34-12204
商品番号 34-12204

通販レコード→独ブルーライン盤[オリジナル]
クーベリックの清楚で無垢な表現が白鳥騎士の物語に適性を見せたスケール感のある雄大な ― LPレコード時代には優秀録音を誇っていた。 ― ラファエル・クーベリックには「その音楽は概して中庸で、素朴な味わい云々」といった評が付いてまわる。商業録音の成果に関して多く言われていたことで、音楽的特質においてクーベリックは一種フルトヴェングラー的な気質を持っていたとされ、個性的だが、あざとくないアゴーギグ。例え方を変えれば、演歌すれすれの泣き節。激しくも気高い情熱。心憎いまでの絶妙な間の取り方。そしてオーケストラとの阿吽の呼吸。ザックバランな言い方をすれば、ぶっ飛び破廉恥演奏ではないが、間違っても退屈な優等生演奏ではない。かえって要所要所で「おっ、おぅっ」と仰け反らされるテクニシャン。とはいえ、それも絶対的な安心感で身を任せていられる。全体的に湧き立つような早めの推進力のあるテンポが採られ、その中で野卑にならないギリギリのところで見事な緩急が付けられています。細部の彫琢は入念に整えられており、ちょっとした打楽器や木管のアクセント一つが意味深く響き、対旋律が埋没することなく絶妙なバランスで引き立つよう目配りされている。熱狂と哀愁とが絶妙に交錯する作品の本質を、あくまでも自然な流れの中で描き出す手腕は全盛期のクーベリックならではといえるでしょう。まず歌手が往年のスターばかりで大変感動的な歌を聞かせます。ジェイムズ・キングのローエングリン役、グンドゥラ・ヤノヴィッツのエルザ役はそれぞれのベストと評価も高く、グィネス・ジョーンズのオルトルート役も強烈、さらにトマス・スチュアートのテルラムント役と名歌手たちが揃い、筆頭は物語世界でも疑いなくハインリヒ国王のカール・リッダーブッシュと、キャストの充実ぶりで有名な録音です。クーベリック盤が何より出色なのは、エルザを歌うヤノヴィッツ。ワーグナーの諸役としては、決して重量級ではないのも幸いしてか。これがロマン派のひとつの典型であることを知らしめるものでした。
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弦の国チェコの黎明期を支えた大ヴァイオリニスト、ヤン・クーベリックを父に持つサラブレッドの音楽家ラファエル。若くして指揮者デビュー、ターリッヒと伴に1930年代からチェコの楽団を支えたが、1948年祖国のクーデターによる政治体制崩壊を契機に米国に亡命、1950〜53年シカゴ交響楽団の常任時代、反共産主義の反発に遭い不遇の時代と揶揄されていますが、同時期に英 EMI 社や独 DGG と契約。その DGG の強い要請で実現したのが本盤。制作陣の取り組みも入念で、録音面に於いて何とも云えないみずみずしい躍動感を引き出し、共々オペラのレコード製作に対して不偏の熱い想いを汲み取るに足る名演を展開しています。クーベリックの清楚で無垢な表現の特徴が、ことワーグナーだと聖杯を守る白鳥の騎士・ローエングリンや聖杯物語・パルジファルに適性を見せているのか、いつものクーベリック以上にスケール感のある雄大な演奏を聴かせており、目が覚めるような鮮明さと積極果敢なアプローチによって、この作品に不可欠な、透明な叙情性や沸き立つような旋律の刻みやリズム感を描き出しており、さらにはドライヴ感のある盛り上がりも素晴らしく、オーケストラも明快でキレのよい反応で指揮に応えていて、超越的な深い世界に沈滞していく事無く、有機的でしなやかな稜線を描きながら見事なアンサンブルを聴かせています。ローエングリンの神聖は聖杯の城、森に由来し、歌と同じぐらいに品位と背景にあるものの大きさの表現が必要です。動物はたくさん出て来ますが、森は出てこないのに、それでも手兵のバイエルン放送交響楽団の伝統の裡に生まれ、深く幻想を感じさせます。第2幕の婚礼を前にして合唱を含めた各登場人物の心理の揺らめきが、管弦楽その他によって臨場感を得ている。その場の大衆の感情の転換、空気が変わるのが手に取るようにわかる。こうした音楽だけで一種のスペシャリストを築き、歌手もその線に沿っていると総合力の高さを実感できるものです。
