34-22345

商品番号 34-22345

通販レコード→仏シルヴァー黒文字盤

彼らの音楽のみずみずしさは、ただものではない。 ― 名曲として親しまれる交響曲第9番「新世界より」、チェロ協奏曲、そして、この弦楽四重奏曲ヘ長調「アメリカ」は、いずれもドヴォルザークが招聘されて米国に滞在中に作曲されました。いわゆる〝アメリカもの〟は、お国ものとしてアメリカの演奏家がよいのかチェコの演奏家が味わいがあるのか迷うところがあります。他人の知らないいい曲、いい演奏を知っている ― 俗物根性丸出しではあるが、これはクラシック・ファンを衝き動かす、1つの真理であるには違いない。わたしは飽きもせずこのように紹介していますが、有名曲の隣の曲を紹介するよりも難しいのが、ドヴォルザークの名曲。苦心するのではなく楽しい方での難しさですが、とくにアメリカで作曲されたこれらの名曲において感じます。チェコや中欧の演奏家には、ドヴォルザークの音楽に溢れているスラブの郷愁に満ちた甘美なメロディや素朴な音階・和声への自然な共感があって美しい。この曲は、作曲者のアメリカ滞在前半、ドヴォルザークがニューヨーク・ナショナル音楽院院長に就任して、生徒と接しながら、黒人霊歌やネイティヴ・インディアンの音楽に刺激された、独特のリズムとエキゾティックな旋律美がいきいきとしています。音楽院長としての責務に勤めながら、アメリカにいた4年間の間に、第4回コロンブスによるアメリカ発見400年祭で演奏する新作の依頼を受けて作曲した、「テ・デウム」から「チェロ協奏曲」にいたる作品番号95から104までを作曲、発表します。ただし、この弦楽四重奏曲「アメリカ」は、アイオワ州のチェコ人移民のコミュニティを訪れたときに一気に書かれたということです。アメリカは移民の国で、それぞれが重い理由を背負って祖国を離れ新世界へと入植してきた歴史があります。その理由は、宗教的あるいは政治的迫害であったり、成功への野心であり、貧困であったりしました。ドヴォルザークは、1893年5月に交響曲第9番「新世界より」を書き上げ、アメリカでの最初の夏期休暇を、チェコからの移民が多く住んでいたスピルヴィルで過ごすことにした。音楽院でヴァイオリンを学んでいた学生ヨゼフ・ヤン・コヴァリックの父親の家に招かれたのであった。この地で寛いだドヴォルザークは、コヴァリック一家が演奏するためにこの作品を驚くべき速度で作曲した。1893年6月8日に着手するとわずか3日間でスケッチを終え、6月23日には完成させていた。第1楽章で最初に出てくる主題は五音音階によるどこか懐かしい雰囲気の旋律で、ヴィオラが歌い始めて曲は生命を得る。第2楽章は感動的な緩徐楽章で、ヴァイオリンが黒人霊歌風の歌を切々と歌い、チェロがこれを受け継ぐ。中間部はボヘミアの民謡風の音楽となり、郷愁を誘う音楽である。第3楽章の主題は、スピルヴィルで耳にした鳥のさえずりをメモしたものといわれる。クラシック音楽最高のメロディ・メーカーは、鳥のさえずりからインスピレーションを得たところも大のようだ。全曲を締めくくるコラール風広がりは美しい。チェコの演奏家での、弦楽器の国といわれたボヘミアの響きも素晴らしい。こうした音楽を、憂愁に満ちた甘美な旋律美を屈託がない表現で聴かせる、味わいで心地よいが、一方のアメリカの演奏家で聴く時、特に、大戦前後の音楽家には一世や二世世代が多く、ルーツであるヨーロッパへの強い憧憬の念があります。その郷愁は切実で、それだけにドヴォルザークの切実な帰郷願望に強く共鳴する瞬間があって、聴いていてそれに気づくと深く胸を打ちます。さて本盤、ターリヒ弦楽四重奏団は、恒常なる美しさと稀に見る正当な様式感にあふれた演奏を提供する。もっとも個性的な演奏と言えるだろう。もともと官能性を伴うくすんだ音色に特色のある団体。