34-20117
不滅の名盤 ― リヒテルのピアノ演奏は、その内面からくる音楽解釈の深さと卓越した技巧により常に私たちを魅了し続けており、現在でも多くの音楽ファンは楽曲の本質的な演奏をリヒテルに求めています。米ロの冷戦の最中、1960年の西側登場以前、以後ともに豊富な録音が残されていますが西側のオーケストラとの共演はリヒテルには戸惑いが強かったようだ。我こそはと独奏者と指揮者など無視したフランス最高と云われるオーケストラ、カラヤンとの共演は第2楽章のカデンツァが終わったところで伴奏開始の合図を入れるようカラヤンに頼んだが拒否。それが演奏に影響したと不満を明らかにしているのは良く知られている。しかし、フィッシャー=ディースカウの伴奏での不満は歌手は自身の演奏効果を上げるために子音を強調するので音の流れが途切れ易く、その余情を合わせるのにピアノに遅れ気味に入るように求めたらしくリヒテルは伴奏するのに苦労したようだ。作曲家は楽譜を処分することで満足できるものを残せますが、楽器から一旦放たれた音はやり直せない。豊かさは良いことばかりではありません。リヒテルのレパートリーはバッハから20世紀の同時代の音楽まで多岐にわたる。そうした膨大なレパートリーを誇る一方で、独自の見識に基づいて作品を厳選していたことも特徴的である。例えばベートーヴェンのピアノソナタで言えば「第14番」や「第21番」のような人気曲を意図して演奏しなかったし、5曲の協奏曲の中では「第1番」と「第3番」のみをレパートリーにしていた。それぞれライヴも含め何種類かの録音を遺している。中でもとりわけよく知られているのが「第1番」では1960年、米RCA録音のミュンシュ指揮ボストン交響楽団、「第3番」がこのクルト・ザンデルリンク指揮ウィーン交響楽団のものであろう。そう、これはあの録音と同じセッションで指揮者を変えての演奏。いずれもオリジナル・ステレオ録音で半世紀余りを経た現在も不滅の名盤として輝いている。
さて、本作の成立史はやや長い。スケッチは1796年にまで遡り、そこには「《ハ短調協奏曲》のカデンツァにティンパニを」という書き込みが見つかる。この事実から、ベートーヴェンが着想時は軍楽隊的な性格も念頭に置いていたことが分かる。当初は1800年4月2日の初演を目指していたが冒頭楽章しか完成しておらず、代わりにハ長調の《第1番》協奏曲が演奏されている。ようやく3年後に行われた初演ではベートーヴェン自身がピアノ独奏を務めたが、即興であったという。独奏パートの楽譜が完成したのは翌年7月の再演で、作曲者の弟子フェルディナント・リースが独奏を務めたときのことだ。その楽譜の終楽章に従来のピアノでは出せない4点ハ音(c4)が現れるのは、その頃、エラール社が音域の拡張された最新型ピアノをベートーヴェンに寄贈していたからである。このピアノ協奏曲は、第1・2番とはやや間隔を空け《第3交響曲》とほぼ同じ時期に完成した。前作よりも一層ベートーヴェンらしさが増しているが、それは《悲愴ソナタ》や《運命交響曲》と同じハ短調というベートーヴェン的な調の選択にもよっているのかもしれない。一般に本作は作曲者が「英雄的様式」を築いた記念碑的な作品として位置づけられているが、その要因のひとつに「ハ短調」という調選択が挙げられるだろう。18世紀後半以降の作曲家にとって、ハ短調には独特の意味があった。ピアニスト・音楽学者のチャールズ・ローゼンはハ短調作品に、主題提示における「ドラマとパトス(情念)」の両立という特徴をみいだしている。この特徴は例えばハイドンの《交響曲第78番》やモーツァルトの《ピアノ協奏曲第24番》を通して、ベートーヴェンにも受け継がれた。具体的には、ピアノ独奏が最初に提示する主題の、ユニゾンのオクターヴで c ― e♭と主題がフォルティッシモで開始され、直後のフレーズをピアノで対比するという手法だ。作曲当時はまだ短調作品は最終楽章に至って長調になって終わる、つまり聴衆への耳触りの良いサービスをもって書かれるというのがスタンダードでした。上記のハイドンの《交響曲第78番》もそうですし、モーツァルトの《ピアノ協奏曲第20番》もそこだけは妥協しています。ベートーベンの「3番」は終楽章を短調で始めますが最後こそ妥協です。19世紀、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中で最も愛され頻繁に演奏された。尚、この「第3番」のレコード第1面の頭にはベートーヴェンが協奏曲「第2番」の「第3楽章」に意図されたと云われる「ピアノと管弦楽のためのロンド」が収録されている。文句なく豪快ないつものリヒテルで、ザンデルリングの指揮ともども重厚巨大な音楽で圧倒します。
1962年9月ウィーン、ステレオ・セッション録音。
DE DGG SLPM138 848 スヴャトスラフ・リヒテル ベー…
DE DGG SLPM138 848 スヴャトスラフ・リヒテル ベー…