ワーグナーは1813年、ドイツのライプツィヒに生まれた。彼の父親は警官だったが、ワーグナーが生まれて半年後に死んでしまい、翌年母親が、俳優であったルートヴィヒ・ガイヤーと再婚した。ワーグナーは、特別楽器演奏に秀でていたわけではなかったが、少年時代は音楽理論を、トーマス教会のカントル(合唱長)から学んでいた。これが後の彼の作曲に大きな役割を果たすことになる。23歳の時には、マグデブルクで楽長となり、ミンナ・プラーナーという女優と結婚した。1839年ワーグナー夫妻はパリに移り、貧困生活を味わった後、彼のオペラ「リエンティ」の成功で、ザクセン宮廷の楽長となった。しかし幸せは長く続かず、ドレスデンで起こった革命に参加した罪で、彼は亡命を余儀なくされる。スイスに逃れた彼は、友人の助けで作曲を続け、1864年、やっとドイツに帰国することが出来た。とはいえ、仕事もなく、彼は借金まみれになってしまった。そのときバイエルンの国王で彼の熱烈な崇拝者だったルートヴィヒ2世が救いの手を差し伸べてくれた。彼らの友情は長続きしなかったが、その後ワーグナーはスイスに居を構え、1870年リストの娘であるコジマと再婚し(ミンナは少し前に死去)、バイロイト音楽祭を開くなど世界的な名声を得た。彼のオペラはそれまで付録のようについていた台詞を音楽と一体化させるという革命的なもので、多くの作曲家に影響を与えた。しかし、第2次大戦中ナチスによって彼の作品が使用されたため、戦中戦後は正当な評価を受けることが出来なかった。
乙女を危機から救い出す白馬にまたがった騎士ならぬ、白鳥の騎士。弟王子殺しの濡れ衣を被せられ刑場の露と消えるところだったエルザ姫を救いに現れた騎士は白鳥の引く船に乗っているコミカルな登場で、国を転覆させるために王子は魔法で白鳥の姿に変えられている。外題役が聖杯守護騎士の由来をもつパルジファルの息子、ローエングリンよりも上に置かれます。ハインリヒ王の出番は決して多くはありません。しかし、領主であるハインリヒ王の監督下におかれる神明裁判、その治世下であるということが「ローエングリン」の物語を読み取る上で重要です。もちろん、作曲者とそのパトロンであったルートヴィヒ2世の庇護を重ねてみることもできるかもしれません。その生活の困窮より救い出し、バイロイトの出現という国家を動かして、のちのナチスと不幸な歴史を辿ったことを思えば、その萌芽がすでに「ローエングリン」のもつロマンティックで深淵な音楽にあったかもしれません。王の道楽も「ローエングリン」に題材をとってますし王の助力なしに、バイロイトの成功はありえませんでした。白鳥と森、聖杯伝説が一緒になって、寝物語調。白鳥そのものはチャイコフスキーが「白鳥の湖」で描いたヨーロッパの伝説とも、その根源は共通するもの。この白鳥説話も歴史が古く、これがただの白鳥ではなく、人間に戻る、異類婚姻譚などにもつながっています。ニーベルングの指環の劇詩を贈られて感想を求められたショーペンハウアーが「彼は詩人ではあるが、音楽家ではない」と書いているが、一音楽家の創造物を超えて、世界音楽となっていく原動力。その劇中の音楽がすべて劇中の詩的表現や描写に供している。「ドイツの芸術を称えよう」の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の世界観以上に、たとえばイタリアでも ― 数多いイタリア・オペラの恋愛劇でも同じシチュエーションはないと思えるありのままに婚姻における、男女が求める愛の行き違いとして楽しみやすいことも理由でしょうが ― 「ローエングリン」だけは採り上げられる。結婚初夜にして別れが待っているというのに「結婚行進曲」はおごそかに響き、ドミンゴも声を荒らしつつも外題役に取り組むほどです。チャップリンの映画『独裁者』では、そのファシズムが危険な方向に向かうのが揶揄されるのに「ローエングリン」の音楽が姿を替え登場し、最後の大演説では前奏曲が浄化するように響きます。
解説書付属、1971年4月ミュンヘン、ヘラクレスザールでのセッションステレオ録音。
DE DGG  2720 036 クーベリック ワーグナー・ローエン…
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