シンプルさ、柔らかさ、活力を不可侵の表現規定としていたドヴォルザークの精神に忠実に、曲の細部、全体的なライン、リズムの保持などを、驚くべき官能性を見せながら紡ぎだす。かすれた美音にえも言われぬ魅力がある。ドヴォルザークの作品の中でも最も複雑で練られた音楽を含む音符が、しなやかで明快な動きや平明なフレーズによって、見事に音となるのである。「アメリカ」は、ドヴォルザークの天性の楽天的な抒情に満ち溢れていて、「新世界」交響曲やチェロ協奏曲のような切ないまでの郷愁や深刻な帰郷願望はさほど強くありません。それだけに、東欧の民族的表現の異端性の表現としてもターリッヒ弦楽四重奏団を先ず推します。テンポは全体にかなり速め。ダイナミズムと集中力が高く、音色、音量の変化が激しい。リズムの刻みやアクセントの位置に癖がありながら人を惹き付ける、彼らの音楽の瑞々しさは、ただものではない。
大指揮者ヴァーツラフ・タリフ(ターリヒ)は、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を1919年から41年にかけてつとめ、ラファエル・クーベリックに引き継がせた。今月、来日してスメタナの連作交響詩「わが祖国」全曲を至宝の響きで聴かせてくれるのが楽しみなチェコ・フィル。現在まで最高の弦のアンサンブルを聴かせている、このオーケストラが、世界的な名声を得るようになったのは、ターリヒ時代。ターリヒの演奏はスラヴ風の野趣を残しながらも、アルトゥール・ニキシュ流の明朗さと気品をもっていた。「ターリヒ」という名は、スメタナやプラハの人々の心のふるさとであるモルダウ川のほとりを連想させる。ターリヒが指揮するチェコ・フィルの演奏するドヴォルザークを聴いたエフゲニー・ムラヴィンスキーはそのすばらしさに感嘆し、その後ドヴォルザークを演奏しなかったという。第二次世界大戦後はチェコ室内管弦楽団を創立し、またスロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務めた。その甥に、ヤンがいる。ターリヒ弦楽四重奏団は、ヴァイオリンのヤン・ターリヒによって1964年結成。録音の場に、ボヘミアの偉大なる伝統を最初に持ち込んだのがターリヒ弦楽四重奏団である。ベートーヴェンが試みたさまざまな様式に取り組む際の彼らの鋭い音楽観や、非の打ちどころのない音楽性、生まれながらに持ち合わせた即興へのセンス、そしてとくに、極限までにドラマティックな楽譜の読みの深さは、いつになってもセンセーショナルだ。1997年、ターリヒ家のヤン・ターリヒ・ジュニアが、才能ある奏者たちと共にターリヒ弦楽四重奏団を父から受け継いだ。以来、彼らはその伝統を拠り所に、未来を描いている。この名前を冠するということは音楽的な面での責任も大きいものとなって来る。ターリヒ弦楽四重奏団は、チェコの名高い音楽家たちの系譜の一部を成し、発展してきた。過去および現在のターリヒ弦楽四重奏団の演奏を脈々と特徴づけているのは、軽やかな音、密度の高い音楽的意図、自発的で真に迫る音楽表現、偉大な伝統に支えられた不意のアクセント、何世代にもわたり受け継がれてきた文化と結びついた民俗性に対する天賦のセンス、などである。
ヤン・ターリヒ・ジュニアは、ターリヒ弦楽四重奏団のヴィオラ奏者として、1975年から2000年まで音楽的な面での責任を負った。彼は1992年にタリフ室内管弦楽団を設立。メンバーはプラハ音楽アカデミーの卒業生を中心に構成されており、世界のトップクラスの室内管弦楽団のひとつに数えられている。彼らによるモーツァルトの馥郁たる香りはどこか懐かしさを感じさせるものに仕上がっている。本盤録音時のターリヒ弦楽四重奏団メンバーは、エヴジェン・ラッタイ(Evžen Rattay, チェロ)、ヤン・クヴァピル、ペートル・メシエルール(Jan Kvapil, Petr Messiereur, ヴァイオリン)、そしてヴィオラはヤン・ターリヒ・ジュニア(Jan Talich Junior)。