34-22261

商品番号 34-22261

通販レコード→仏レッド銀文字盤

規律の中の自由〜生命を宿した、豊かな表情のバッハ演奏です。 ― バッハは誰もが大作曲家として一目置く存在ですが、演奏家としても超一流で鍵盤楽器 ― 当時としてはチェンバロや、オルガンのスペシャリスト、ヴィルトゥオーソとして名を馳せていた。当然、鍵盤楽器のための作品は多く、平均律クラヴィーア曲集やゴルトベルク変奏曲といった有名曲以外にも数多くの名曲が存在します。インヴェンションとシンフォニア、イタリア協奏曲。舞曲集の性格を持つ、フランス組曲、イギリス組曲。6つのパルティータはクラヴィーア練習曲として、その代表格と言えるでしょう。本盤は、フランスのカシオペ(Cassiopée)レーベル。入手の難しいレーベルです。必ず経歴の最初にシャンパン王シャルル・エドシック家に生まれる、と書いてあるエリック・ハイドシェックのレコード。このパルティータ、ピアノを豊かに鳴らした音楽的な演奏としては、おそらく最高レベルのものだと思います。自然なテンポのゆれから生み出される音楽は、そこかしこに美しいメロディが溢れていて、バッハを聴く醍醐味を感じさせてくれます。これを聴くと、バッハのパルティータが、とんでもない名曲に聴こえてきて、ほかのピアニストの演奏にも手を伸ばしたくなりました。ところが、現代におけるバッハ演奏の問題点をも考えさせられる。鍵盤が非常に軽く、短く、その幅もピアノよりだいぶせまいハープシコード(チェンバロ)のために書かれたバッハの曲を、ブルトーザーのように重たい鍵盤のモダンなピアノで弾くというギャップをどうするかである。なにしろ否応なしに強弱がついてしまうのだから、なおのこと難しい。5声のフーガなどピアノで弾くのはハープシコードの数倍も難しくなる。チェンバロの響きに、ピアノの共鳴という現象がほとんど得られない要因は、弦が貧弱で振動がすぐ止まることや、弱い材質の木でつくられていることなどが挙げられる。とはいえ、その楽器が演奏された部屋が石の素材でできた箱型である場合は音楽的に反響し、クリアで輝かしい音色に聞こえ、合奏の中でも際立ったリーダー的存在になれた。機構上の制限からショパンの音楽のように美しい旋律が弱音の音数の多いアルペジオの伴奏にのって演奏されるという発想は、考えられないことであった。そこで、バッハは何人もの人がペチャクチャと井戸端会議でもするような対位法での書法、つまりフーガで音楽を書いたのだ。これなら音が持続してくれなくとも、面白い味が出せると考えたのだ。ここに聴くバッハの良さは一言で言えば、柔和で優しさに満ちていることでしょう。しかも愛らしくきらきらと無垢な輝きを放っているところが何とも言えず魅力的なのです。無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータと並べると、厳しく突き放すような精神性の深みの表現とはかなり異質な世界です。
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バロック時代においては、歌心とは〝精神的な意味〟だけを指し、演奏表現として求められるものではなかったため、フォルテやピアノなどの感情の抑揚につながるダイナミックスは、楽器の数によるものや音源との距離によるものなど、単純明快な捉え方であった。バロック時代のイタリア風コンチェルトグロッソ(合奏協奏曲)では、大勢で合奏(トゥッテイ)する部分はフォルテ、独奏(ソロ)の部分はピアノと記譜されている。つまり、音の数が少ないとピアノで、音の数が多いとフォルテであるとされていた。ニュアンスとして音数の少ないピアノ部分を少し強めたいときは、分散和音(アルペジオ)にしたり装飾音を施したりするなどして一時的に音数を増やすことで対処した。また、近くをフォルテ、遠くをピアノで表す遠近法、距離感によるドラマティックな表現法がバロック時代に生まれた。モンティベルディ作曲の歌劇「オルフェウス」では、オルフェウスが冥界のエウリディチェとの会話をする場面で、あの世から聞こえる歌はピアノで、現世から冥界へ呼びかける歌はフォルテで表現している。前期バロック音楽の作曲家、ハインリヒ・ビーバーの『53声部のザルツブルク大聖堂祝典ミサ曲』は、イタリア・バロック建築であるザルツブルク大聖堂の優れた響きを活かすため、パイプオルガンを中心に、両翼のバルコニーなどさまざまな場所に配置された16声部の合唱と35声部の管弦楽、通奏低音2部(オルガンとチェロもしくはヴィオラ・ダ・ガンバ)という53声の音楽が美しい大聖堂内に響きわたる様が圧巻した。ロマン派音楽を開いた、ベルリオーズの大管弦楽編成のバンダは、これを模倣したものだろうし、後期ロマン派のマーラーは、劇場指揮者でもあったので、ワーグナーがモダン楽器のオーケストラのために編曲した、グルックの歌劇「アウリスのイフィゲニー」に接していただろう可能性から、彼の交響曲のバンダ効果は、それらの延長線上にあって、遠近法、距離感によるダイナミックを狙ったのだろう。さて、打弦ではなく擦弦である、機構上の制限があって音の持続時間が短く、構造が華奢で強い打鍵にも耐えられないチェンバロにとっては、フォルテに対してそれ以外の奏法はなかったのである。この作品の演奏は当然、ピアノかチェンバロのどちらを選ぶかということになるのですが、風雅があり格調高いのはチェンバロかもしれませんが、表現の幅やより繊細な感情表現が可能なのはピアノではないかと思います。チェンバロの演奏には、響きの発見があり、リズム感が面白い。ゆったりと安らぎに包まれるのはピアノに寄る演奏がまさる。
