一世を風靡したベストセラー全集 ― 弦楽四重奏曲第9番ハ長調 Op.59-3『ラズモフスキー第3番』と第10番変ホ長調 Op.74『ハープ』を1978年8月、12月に録音したことに始まるアルバン・ベルク四重奏団の活動中期の総決算的な意味合いを持つ全集で、第11番ヘ短調 Op.95『セリオーソ』、第7番ヘ長調 Op.59-1『ラズモフスキー第1番』、第8番ホ短調Op.59-2『ラズモフスキー第2番』を1979年1月、4月、6月にと、中期の弦楽四重奏曲をステレオ録音。後期の第12番〜15番、大フーガ変ロ長調 Op.133はデジタル録音で1982〜83年に完成している。ベートーヴェンが生涯の最後に作曲した、第16番ヘ長調 Op.135はデジタル録音だが、1980〜81年に集中して録音された初期弦楽四重奏曲の最後に取り組んでいる。本セット、第1〜6番はステレオ録音。第16番はデジタル録音になったのはビジネス側からの意向だったのかもしれませんが、3月27日に紹介していますが、〝伝統的な4楽章であるとともに、平明かつ古典的で、要するに「理解しやすい」のが16番である。〟また、短調の第4番、8番、11番、14番、15番の録音スケジュールは慎重にあったように見受ける。スタジオ録音ならではの練り上げられた表現とスキのないアンサンブルが聴けるこの全集は、全曲に渡って整っている演奏レベルの高さも特筆すべきところ。華やかな高音を織り込んだ鋭く充実した音響は、精神の輝き快刀乱麻を断つ、アルバン・ベルク四重奏団の意気込みで、若きベートーヴェンの鼻息に迫っているようだ。ベートーヴェンの作品ジャンルの金字塔と言えば、9曲の交響曲、32曲のピアノソナタ、それに弦楽四重奏曲が16曲の三本柱というのは、誰もが意見一致するところでしょう。初期弦楽四重奏曲は、1番から6番までをまとめた形で「作品18」として楽譜出版されました。生れ故郷のボンからウィーンに移り住んでからの最初の10年間にあたる、1798年から1800年の2年間に集中して書かれました。ベートーヴェン自身がこの楽章を「ロメオとジュリエットの墓場の場面を思い描いた」という逸話が残されているアダージョ楽章を持つ、第1番は魅力的。第4楽章の中間部では、「エロイカ」の終楽章によく似た音型が登場します。第5番では、美しいメヌエットに続く、変奏形式の長大なアンダンテ・カンタービレが傑作です。穏やかな主題が変奏ごとに力強さを増してゆき、最後には高らかな勝利の行進の歌となるのがユニークで、終楽章では「運命交響曲」の第1楽章の原型となるような音型が登場するところにも興味津々。第6番では、第2楽章の悟ったような美しさと哀しみは中期以降を想わせます。終楽章に『メランコリー』と名付けた序奏を置くのもユニークで、ベートーヴェンらしい独創性を感じます。6曲の実際に書かれた順番は、3番ニ長調、1番ヘ長調、2番ト長調、5番イ長調、6番変ロ長調、4番ハ短調という順番です。出版の際に順番を入れ替えたのは、ヴァイオリニストで友人でもあったイグナーツ・シュパンツィッヒのアドヴァイスによるものだそうです。最後に書かれた第4番はハ短調で書かれていだけに、悲壮感を伴う傑作として人気が高く、特に緊迫感と激しさを持つ第1楽章と第4楽章は聴きどころです。まだまだハイドンやモーツァルトの影響を強く残していますが、決して未熟だということでは無く、のちのベートーヴェン作品の芽をあちこちに聴くことが出来ます。また、熟達の演奏家用に書かれた中期以降の演奏難易度の高い作品とは違って、アマチュアの演奏家でも手を出す余地が残されているので、ベートーヴェンの音楽理解の助けにも適している。→コンディション、詳細を確認する
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アルバン・ベルク四重奏団は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスター、ギュンター・ピヒラーにより1970年に結成。ラサール四重奏団に学び、ウィーンの音楽の伝統を尊重し、20世紀の音楽に対するプレーヤーのコミットメントを示すために、そしてアルバン・ベルク未亡人によって〝アルバン・ベルク四重奏団〟という名前の使用を許可され、1971年ウィーン・コンツェルトハウスでデビューし、忽ち国際的に活躍の場を拡げました。その名は、膨大なレコーディングによっても知られ、ベートーヴェン、ブラームス、バルトーク、ヴェーベルン、ベルクの弦楽四重奏曲全曲や、カーネギー・ホール、ウィーン・コンツェルトハウスなどでのライヴ録音など、多くの名盤が30以上の国際的な賞を受賞。ウィーン古典派とロマン派の伝統、また新ウィーン楽派との彼らの密接な関係を象徴し、更に現代音楽まで幅広いレパートリーをもち、ウルバンナー(1973、1993年)、ライターマイヤー(1974年)、ハウベンストック=ラマティ(1974、1978年)、フォン・アイネム(1976年)、ヴィムベルガー(1980年)、リーム(1983年)、シュニトケ(1989年)、ベリオ(1994年)、バルギールスキー(1999年)、シュヴェルトシク(2003年)らの作品を初演しています。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲録音は2度行われ、最初はスタジオ録音、2度目はウィーン・コンツェルトハウスでのライヴ録音でCDと映像でリリースされました。アルバン・ベルク四重奏団は、2005年、ヴィオラのトマス・カクシュカを死によって失うという悲劇に見舞われた。残されたメンバーは、彼らの信念とカクシュカの遺志を継いで、イザベル・カリシウスと共にコンサート活動を続けました。
- Record Karte
- Violin – Günter Pichler, Gerhard Schulz, Viola – Hatto Beyerle, Cello – Valentin Erben. Recording Producer – Gerd Berg, Balance Engineer – Johann-Nikolaus Matthes. Recorded at Evangelische Kirche, Seon, Switzerland. 録音:弦楽四重奏曲第1番ヘ長調Op.18-1(1980年6月6日~14日)、弦楽四重奏曲第2番ト長調Op.18-2(1981年4月11日~15日)、弦楽四重奏曲第3番ニ長調Op.18-3(1981年1月25日~30日)、弦楽四重奏曲第4番ハ短調Op.18-4(1981年6月8日~13日)、弦楽四重奏曲第5番イ長調Op.18-5(1981年4月10日~15日)、弦楽四重奏曲第6番変ロ長調Op.18-6(1980年6月8日~16日)。
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