近代以降、イギリスからウィリアム・プリムローズ、ライオネル・ターティスらヴィオラの独奏者が現れ、ヴィオラ・ソナタや独奏曲も多く書かれるようになってきている。ドイツでヴィオラ奏者としても活躍したパウル・ヒンデミットは、ヴィオラとピアノのためのソナタ、無伴奏ヴィオラ・ソナタを合わせて7曲の自作を残した。ロマン派の時代には、ヴィオラは独奏楽器としてはほとんど無視された状態であったこともあり、ヴィオラ・ソナタや独奏曲はあまり残されていない。ブラームスの2曲のヴィオラ・ソナタが有名であり、今日もよく演奏される。ヨハネス・ブラームスの楽曲は、ヴィオラ奏者にとってはこたえられない魅力をもっている。交響曲第2番の第1楽章での憂愁をおびたチェロのメロディの3度下で、嬉々としたハーモニーを奏でているのを発見するだけでなく、奥ゆかしいヴィオラ奏者がスッカリ、逆上してしまう室内楽曲が2曲ある。弦楽六重奏曲第1番の第2楽章。そして、弦楽四重奏曲第3番の第3楽章だ。2曲とも、冒頭からヴィオラが主役を演じる。ことに後者では、ヴィオラ以外の3楽器に弱音器をつける指定がされている。もともと、ヴァイオリンやチェロの輝くような音色に比べると、少々くぐもった感のあるヴィオラ。そのヴィオラの美点を最大限引き出すための、配慮だろう。事実、情熱的に疾走し続けるヴィオラに、影のように寄り添う3楽器。他の四重奏曲では味わうことのできない、鋭く滋味にあふれた感性である。
録音の場に、ボヘミアの偉大なる伝統を最初に持ち込んだのがターリヒ弦楽四重奏団である。ベートーヴェンが試みたさまざまな様式に取り組む際の彼らの鋭い音楽観や、非の打ちどころのない音楽性、生まれながらに持ち合わせた即興へのセンス、そしてとくに、極限までにドラマティックな楽譜の読みの深さは、いつになってもセンセーショナルだ。ターリヒ弦楽四重奏団の演奏はまったく美しい。常に熱に満ちた濃い表現のなかで、頗る厳格な的確さでニュアンスやアクセントづけを行っているからだ。モーツァルトでは親しく歌い、笑いかけ、泣き、夢を見、失望や興奮を残してくれる。スメタナの音楽の深い意味や勇壮な様子を捉え、称揚するだけでなく、幻想的なものとの境界にある、ひとつの精神性を示してくれる。ハイドンの、ひとつひとつの音符には、まるで平穏の重みであるかのように、超然とした言葉が含まれている。ハイドン、ベートーヴェン、シューベルトという、敬服していた先達にオマージュを捧げるブラームスが探求したハーモニーは完璧で、なんて魅力的なことか。千変万化の語法を、やすやすと、しかも創意をもって聞かせてくれるヤナーチェクには、精神性をもって取り組んだひとつのヴィジョンがある。メンデルスゾーンでの素晴らしい力強い解釈に、目眩のするほど迸る音楽に、誰が無関心でいらりょうか。創設されてすでに18年の年月を重ねていた彼らが、フランスならではの洗練されたセンスで半世紀以上に渡り、レコード制作を続けてきたカリオペ・レーベルのために1976年にパリで録音したこのレコードは、発売されるとたちまちADFディスク大賞を獲得しました。録音が実に見事で、弦楽器の魅力を存分にとらえています。チェロの朗々としたテナーの旋律美にはほれぼれとします。おそらくワンポイント録音ではないと思いますが、各楽器の定位が明確で各々の音像がくっきりと横に展開するサウンド・ステージが素晴らしい。ドヴォルザークは、ブラームスが羨んだというエピソードが残されているほどのメロディ・メーカーですが、ターリヒの演奏はそういう美点がとてもよく出ていて、美しいリリシズムに満ちています。その音楽はさっぱりとした味わいですが、陰翳に富んだ音色と甘美な旋律があって味わい深く、バランスと音色の統一性のとれた美しいアンサンブルで、軽やかな運動性をもって洗練された音楽を聴かせてくれます。ターリヒ弦楽四重奏団の第1ヴァイオリンが頭脳であるなら、心臓だったヴィオラ奏者。ヤン・ターリヒ・ジュニアが、実に豊かな音色でこの曲の音色の魅力を引き出しています。この曲ではヴィオラの鄙びた音色が、第1楽章のテーマでいきなり登場します。あるいは第2楽章の刻むようなオブリガートなど、いつもは地味な存在のこの楽器が縦横に活躍します。民族音楽演奏にありがちな泥臭さは微塵もなく、少しもいやらしさやくどいところがない。ターリヒ弦楽四重奏団伝統の自然な表現と爽やかな演奏はそのままに、よりロマンティックな感性にあふれる演奏が高い評価を得ています。
