コンクール、グラミー賞の最優秀室内楽賞が含まれる。録音はドイツ・グラモフォン、ソニー、ヴェルゴ、シュワン、テューダー等より多数。北西ドイツ・デトモルト音楽アカデミー、エッセン音楽大学、ケルン音楽大学、ベルリン芸術大学の教授をつとめる。ドイツ・バーデン=バーデンのカール・フレッシュ・アカデミーでは毎年マスタークラスを開講している。1683年製ストラディヴァリウスを使用。
デヴィッド・ジョゼフォヴィッツ(David Josefowitz, 1918年12月25日〜2015年1月10日)はイギリスの指揮者で、ロンドン・ソリスト室内管弦楽団の創立者。ベルリンのクリンドワース・シャーウェンカ音楽院でヴァイオリンも学んだ、熟練したヴァイオリニストでもあり、ホセ・ダビドの名義で演奏して録音していました。マサチューセッツ工科大学で化学を学んだプラスチックの専門家であり、ニューヨーク大学タンドンスクールの一部であるブルックリン工科大学で、1945年に化学の博士号を取得しました。1946年に、サミュエル・ジョゼフォヴィッツ(1921〜2015)とともに兄弟で、ニューヨーク市に本拠を置く〝Concert Hall レーベル〟を創設して、自身で多くの管弦楽曲のレコーディングを遺したほか、同レーベルのプロデューサーとして活躍しました。世界有数の音楽学校の1つで、1822年に創立された英国王立音楽院は、長い歴史と実績に裏付けられた伝統を重視。加えて、現代の音楽家に要求 される、新しい技術や知識を身につけるためのカリキュラムも組んでいます。卒業生には、ヘンリー・ウッドやエルトン・ジョンなど、著名な音楽家をはじめ、サイモン・ラトル(指揮)、マイケル・ナイマン(作曲)、リチャード・ロドニー・ベネット(作曲)、クリストファー・モルトマン(声楽)、ルステム・ハイルディノフ(ピアノ)、シモーネ・ラムスマ(ヴァイオリン)、日本人では、三浦友理枝(ピアノ)、熊本マリ(ピアノ)など、多くの優れたソリスト、オーケストラ や室内楽での演奏家、指揮者、作曲家を輩出しています。ロンドンの中心地リージェンツ・パークに隣接する便の良い場所にキャンパスでは、収容450席のデュカス・ホール、2001年に完成したデヴィッド・ジョセフォヴィッツ・リサイタル・ホールなど、素晴らしい演奏の場が待っています。
  • Record Karte
  • 『和声と創意への試み』作品8から『四季』、『ラ・ストラヴァガンツァ』作品4から第2番 ホ短調 RV.279
  • FR CHS  MMS2164 サシュコ・ガヴリーロフ ヴィヴァルデ…
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