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秘蔵っ子ムターの成長のために ― ヘルベルト・フォン・カラヤンの録音で一番充実しているのは1970年代後半から1980年代前半の録音。「ベルリン・フィルを使って残しておきたい」と念願込めて再録音の多いチャイコフスキー、ドヴォルザーク、ベートーヴェンと1970年代の演奏は緊張感が違うと思う。円熟してカラヤン節の極みとでも言える。レコード録音の壺を先天的に把握していたカラヤンのオーケストラの鳴らしっぷりは、ダイナミック・レンジが非常に大きい。ノイズに埋もれないレコード録音の理想を手に入れて弱音部では繊細きわまりない音楽を作り出し、強奏部分では怒濤の迫力で押してくる。その較差、落差と云ってもいいのかな、他の指揮者ではなかなか見られないカラヤン流の演出だ。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の迫力も頂点に達している。個々の楽器が当然のように巧いし、全体がよく揃っている。アンネ=ゾフィ・ムターもカラヤンの意図を良く理解している。カラヤンの教えに忠実に弾いているのか、2人共に同じ目標を目指していたからか、現在のムターのスタイルも延長線上にあるのでカラヤンの美点を吸収したのかもしれない。カラヤンはこれ以前にスヴャトスラフ・リヒテル、ダヴィッド・オイストラフ、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチという凄いメンバーと英EMIに録音しているが、時代も変わり顔ぶれは変わったけど、まぁメンバー的には凄い!?と言っていいのかも知れません。カラヤンの秘蔵っ子ムターはティーンズの頃からカラヤンと共演を重ね、数々の名協奏曲を録音してきました。カラヤン・マニアの私もつられて彼女のLP/CDを何枚か購入しました。可憐さが先立ってたモーツァルト。カラヤンの胸に上手く乗り込み、胸に潜りこんだなと感じたメンデルスゾーンとブルッフ。アイドルの成長を楽しむように、以来かかさず ― カラヤンの死後は唯一位牌を受け継いでいる真に秘蔵っ子だったなと ― 追っかけるように聴いています。リベルタンゴでクラシック音楽に日頃親しみが無かった層にも極めて高い評価を受けているチェリスト、ヨーヨー・マとの共演も、カラヤン指揮ベルリン・フィルのネームバリューあってこそ、このレコードは現在のムターの重大事だったと思います。ヨーヨー・マにも影響を与えたと思いますが、秘蔵っ子ムターの成長のために取り計らわれたような、このアルバムは、そうしたカラヤンの特質と魅力が十全に発揮された一枚ともなっています。… 反面、アンチ・カラヤンを増やしたきっかけにも成ったでしょうが。1979年にベルリン・フィルハーモニーで録音された、音場はワンポイント録音のような広がりがあり、ドイツ・グラモフォンらしい切れもある。初期のデジタル録音の良さが出た優秀録音盤と言っていい。 … 念を押しますが、ベートーヴェン・傑作の森の作品ながら、三重奏曲はチェロに重きがあって、ピアノの扱いとのアンバランスが問われることなどで演奏に接する機会が少ない。門出を各自が心に刻むような、明朗な音楽ですが、ヴァイオリンの存在が全曲中の重要な要になる、この曲のその面白さがわかるようになってから聴きましょう。
ヘルベルト・フォン・カラヤン(Herbert von Karajan オーストリア 1908〜1989)はその魅力的な容貌と優雅な身のこなしでたちまちにして聴衆の人気をとらえ、たんにこの点から言ってもその人気におよぶ人はいない。しかも彼の解釈は何人にも、そのよさが容易に理解できるものであった。芸術的に高度のものでありながら、一種の大衆性をそなえていたのである。元来レパートリーの広い人で、ドイツ系の指揮者といえば大指揮者といえども、ドイツ音楽にかぎられるが、カラヤンは何をやってもよく、その点驚嘆に値する。ドイツ、オーストリアの指揮者にとって、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスは当然レパートリーとして必要ですが、戦後はワーグナー、ブルックナーまでをカバーしていかなくてはならなくなったということです。カラヤンが是が非でも録音をしておきたいワーグナー。当初イースターの音楽祭はワーグナーを録音するために設置したのですが、ウィーン国立歌劇場との仲たがいから、オペラの録音に懸念が走ることになり、彼はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団をオケピットに入れることを考えました。カラヤンのオペラにおけるEMI録音でも当初はドイツもの(ワーグナー、ベートーヴェン)の予定でしたが、1973年からイタリアもののヴェルディが入りました。EMI がドイツものだけでなく広く録音することを提案したようです。この1970年代はカラヤン絶頂期です。そのため、コストのかかるオペラ作品を次々世に送り出すことになりました。オーケストラ作品はほとんど1960年代までの焼き直しです。「ベルリン・フィルを使って残しておきたい」というのが実際の状況だったようです。この時期、新しいレパートリーはありませんが、指揮者の要求にオーケストラが完全に対応していたのであろう。オーケストラも指揮者も優秀でなければ、こうはいかないと思う。歌唱、演奏の素晴らしさだけでなく、録音は極めて鮮明で分離も良く、次々と楽器が重なってくる場面では壮観な感じがする。非常に厚みがあり、「美」がどこまでも生きます。全く迫力十分の音だ。そして、1976年にはウィーン・フィルから歩み寄り、カラヤンとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は縒りを戻します。カラヤンは1977年から続々『歴史的名演』を出し続けました。この時期はレコード業界の黄金期、未だ褪せぬクラシック・カタログの最高峰ともいうべきオペラ・シリーズを形作っています。
  • Record Karte
  • 1979年9月ベルリン、フィルハーモニーでの、ステレオ・セッション録音
  • DE DGG 2531 262 カラヤン ベートーヴェン・ピアノ、ヴ…
  • DE DGG 2531 262 カラヤン ベートーヴェン・ピアノ、ヴ…
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番、三重協奏曲
カラヤン(ヘルベルト・フォン)
ユニバーサル ミュージック
2014-05-21