チェンバロでの演奏と比べて、モダン・ピアノでの演奏は、マイクセッティングの心遣いでフォローされないと、原曲の魅力が乏しい嫌いがあるのですが、エリック・ハイドシェックのピアノによる演奏は、そのような欠点をも忘れさせてくれます。ピアノの音が何と柔らかく美しいこと。絶妙なピアノのタッチに加えて、センスあふれる造型やテンポ、リズムがこの曲をバロック音楽の枠や堅苦しさから解放しています。純粋にピアノ作品としての魅力を伝えてくれる演奏と言えるでしょう。チェンバロの響きは、可愛らしい音の戯れが魅力的に際立ちますが、モダン・ピアノの美点である、無限の余韻と豊かなニュアンスを醸し出してくれる演奏は、その一音一音に豊かな愛に満ちたメッセージが込められているようです。力の抜けきった柔和な旋律が次第に深遠な世界を構築して、様々な感情が交錯しつつ昇華されていく展開は本当に見事です。ハイドシェックは、6歳からアルフレッド・コルトー(1877〜1962)の薫陶を受け、パリ音楽院卒業後もコルトーに師事している。海は月のリズムに忠実に満干をくり返す。大きな空間の中では自由だが、時間的には厳格な規則に従う。音楽も同じようにしなければならない。これは、コルトーが私に教えてくれたことだという、ハイドシェックのルバートはプラスマイナスゼロで、リズムの柱と柱の間では自由に飛翔するが、必ず元に戻ってくる。大きくテンポをゆらしながら全体の統一をとる極意は、コルトーからハイドシェックに受け継がれたものだ。コルトーも作品が内包する影を愛し、ほの暗い表現が好きでした。ですから私も作品に潜む哀愁や陰影を表現することを好みますタペストリーのように一音一音にこまやかな感情を込めて織り込んでいくハイドシェックのピアニズム故に、心に染み入る音楽が生まれるのに違いない。本盤は日本にもコアなファンが多く存在している、ハイドシェック若き日の名演集です。
エリック・ハイドシェック(Éric Heidsieck)は、1936年に生まれたフランスのピアニストである。粋で洒脱で色彩感に富む個性的なピアノを奏でることで知られる。父はフランス北部の古都ランスを代表するシャンパン王、シャルル・エドシック、母はピアニストという恵まれた家庭に育った。5歳からピアノに親しみ、確かに恵まれた子ども時代を過ごしましたが、私の時代は戦争があった。その苦難はいまでも忘れられません。明るく見える曲でも楽譜の裏に秘められた影や暗い部分を読み取るようになったのは、この経験があるからですこう語るハイドシェックは、6歳の時、たまたま接した巨匠アルフレッド・コルトーの奨めで、正式にピアノを勉強し始める。8歳でエコール・ノルマル・ド・パリへ入学、1952年から、パリ音楽院でマダム・バスクールに師事し、卒業の翌年、パリのサル・ガヴォーでデビュー・コンサートを開いて、好評を博した。彼の名を一躍有名にしたのは、1957年、パリのシャンゼリゼ劇場で行ったリサイタルで、その後は、世界各国で演奏活動を続けている。1960年代のハイドシェックは、特に「モーツァルト弾き」として、数々のコンチェルトをレコーディングしている。コルトーには、その死の年(1962年)まで指導を受け続けた。このコルトー直伝の個性を優先する演奏法は、現在も彼の中で脈々と息づいている。フランス・ピアノ界を代表する演奏家で、日本では、1968年の初来日以来度々演奏会を開いて、真摯な姿勢と音楽の隠れた魅力を引き出す凄演で人々を魅了してきた。その活動はもちろん国際的ではあるが、いわゆる世界トップクラスの超人気ピアニストというよりは、一部のファンに深く愛されるという印象がある。現在82歳になる現役。80歳を超えてなお、自由闊達で情感溢れるピアニズムを披露してくれている。モダン・ピアノの巨匠は自らの最終到達点としてベートーヴェンとバッハを選びました。1997年6~7月の全11公演、1998~99年の3期に渡って行なわれた「ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ」演奏会は大盛況を極めた。その宇和島でのライヴ録音などを通してファンが多いが、3年ぶりになる2018年7月に、来日50周年特別公演を行った。
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ:パルティータ集第3巻〜第1番変ロ長調 B.W.V.825、第6番ホ短調 B.W.V.830。エリック・ハイドシェック(ピアノ)、1975年ステレオ録音。見開きジャケット。CASSIOPÉEは、高額なフランス・マイナー・レーベル。
FR CASSIOPEE 369 197 ハイドシェック バッハ・パ…
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