ギリシャ神話ではミューズの一人で、智の女神カリオペ(CALLIOPE)は、19世紀半ばに作られた蒸気や圧縮空気で鳴らすパイプ・オルガンの語源でもある。カリオペは、20世紀初頭までは蒸気船に備え付けられ、その後飾り立てた台車や馬車に乗せて運び、お祭りやサーカスなどで使われることが多くなったが、20世紀半ばにはほとんどが姿を消した。鍵盤で演奏することもできたが、自動演奏されることが多かった。フランスのカリオペ・レーベルは、1972年にジャック・ル・カルヴェが創設、芸術監督でもありレコーディングをプロデュースした。そのレパートリーは、ルネサンス、バロック時代に限らず、現代にまで及んでいて、単なるオリジナル編成のレパートリーだけのレーベルではない。アンドレ・イゾワールが演奏したバッハのオルガン作品は、非常に魅力的な企画である。日本ではビクター音楽産業の日本プレスでもって世に知られるようになった 。普通は「カリオペ」と呼ばれていますが、フランス語読みだと「カリオップ」となる。それが、まずオーディオ的な素晴らしさによって大評判となります。ル・カルヴェとタッグを組んでいたエンジニアのジョルジュ・キセロフによる録音は、とくに驚くべきものでした。これら一連の録音は、どれも豊かな表情と熱気に富みながらも格別の気品を湛えた見事なもので、故長岡鉄男氏絶賛のレーベルでもあり。室内楽系が多く。初めて聴く作品にときめいた。ヘルベルト・フォン・カラヤン、スビャトスラフ・リヒテル、ダヴィッド・オイストラフ、ギドン・クレーメルの新譜を発売していたビクター音楽産業は、エラート、レッドシールと提携して、RVCレーベルも抱え、パイヤール室内管弦楽団や冨田勲を発売していました。ですから、国内盤リリースを待つのには飽き足らず、フランス盤を輸入したほどです。それは、ジャケットもとても凝ったもので、見開きのダブル・ジャケットのLPを入れる部分に、さらに折り返しがあって埃の侵入を完全に防ぐ工夫が施されていました。2010年カタログ付きCDも登場するなど、堅調と思われていたフランスの老舗レーベルですが、残念ながら2011年初頭で業務を停止した。このカリオペ・レーベルのスタッフだったミカエル・アッダは、2011年に「ラ・ドルチェ・ヴォルタ」レーベルを立ち上げて、カリオペ・レーベルのイゾワール、タートライ・クヮルテット等の録音を買収・再発売するとともに、ジャン=ピエール・コラール、アルド・チッコリーニとも契約。日本市場を意識して、日本語解説付き(再発売品を除く)で発売されているのも嬉しい限りです。
  • Record Karte
  • 1976年11月パリ録音。ペトル・メッシエレウル(第1ヴァイオリン)、ヤン・クヴァピル(第2ヴァイオリン)、ヤン・ターリッヒ・ジュニア(ヴィオラ)、エヴツェン・ラッタイ(チェロ)。Producer, Engineer – Georges Kisselhoff Production Manager – Jacques Le Calvé.
  • FR CALIOPE CAL1617 ターリッヒsq ドヴォルザーク…
  • FR CALIOPE CAL1617 ターリッヒsq ドヴォルザーク…
American Quintet
Dvorak
Calliope France
1999-11-16