商品名DE DEC KD11025/1-2 ゲオルク・ショルティ ワーグナー・ワルキューレ

《大歌手フラグスタートの深く偉大な声 ― ブリュンヒルデとヴォータンのやりとりはドラマティックで素晴らしい説得力が備わっている。》キルステン・フラグスタート(1895-1962)といえば、歴代ワーグナー歌手の中でも最高の名声をほしいままにしたことでも知られる伝説的な存在。1930年代半ばには既に世界的な大歌手として活躍していたフラグスタートは、1953年にはオペラのステージから引退してしまいます。しかし幸いなことにデッカは、引退していた彼女を粘り強く説得して、当時開始されて間もなかったステレオ・レコーディング技術によって、その偉大な声を良い音質で残すことに成功したのです。オペラの録音は、『ワルキューレ』第1幕全曲でのジークリンデ役と、第3幕全曲でのブリュンヒルデ役、そして『ラインの黄金』全曲でのフリッカ役というものですが、第3幕では、冒頭「ワルキューレの騎行」から若き日のショルティが緊迫感あふれる音楽をつくりあげており、ブリュンヒルデとヴォータンのやりとりはドラマティックで素晴らしい説得力が備わっています。もちろん、終盤「ヴォータンの告別」と「魔の炎の音楽」も見事です。
ブリュンヒルデ「ジークムントよ、私の言葉を聞きなさい」 ジークムント「あなたはどなたですか?」 ブリュンヒルデ「あなたをヴァルハラへ迎えに来たのです」 ジークムント「そこには誰がいるのですか?」 ブリュンヒルデ「神々の長ヴォータンと、英雄たちと、希望の乙女があなたを歓迎します」 ジークムント「そこで私はジークリンデに会えますか?」 ブリュンヒルデ「ジークリンデに会うことはできません」 ジークムント「ならば、ヴォータンや他の方々によろしくお伝えください。私はヴァルハラへは行きません」 ジークムントの問いかけに出てくる「死の予告の動機」、ブリュンヒルデがヴァルハラについて語る時の「ヴァルハラの動機」「ワルキューレの動機」「憧れの動機」など、数多くのライトモティーフが巧緻に組み合わされ、ジークムントの問いかけと、それに応えるブリュンヒルデの対話が、たいへん効果的に描かれる。この場面の後に続く、ブリュンヒルデが父親であるヴォータンの指示をあえて裏切る場面は、「指環」全曲のうち最大の転換点であり、ここから本筋のストーリーが始まるという点では、決して軽んじられる場面ではない。
クナッパーツブッシュで全4部作録音を企てた目論見は空中分解。フラグスタートの希望でジークリンデを歌った第1幕が終わり、第2幕の冒頭に高い音が出てくるので、これを彼女が嫌ったためだという。それが、1957年10月28~30日のこと。その半年前に、第2幕の《死の予告》と第3幕でブリュンヒルデを歌い、録音がされていたのは嬉しいことだ。大指揮者から視野を変えて、ショルティで開始した録音は、《ラインの黄金》、《ジークフリート》、《神々の黄昏》と来て、最大の目玉《ワルキューレ》に至るまで足かけ8年の歳月を費やしてデッカによってスタジオ制作された。ワーグナー歌手に事欠かなかった時代だったが、過ぎ行く年月は統べなく歌手を同じくするのは至難なことだ。キャスティングの面でも紆余曲折あり、フリッカにヴァルナイを頼んだが断られてルードヴィヒに頼んだとか。ジェームズ・キングが神経質になっていたので、カルショーは録音を終えると一旦告げる。明日、続きを録音するためだからとでもリハーサルをさせたのか、楽譜を見ないで二人に歌わせたら、それがリラックスしたものになった。この時、録音テープはまだ回っていたのだ。だまし討ちだったかもしれないが、功を奏したジェームズ・キングと、レジーヌ・クレスパンの恋人たちの場面は自然な雰囲気が出ている。歌手の出入りがワルキューレは最も頻繁。本盤は、予行練習であり、フラグスタートの声が問題なく、クナッパーツブッシュで全曲録音できていたら世に出なかっただろう。
レコードのステレオ録音は黎明期(れいめいき)1958年から、FFSS ( Full Frequency Stereo Sound )と呼ばれる先進技術を武器にアナログ盤時代の高音質録音の代名詞的存在として、英国 DECCA が先頭を走っていた。1958年より始まったステレオ・レコードのカッティングは、世界初のハーフ・スピードカッティング。 この技術は1968年ノイマン SX-68 を導入するまで続けられた。英 DECCA は、1941年頃に開発した高音質録音 ffrr の技術を用いて、1945年には高音質 SPレコードを、1949年には高音質 LPレコードを発表した。その高音質の素晴らしさはあっという間に、オーディオ・マニアや音楽愛好家を虜にしてしまった。その後、1950年頃から、欧米ではテープによるステレオ録音熱が高まり、英 DECCA は LP・EP にて一本溝のステレオレコードを制作、発売するプロジェクトをエンジニア、アーサー・ハディーが1952年頃から立ち上げ、1953年にはロイ・ウォーレスがディスク・カッターを使った同社初のステレオ実験録音をマントヴァーニ楽団のレコーディングで試み、1954年にはテープによるステレオの実用化試験録音を開始。この時にスタジオにセッティングされたのが、エルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団の演奏によるリムスキー=コルサコフの交響曲第2番「アンタール」。その第1楽章のリハーサルにてステレオの試験録音を行う。アンセルメがそのプレイバックを聞き、「文句なし。まるで自分が指揮台に立っているようだ。」の一声で、5月13日の実用化試験録音の開始が決定する。この日から行われた同ホールでの録音セッションは、最低でも LP 3枚分の録音が同月28日まで続いた。そしてついに1958年7月に、同社初のステレオレコードを発売。その際に、高音質ステレオ録音レコードのネーミングとして ffss( Full Frequency Stereophonic Sound )が使われた。以来、数多くの優秀なステレオ録音のレコードを発売し、「ステレオはロンドン」というイメージを決定づけた。
ヒストリカル・ファンには、1957年当時のウィーン・フィルの非常に個性豊かな音色が、デッカの鮮明なサウンドで収録されているのがなんとも嬉しいところで、これにフラグスタート、スヴァンホルム、エーデルマンといった凄い声の歌手たちが絡んでくるのだからたまりません。この録音で聴くフラグスタートは、さすがにブリュンヒルデらしい「おてんばさ」「若々しさ」には欠ける印象だが、その分最終場面におけるエーデルマンが歌うヴォータンとの長いやりとりは、非常に説得力がある。もはや父と娘というより年かさを経た大人同士の議論であり、深々とした立派な声での説得は圧巻。最中、「ブリュンヒルデの哀願」の動機を2回、長調で長々と延ばし歌いきる名場面はまさに絶唱であり、聴いていて鳥肌が立つ。ブリュンヒルデ:キルステン・フラグスタート(ソプラノ)、ヴォータン:オットー・エーデルマン(バス)、ジークリンデ:マリアンネ・シェヒ(ソプラノ)、ゲルヒルデ:オーダ・バルスボルグ(ソプラノ)、オルトリンデ:イローナ・シュタイングルーバー(ソプラノ)、ヴァルトラウテ:グレース・ホフマン(メゾ・ソプラノ)、ヘルムヴィーゲ:クレア・ワトソン(ソプラノ)、ゲルヒルデ:オーデ・バルスボルク(ソプラノ)、シュヴェルトライテ:マーガレット・ベンス(アルト)、ジークルーネ:アニー・デロリー(アルト)、ロスヴァイゼ:ヘティ・プリュマッハー(アルト)、グリムゲルデ:フリーダ・レースラー(ソプラノ)。1957年5月13~17日、ウィーン、ゾフィエンザール録音。プロデューサー:ジョン・カルショー、エリック・スミス、エンジニア:ジェイムズ・ブラウン。
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